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これが日本の居酒屋2

 イジュンから着信があったのは、教室に入ったときだった。焦る必要なんてないのに、慌ててスマホを取りだし、メッセージを確認する。 『じゃあまた今度』  その短い一言に、なぜか心が痛んだ。別に嘘をついたわけじゃない。明日までの課題はほんとにある。だけど、なんだか悪いことをしてしまった気がして心が痛い。でも、だからと言って行ってやることはできないよな。そう考えていると声をかけられた。 「おはよ、明日海。なに難しい顔してんの。綺麗な顔が台無しだぞ」  そう声をかけてきたのは、友人の巧真だった。 「綺麗な顔は余計だよ」 「ごめんごめん。でもほんとなにそんなに難しい顔してスマホ見てるの」  巧真はそう言って俺の隣に座る。教授が来るまでもう少し時間がありそうだ。 「んー。昨日浅草で韓国人観光客にガイド頼まれてOKしちゃったんだけど、俺、明日までの課題の存在忘れてて、今日は無理って返事したんだよね。それがなんか、申し訳ないことしたなーって思って」 「放っておけなかったんだ?」 「うん。1人で旅行来たっていうし。それに英語は話せるけど日本語はわからないから」 「明日海ってほんと優しいよな。らしいよ。課題って度会教授の?」 「そう。途中まではやってあるんだけどさ。課題落とすわけいかないじゃん?」 「そしたら休憩時間に必死でやって行くとか」 「もっと時間かかるし、なにより持って来てない」 「そしたら夜まで頑張るとか。で、夜だけでも会うとかさ。食事くらいできるんじゃん?」  巧真の言葉にそうか、と考える。家に帰ってから必死でやるか。そしたら、夜くらいなんとかなるかもしれない。食事くらいならギリ行けるだろう。 「少しなら明日の授業までやればいいんじゃん? 教授の授業、最後だし」  そうか。少し残ったら明日の昼休みにやるっていう手もあるか。でも、それには、あらかた片付けておかないとだけど。 「そんな難しい顔して、今日丸一日NGにしたら罪悪感感じちゃうんだろ?」 「そうなんだよ」 「なら夜まで頑張ろうぜ。少しなら明日見せてやるし」 「巧真ーー」  巧真が一瞬、神々しく見えて抱きつこうとしたら逃げられた。でも、ほんとにありがたい。 「頑張るのは明日海だからな。俺はアドバイスしただけ」 「それだってありがたいよ」 「夜だったら、飲みに連れて行ったっていいんじゃん? あ、お酒飲める年?」 「うん。24だって言ってたから大丈夫」 「ホテルはどこ?」 「上野」 「上野なら、この間アメ横でいい店あったよ。めちゃ安いの。ステーキが300円しない」 「え? そんな安いの?」 「うん。アルコールも安かったよ。えっと、あ、ここだ、ここ」  そう言って巧真はスマホで店の場所を見せてくれる。アメ横なら近いしいいかもしれない。 「で、これが写真」  そこには、真っ赤なグラス。なんのドリンクかわからなかった。 「これ、トマトサワー」 「トマトサワー?」 「そう。トマトジュース飲んでるみたいで美味しかったよ。トマトジュース飲めればだけど」  トマトサワーか。初めて聞いた。イジュンは知っているだろうか。つい最近まで兵役に行ってたからな。大学のときに飲みに行ってれば知っている可能性もあるけど、どうなんだろう。でも、話題にはなるよな。 「その場所、俺に送って」 「うん」  そういった数秒後、俺のスマホにその居酒屋のマップが送られてきた。イジュンを連れていってやろう。そう思ったとき、教授が教室に入ってきた。

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