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第27話 新しい可能性
学長様の言葉に、テラード教諭がハッとしたように口を噤む。
あまりの怒りやら驚きやら興奮やらで、すっかり学長様の前だって事を忘れてたんだろうな。
「今の貴方が正しく成果を判断できるとは思えぬよ。卒業試験の成果報告については、他の講師に依頼するとしよう。そもそも入室を許可した覚えもないしの、退出しなさい」
「ぐっ……! 申し訳、ありません……」
悔しさに顔を歪ませるテラード教諭は、性懲りもなくオレたちを睨みつけてから退出していった。
「やれやれ、テラード教諭が選民思考が強いことはわかっていたが、ここまであからさまになると教諭としては不適格だの。ふたりには申し訳ないことをしたのぅ」
テラード教諭を追い出して、しかも謝ってくれる校長様に、オレはやっと安心できた。
「それにしても、いやはやまさかA級魔物のシーサーペントを討伐したとはのぅ。アクセラード君、イール君、互いに力を合わせてこんなにも大きな成果を残すとは、ふたりの成長の目覚ましさは眩いばかりじゃよ」
学長様の言葉に、オレとアクセル様は顔を見合わせて笑い合う。
「さて、テラード教諭が成果を正しく受け止めるか否かが不安だったこともあろうが、ここにきたのには何か理由があるのではないかの?」
「はい。ありがとうございます。実はお願いがあります」
フォフォフォ、と笑う校長様にアクセル様は真剣な様子で切り出した。
「この試験で強力な魔物を狩ればギルドでのランクアップにボーナスがつくと聞きました。証明か何か必要だったら発行して欲しいと思いまして」
「ふむ、それならばすでに届け出は済ませておるよ。帰還が確認できておるでの、この後にギルドで討伐確認をすれば自動的に反映されるじゃろう」
すげぇ、そんな仕組みなんだ、と素直に感心してしまった。アクセル様もホッとしたように息をつく。
「じゃが、何をそんなに急いでおるのかの。理由を聞いてもよいじゃろうか」
「はい。俺、卒業したら冒険者になろうと思っています。父からは冒険者ギルドでAランクになれれば冒険者として身をたててもいいと言われていて、絶対にAランクに上がりたいと思って今回の試験に挑みました」
「なんと……君ならば王宮魔術師でも騎士でも目指せるというのに」
そう言ってから、学長様は悲しそうに眉を下げた。
「いや、どちらの道も今のアクセラード君には心地よいとは言えまいな。嘆かわしいことじゃ」
「学長もさぞご苦労なさったと思います。俺は学長を尊敬しています」
学長様は平民の生まれだって言ってたよな。
テラード教諭みたいな血筋重視のヤツばっかりに囲まれてたら、そりゃやりづからろう。その中で学長まで上り詰めたんだから、実力もすごいけど根性だって並大抵じゃなかったはずだ。
「誰もが正当に実力で評価される場所にと思って心を砕いておるのじゃが、なかなか難しくての……すまんのぅ」
「俺はこの風潮を、外から壊してみようと思います」
「うむ。同志というわけじゃの」
「はい。今後もお力を貸してください。それに、今回の試験のおかげで、得がたいパートナーも得ました。俺、卒業後はイールと共に旅に出るつもりです」
「そうか、そうか。良かったのぅイール君」
学長様がオレの頭を優しく撫でてくれる。家族という物を持ったことがないオレには、学長様のこの優しいしわしわのあったかい手が無性に嬉しかった。
「学長様、すみませんオレ……せっかくこんなすごい学校に入れて貰えたのに、全然うまくできなくて」
「いいんじゃよ。イール君の中には素晴らしい宝が眠っておる。むしろそれを引き出せなかったのはわしら教師の力不足じゃ。こちらの方が申し訳なくての、わしが直接指導できれば良かったんじゃが」
「それなんですが……もしかしたらイールは魔術を使えるようになるかもしれません」
「えっ」
「ほぅ、そう思うきっかけが何かあったということじゃな?」
単純に驚くオレを前に、学長様はつぶらな瞳を輝かせた。
「はい。実は魔力譲渡の際に、イールと俺の間でなら魔力を受け取ったり渡したりができることが分かりました」
「なんと……! 反発もなく?」
「はい。多分よほど魔力の相性がいいんだと思います。それで、イールと接触したまま魔力の操作を鍛錬していけば、あるいは」
「なるほどのぅ」
「試験もクリアできたので、これからゆっくり、ふたりで研究しようと思っていて」
「オレ、魔法使えるようになるの!?」
「ああ。ふたりで頑張ろう」
にっこりと笑みを作るアクセル様が頼もしい。
もしかしてオレ、本当に魔法が使えるようになるんだろうか。
「そうか、そうか。頼んだよ。この子は磨けば至高の輝きを放つ原石だと思っておるのじゃ」
「はい、お任せください」
がっちり握手を交わすアクセル様と学長様。
オレはしぼんでいた夢が急速に膨れ上がるのを感じて、ただただ嬉しかった。
***
卒業試験を無事にクリアしたオレたちはその足でギルドに行って討伐報告をした。
アクセル様は当然余裕でAランクに昇格したし、なんとオレまで一気にCランクまで昇格した。
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