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第42話 まだ答えの出ない週末

最近の週末は、いつも二人の攻防から始まる。 「…ねぇ、ちょっと離れてよ…」 困った顔で日比野が言う。 「ダメ。このまま」 後ろから抱きしめたまま、高村は日比野の耳元で囁いた。 「……ほっぺにキスはしてもOK?」 「OKなわけないだろっ!」 ぐいっと高村を引きはがして離れて振り返る。 顔を真っ赤にした日比野を見て、高村はくすりと笑った。 「ねぇ、離れたら寂しいって。こっち来て」 手でこいこいと呼ばれて、仕方なく隣に座る。 (…こいつ、告白した途端、ぐいぐいくるんだけど…) 赤い顔の日比野をちらりと見て、高村が少し眉を下げて微笑んだ。 「…嫌だった? ごめんね」 「…………嫌じゃないって…」 少し目線を逸らして日比野が言う。 「まだ考え中なの。あんまりガンガン来られると……どうしていいかわかんないから…」 熱を持った頬を押さえて、日比野は高村を見る。 「…考えてくれるのは嬉しいけど、そんなに深く考えなくていいよ。今一緒にいられるのが楽しいから」 日比野の仕草がいちいち可愛くて、高村は目を細めて穏やかに答える。 「……うん。俺も……一緒にいるの、楽しい…」 照れたように笑う日比野を見て、 「嬉しい。可愛い」 高村は日比野の頬に親指を当て、そっとすりすりと撫でた。 その指の感触がくすぐったくて、日比野は少しだけ目を細めた。 なんだかんだのすれ違いやら勘違いを経て、高村から告白されて約1か月。 日比野は、高村との関係を真剣に悩み中だった。 もちろん嫌いじゃない。むしろ好きなのは確かだ。 でもそれが“恋愛の好き”なのか、“甘えられる存在としての好き”なのか——その境界が、まだ自分でもわからない。 …悩んでいるのに、当の高村はというと、 告白して吹っ切れたのか、前よりスキンシップ多め・甘やかし強め。 頬を触っていた高村の親指が、するりと日比野の唇に触れた。 「……少し乾燥してるね。リップ、どこ?」 「…あ、ここ。はい」 日比野が近くのラックの引き出しから取り出して渡す。 「はい、口閉じて」 高村は楽しそうに日比野の唇にリップを塗っていく。 日比野は目を閉じて、それを当たり前のように受け入れていた。 (…なんか、ダメ人間になりそうな気がする…) ぼんやりとそう思いながら、けれどその“甘さ”を拒めずにいた。 風呂から上がり、寝る準備を済ませた高村は、寝室の灯りを少し落とした。 柔らかな光の中でベッドの端に腰を下ろす日比野の隣に座る。 「…ちょっとだけ…」 日比野はそっと声をかけ、座った高村の膝の上に乗る。 「……なに?どうしたの?」 高村が少し驚いたように顔を覗き込む。 「……寝る前に、抱っこされたかっただけ」 小さな声で言って、日比野は高村の首に腕を回し、ぎゅっと顔を埋める。 高村は苦笑しながら、その背中をゆっくり撫でた。 「……もう、可愛いな。本当に」 「……高村は、嫌じゃない? 返事してないのに……こんな、甘えちゃって……」 申し訳なさそうに眉を下げる日比野の瞳を、高村は静かに見つめた。 「全然平気。一緒にいてくれるだけで嬉しいから」 穏やかに笑って、髪を撫でる。 「考えすぎないでいいよ。ゆっくりで」 「……うん、ありがとう」 小さく頷いて、日比野はまた高村の肩に顔を寄せた。 二人はそのあと布団に入り、手を繋いで目を閉じる。 高村は、半年間、すれ違い続けていた時間を思い出す。 こうして隣にいられるだけで、どれだけ幸せかが身に沁みる。 恋人になれたら、もちろんそれがいちばん嬉しい。 けれど今は、急がなくていい。 ただ、この週末を一緒に過ごせることが、何より嬉しかった。 やがて静かな寝息が聞こえてくる。 高村はそっと横を向き、安心したように眠る日比野の顔を見つめた。 手の中の温もりを確かめながら、自分もゆっくりと目を閉じた。

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