10 / 60

これが日本の居酒屋3

 授業が終わるとダッシュで家に帰り、必死で課題をやった。夕方までにどれくらい終わらせられるか。最悪、少し残ってしまったら巧真の言うように明日の昼休みにやるっていう手はある。でも、それだと今夜出かけたって気になって楽しめないだろうから、全部終わらせることを目指す。 「おわ……ったっ!」  今何時だろう? 必死にやってたから時間に気づいてなかった。時計を見ると6時半だった。この時間なら、まだ夕食は食べてないだろうか? 俺は急いでメッセージを送った。 『今課題終わったから夕食がてら飲みに行かない? いい店教えて貰ったんだけど。お詫びに奢るよ』  そう送って間もなく、俺のスマホは震えた。イジュンからのメッセージだった。 「めっちゃ早いじゃん」  メッセージを確認すると、 『行く!』  たった一言だった。なんだか笑ってしまった。前のめりになっているのが目に見えるようだ。やっぱり急いで課題を終わらせて正解だったかもしれない。きっと今日1日寂しかっただろうな。  巧真から聞いたお店はアメ横にあるからJRの上野駅で待ち合わせをすることにした。駅の改札なら日本語がわからなくても英語や韓国語が書かれているからわかるだろう。そう思ったからだ。  それからは急いで出かける支度をする。大学から帰ってきてそのままだから、髪の毛を直すだけだけど。 「よしっ!」  それから急いで駅まで走り電車に乗る。電車に乗ってしまえばそんなに時間はかからないけど、乗り継ぎに失敗すると結構待つことになってしまうから。もちろん、余裕をもって出てきているからそんなに焦らなくてもいいのだけど、イジュンのことだから早く行って待っているんじゃないかっていう気がして、少しでも早く行ってやりたいと思う。  そうやって急いだかいあって、待ち合わせの5分前には着くことができた。そして、俺の思った通り、イジュンは既に来ていた。 「明日海!」 「お待たせ」 「まだ約束の時間には早いよ」 「その早い時間に既に待ってた人がなに言ってるんだよ」 「だって、明日海と会えるから嬉しくてさ」 「ま、いいや。行こう」 「うん。行くのはどんなお店?」 「大学の友達に聞いたんだけど、料理がめちゃ安くて、トマトサワーがあるお店」 「トマトサワー?」  巧真に聞いたときの俺と同じ反応で思わず笑ってしまった。 「そう。トマトジュースみたいだって言ってた。トマトジュースは大丈夫?」 「うん。好き」 「じゃあ飲めるな」 「ここって市場?」 「そう。アメ横っていう市場」 「日本にもこういう市場あるんだね。韓国と似てる」 「韓国にもあるんだ?」 「あるよ。韓国の市場は面白いよ。明日海が来たら案内してあげる」 「うん。よろしく」  そうして人だかりの中を泳ぐように進み、目当ての店に着いた。 「うん。ここだ」  お店の中は既に結構な人がいた。空いてるだろうか? 気になって入るとギリギリ間に合ったようだ。初めてだから味はわからないけど、価格が安いのは知っている。だから混むんだろうな。時間的にもサラリーマンが仕事を終わらせてくる時間だ。 「わー。すごい。もういっぱいだ」 「間に合って良かったな」 「うん」 「さて、まずは一杯目はなに飲む?」 「トマトサワーに決まりでしょう。気になるよ」 「だな。俺もトマトサワーにする。で、なに食べる? 朝と昼はきちんと食べたか?」 「うん。今日はきちんと食べたよ」 「なに食べた?」 「朝はパンで昼はラーメン! 日本で食べたかったんだ。韓国ではカップ麺とインスタントが中心だから」 「マジかよ。辛ラーメンしかないってやつ?」 「後は日本のカップラーメン。きちんとした日本のラーメン屋は少なめなんだ。韓国のは普通にインスタントだったりキムチだったりするんだ」 「韓国のラーメンすごいな。で、どうだった日本のきちんとしたラーメンは」 「めちゃくちゃ美味しかった! 日本に来た韓国人がラーメンは食べろっていうのがよくわかったよ」  そういうイジュンの目は、昨日と同じようにキラキラとしていた。ほんとに美味しかったんだということがわかる表情だった。 「昼ラーメンだったなら、肉でも魚でもいい感じだな」 「うん。好き嫌いもないから適当に注文してくれていいよ」 「好き嫌いないのはありがたいな。じゃあステーキと刺身と、餃子、唐揚げ。とりあえずこんなもんでいいかな」 「なにが食べられるのか楽しみだ」  イジュンの目がキラキラとしているのは、食べ物への期待か。それとも、俺に会えたからか。昼間は1人でどんな顔をしていたんだろう。なんだかそれが気になった。

ともだちにシェアしよう!