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第26話 成果の報告

「言い訳をするな! 報告は報告だ、なぜ順番を違える! 公爵家の息子だからといって、好き勝手していいと思っているのか!」 テラード教諭の詰問に、アクセル様は何も言い返さない。オレは、テラード教諭の剣幕に肩をすくめた。 テラード教諭は、アクセル様とオレのこと、とことん嫌ってるからな……。 騎士の家系に生まれたくせに人一倍魔術の才能があるアクセル様のことは、魔術師団の出身である教諭にとって存在自体が癪に障るっぽいし、オレはオレで、落ちこぼれすぎるからと嫌われている。 このままテラード教諭に報告しても、きっとまともな評価はして貰えない気がして仕方がない。 それにひきかえ学長様は、オレからしたら誰しもを見守り導いてくれる優しくて頼もしい指導者で、公正な判断をしてくれるだろうって安心感がある。 そう思うと、アクセル様が学長様に報告しようとした気持ちが分かった気がした。 「まあまあテラード教諭、落ち着きなさい。わしも彼らの成果はこれからなのじゃよ。それで、アクセラード君、イール君。成果というのは具体的にどのようなものだったのかね?」 学長様が穏やかに仲裁してくれて、テラード教諭は不機嫌そうにしながらも、渋々といった様子で椅子に腰かけた。 アクセル様は、学長様とテラード教諭の両方を交互に見ながら、静かに口を開いた。 「はい。今回の冒険で、B級魔物を五体、討伐いたしました」 その言葉に、テラード教諭は不敵な笑みを浮かべる。 「ほう? B級魔物を五体だと? たったこれしきの時間で五体など、探すことすら叶わぬわ。すぐ露見するような嘘をつくとは、よほど悲惨な成果だったか?」 あ、やっぱりテラード教諭から見てもB魔物をあんなに倒すなんてとんでもないことなんだ、とちょっと納得した。アクセル様が規格外すぎるんだな……。 「いいえ。嘘ではありません。討伐証明の部位も持参しています」 アクセル様は、そう言ってマジックバッグから倒した魔物の爪や嘴など、討伐証明になる素材を取り出していく。その確固たる証拠の山に、テラード教諭は顔を歪ませた。 「くっ……、し、しかし、どう考えてもたった一日二日で五体ものB級魔物を討伐するなどあり得ない。まさか過去の物を保存しておいたのか? ……卑怯な真似を」 「いいえ。実は魔物どうしが戦っているところを運良く見つけまして。血のにおいに惹かれた魔物も含め、効率よく討伐することができました」 アクセル様が淡々とそんなことを言う。もちろんオレは、え? と思った。 事実は美味しそうな魔力を垂れ流していたオレに魔物たちが惹きつけられて集まってきたからこそのB級魔物フィーバーだったんだけど……アクセル様のことだ、何か考えがあって言わないでいるんだろう。 そう思って、オレはとりあえず黙ってアクセル様の言葉を待った。 こういう時はムダに発言しないに限る。 「俺たちが討伐した証拠として、冒険者カードにも記録があります。日付も自動的に記載されている筈ですので、ご確認ください」 そう言って、アクセル様は自分の冒険者カードを取り出す。 学長様がカードをマジックアイテムにかざすと、そこにはアクセル様が討伐した魔物の記録がずらりと並んだ。 ギガントボアをはじめとしたB級魔物の討伐履歴は、討伐場所がフィグテム樹海、日付ももちろん一昨日になっている。 そして次に続く討伐記録に、テラード教諭は目を剥いて驚いた。 「な、なんだと…!?」 昨日、A級魔物のシーサーペントを討伐した記録だ。そりゃあ驚く。 テラード教諭は、震える手で学長様からカードを受け取ると、そこに記された文字を何度も見返す。 もちろん何度見返しても、そこには「シーサーペント討伐」と記されているわけで。 「まさか、貴様……たったひとりでA級魔物を討伐したというのか。王宮魔術師や騎士でも一個師団かけて倒せるか否か……とうてい単騎で討伐できる相手ではないのだぞ」 テラード教諭は声まで震えていた。 顔色が悪いのは、シーサーペントを討伐した事が信じられないのか、それとも畏怖からか。 一方で学長様は驚いてはいるものの、ほう、ほう、ほう、と嬉しそうに何度も頷いている。やっぱり学長様の方が肝が据わっていて大物感があると思う。 「俺だけでは無理でした。イールがいたからこそ討伐できたんです。イールがいなければ、俺は魔力切れでシーサーペントに勝てなかったでしょう」 「まさか! こんな落ちこぼれが何の役に立つというのかね。低級魔術すら発動できぬぼんくらだぞ」 「イールが僕に魔力を供給し続けてくれて……おかげで俺は魔力切れを気にすることなく全力で魔術を放つことができたんです。俺の少ない魔力では、とうてい倒せない相手でした」 「魔力供給だと!? バカなことを言うな」 「俺も驚きましたが、イールが魔力を送ってくれて」 テラード教諭は信じられないといった表情でオレを見て、さらに言葉を続ける。 「なぜ貴様のような落ちこぼれが、幻と言われた『魔力供給』を使える? 貴様、いったい」 「テラード教諭、貴方はいつも生徒をそのように、愚弄しているのかな? 指導者としてあるまじき態度だと思うがの」

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