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第25話 帰還

「俺はイールがいい。イールが居れば俺は際限なく魔術を放てるし、冒険者としてのノウハウを教えて貰える。そのかわり俺はイールに魔術の使い方や呪文を教える事ができると思うんだ」 そう言われてしまうと確かにWinWinの関係かもしれないけど。 パーティーを組んだ初めてがオレとで、ひとりでいるより相当ラクだったってだけな気がするから、色んな人とパーティー組んでみればいいのに、と思わんでもない。 「あっ、魔法石に魔術を込める事もできるし、上位の魔物を倒せるから結構稼ぎもいいと思う。絶対に損はさせないと誓うから」 考えてるうちになんでだかアクセル様が一生懸命に言いつのるもんだから、オレは呆気にとられてアクセル様を呆然と見つめてしまった。 「ええと、それに……そうだ、転移も使えるし結界も張れるから、今みたいに旅先でも割と安心して眠れるし、イールが望むならしっかりしたベッドやテーブルセットも買おう。高性能なマジックバッグを買えば」 「分かった! 分かったから」 どんどん積み上がっていくアピールポイントに、ついにオレは笑ってしまった。 「そんなに一生懸命に言ってくれなくても、アクセル様が凄いのなんて分かってるよ。アクセル様がオレなんかでいいんなら、むしろ喜んでパートナーになるさ。ただ、他に仲間になる人はオレみたいな劣等生がいるのは嫌かもな」 「他に? 他に仲間なんて不要だろう」 真顔で言われて絶句した。 本格的に冒険者になるなら、普通は剣士とかシーカーとかアーチャーとかヒーラーとか……何人かで組むもんだ。 でも。 確かに考えてみりゃこの人、剣で魔物ぶった斬れるし、遠距離攻撃も範囲攻撃も回復系も……なんでもござれな魔術師だった。唯一の不安点だった魔力の枯渇もオレがパートナーになる事で解消されてしまうわけで。 ……確かに不要と言われればそうかも。 「それに、人が増えると余計な争いが増えたりするから……俺はそういうのは苦手だ」 苦い顔でそう言われたら、それもそうかと納得せざるを得ない。 ダメダメで有名なオレと違って、アクセル様は良くも悪くも目立つから、仲間を募れば憧れてる人も殺到するだろうし、逆に難癖付けてくる人も一定数いそうだ。 アクセル様と一緒に行動するようになって、できが良すぎるのも面倒ごとが多いんだと知った今では、アクセル様の主張が現実味を持って理解できる。 「それもそうかもね。とりあえず二人でパーティー組んでみて、どうしてもヤバそうならその時に改めて考えればいいんだもんな」 「では……!」 「うん、よろしく!」 「ありがとう……!」 目を輝かせて喜ぶアクセル様を見て苦笑する。どう考えたってオレの方がお礼を言わなきゃいけないと思うんだけど。 でも、こんなにも喜んでくれるならまぁいいか。 その夜は満天の星空の下お互いのこれまでのことなんかをたくさん話して、めちゃくちゃ楽しい時間を過ごした。 夜通し友人と他愛もない話をして笑い合うなんて孤児院を出てからは初めてで、眠るのが勿体無いような、満たされたような、不思議な気持ちになったオレだった。 翌朝は速攻で魔術学校に帰ったオレ達だけれど、アクセル様に連れられて向かったのはなんと学長室。 帰還したら分かるようになっている、速やかにテラード教諭をはじめとした教員に成果報告をするように、という説明があったと思うんだけど……と思ってる内に学長室に通されてしまった。 「失礼します」 「おおアクセラード君、イール君、随分と早い帰還じゃのぅ。良い成果は得られたかの?」 突然の訪問だというのに、にこにこと優しい笑みを浮かべてそう声をかけてくれる学長様。相変わらずめっちゃ優しい。爺ちゃんとかいたら、こんな感じなのかぁ、そうだといいなと思わせてくれるお爺ちゃんだ。 「はい。イールがパートナーだったおかげで、自分でも驚くほどの素晴らしい成果を上げることができました。本日はそれを直接ご報告したく、お時間をいただきました」 アクセル様が簡潔にそう答えて、オレもやっと理解する。 そうだったのか……! まぁ確かに学長だって教員のひとりと言えば言えるもんね。ていうか、どの教員よりも正当に評価してくれる気もする。 報告しようとアクセル様が口を開いたのとほぼ同時に、廊下を走る騒がしい音がして、学長室に誰かが飛び込んできた。 ひょろりとした細身に特徴的な山羊髭。猛ダッシュしたのかいつになく乱れた髪、ずれ落ちそうなモノクル。 うわぁ……学年主任のテラード教諭だ。 オレはこっそりため息をつく。日常的にイヤミを言われすぎて、顔を見るだけでも気が滅入るんだけど。 血相を変えて息を切らしたテラード教諭は、オレ達を見るなり額に青筋を立てて怒鳴りつける。 「貴様ら! なぜ私に報告に来ない! 帰還した者は速やかに学年主任たる私、もしくは他の教諭に成果報告するよう、何度も言い渡したはずだぞ!」 テラード教諭の怒りの矛先がオレ達に向いているのを見て、アクセル様は静かに頭を下げた。 「テラード教諭、申し訳ございません。学長にご報告の後、改めて教諭のところへ伺うつもりでおりました」

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