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第28話 アクセル様のお邸
シーサーペントはオレも一緒に討伐したことにカウントされていて、そのボーナスがえげつなかったからだ。
さすがに他の討伐経験が少なすぎて、一気にBランクに上がることは難しいらしく、そこは今後の討伐実績をみて昇格検討されるらしい。
実際オレがやったことってアクセル様に魔力を補充したくらいだし、それでシーサーペントの討伐ボーナスもらう方が申し訳ないくらいだから、別に異存はない。
そして、晴れてAランクになったアクセル様と一緒に、オレは公爵家に赴く事になった。
正直言って行きたくはない。
けれど、アクセル様が一緒に来てくれないかって言うし、めちゃくちゃ不安そうな顔するし、オレがいるくらいでちょっとでもアクセル様が安心するんなら、ついてくくらいいいかって思ってしまった。
アクセル様と一緒に公爵邸に着いたのはもう夕暮れの時間で、オレはなぜかそのままアクセル様の部屋に通された。まもなく夕食で家族全員が揃う筈だから、そこで話をするらしい。
「そんな家族団らんにオレみたいな部外者が紛れ込むの、かなり気まずいんだけど」
そう言ってみたら、アクセル様はものすごく微妙な顔をした。
「申し訳ないがあまり家族団らんという雰囲気ではないと思う。卒業試験が今日までということは分かっているから、今後の俺の進路について話す意図もあって家族が揃うんだが……」
「進路って……アクセル様が言ってた、Aランクになれたら冒険者になってもいいってヤツ?」
「そうだ。それに多分、父も兄も俺が父から受けた課題を達成できるとは思っていない筈だから、二人はそもそも騎士か王宮魔術師か、どちらを選ぶのかという話をするつもりでいると思う」
「あー……課題ってアレか、Bランクの魔物を五体倒すっていう、普通だったら絶対無理なヤツね」
「うちの家系は代々優秀な騎士を輩出しているから、父と兄は俺も騎士になるべきだと思っているんだ。だから魔術師になるのはもちろん、冒険者なんてもってのほかだと」
「よく魔術学校に入れたな!?」
「母が一緒に戦ってくれた。魔術の才がこれだけあるのに、騎士の養成学校に行くのはナンセンスだって」
「あ、お母さんはアクセル様の味方なんだ……」
「ああ。母は俺の魔術の才を信じてくれている。けれど厳しい人でもあるんだ。今回も、絶対に冒険者になりたいのなら、実力で父と兄を黙らせなさいと発破をかけられた」
なるほど、アクセル様のお母さんも、なかなか豪傑な人らしい。
そんな話をしていたら、あっというまに夕食の時間が来てしまった。
アクセル様と一緒に食堂に向かいながら、はたと気が付いた。
「あっ! ヤバ……」
「? どうした?」
「アクセル様、オレ、こんなことになるなんて思ってなかったから、そういえば服も割とボロボロだし、公爵家で挨拶したり飯食ったりできるようなマナーとか、全然わかんないんだけど」
「ああ、そういうのを気にする人たちじゃないから大丈夫。そもそも俺が無理を言ってついてきて貰ったわけだし」
「えっ、どう考えても厳しそうっていうか、融通きかなそうっていうか、色々うるさそうっていうか、そんな感じだと思ってるんだけど」
はっ、思わず正直に言ってしまった。
「父と兄は確かに厳格なんだが『騎士』というところに固執しているだけで、身内というか……家族や家門と騎士団についてはうるさいだけで、それ以外はかなりどうでもいいと思っているから、客人のマナーなんて気にしない」
「そ、そうなんだ。極端だな」
「極端な人達なんだよ」
そんなことを話している間に食堂についたらしく、扉の前で待ち構えてた人がめっちゃいいタイミングで扉を開けてくれて、流れるように食堂に入ってしまった。
「遅いぞ」
呼ばれて速攻で食堂についたってのに、なぜかいきなり怒られた。
地の底から響くような威圧感のある声の主は、座り位置と年齢から察するに、たぶんアクセル様の父ちゃんだろう。で、その隣に座ってるとんでもない美人が母ちゃん、その隣のむくつけき大男が兄ちゃんなのかな?
「む、アクセラード、まさかそのちっこいのが」
大男が片眉をあげて俺を睨む。眼光鋭くて怖い。けど、いきなり睨まれてあげくちっこいのとか言われるとムカつく方が勝った。
いちおうにらみ返しておく。
「ロイヤン、お客様になんという態度なの。謝罪なさい」
美人母ちゃんが大男をぴしりと叱る。優しげな美人なのに、ちゃんと威厳あるのすごい。しぶしぶと言った顔でロイヤンがオレに謝罪してくれた。
美人母ちゃんはそれを厳しい目で見届けたあと、オレに優しげな笑みを見せた。美人に見つめられて、思わず緊張する。
「アクセル、彼はもしかして今回の卒業試験のパートナーなのかしら。紹介してちょうだい?」
「彼はイール。彼のおかげで卒業試験で素晴らしい成果を修めることができたので、招待したのです」
「まぁイールさん、アクセラードがお世話になりました。魔物と戦ったのでしょう?お食事しながらお話を聞かせていただけるかしら」
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