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コンビニの灯りと傘の下で5

 イジュンの泊まっているホテルは駅を挟んで500メートルちょっと。晴れていれば、いい散歩になるけれど、男2人で傘は一本だけとなると話しは違ってくる。それでも、2人で歩くこの時間が終わって欲しくないと思ってしまった。イジュンといると楽しいし、韓国のことを聞けるのは興味深い。  それでも、触れあう肩には少しドキドキしてしまう。体温の低い俺と違って、イジュンは体温が高めのようだ。肩から伝わるイジュンの体温が温かいから。……ってなに考えてるんだ俺は。傘が一本なんだから肩が触れるのは当たり前なんだから体温のことなんか考えるのがおかしいし、ドキドキするのはもっとおかしい。夕方まで必死に課題をやってたから、疲れて頭おかしくなってしまったんじゃないだろうか。  足元で水たまりの水が跳ねた。アスファルトの照り返しと街灯の光と、そこに映る俺たちの足。イジュンのスニーカーが一瞬濡れたけれど大丈夫だろうか。そう思うけれど、イジュンは気にせず歩いている。  しばらくの静寂の後、イジュンが口を開いた。 「あのね……」 「ん?」 「ほんとは今日、ちょっと落ち込んでたんだ」 「え?」  それは俺が約束を反故にして1人で観光させたからだ。 「あ、怒ったとかじゃないよ? ただ、朝メッセージで用事があるって言われたとき、ちょっとだけ、やっぱり俺なんて構って貰える人間じゃないかって思っちゃった。少しだけどね」  なんだ、その俺なんてって考えは。俺と会っているときのイジュンからは考えられない言葉だった。なんでそんな自分を卑下した言い方をするんだろう。今のイジュンは、目をキラキラさせて笑っているときとは全然違う表情をしていた。そして俺は思わず足を止めた。慌ててイジュンも足を止める。そして、俺の顔を覗きこむ。 「ごめん。変なこと言った。忘れて」 「変なことじゃないよ」  多分、いつもの俺なら、こっちは現役の大学生なんだから忙しくたって仕方ないだろ、と思ってたと思う。でも、今の俺は何故かきちんと受け止めなきゃって思った。 「朝、用事があるって言ったあと、お前が寂しそうなのは気づいてた。でもさ、落としたくない科目だからやるしかなくて」 「うん、そうだよね」 「だから夜連絡したのは埋め合わせなんだ。俺なりの。だから、そんな俺は優しい人なんかじゃない」 「優しいよ。優しくなかったら夕方連絡をくれたりはしない。それに、連絡をくれたとき俺は嬉しかったよ。明日海に会えるって」 「そうか……」  優しいのだろうか。単に元気のないイジュンを想像したら可哀想で、それならって巧真の言う通り必死で課題終わらせようと思っただけなんだ。それを優しいと言われたら気恥ずかしい。それに、なんて返したらいいのかわからなくて、代わりに傘の柄を握り直した。そして気がつけば傘は少し斜めになっていて、イジュンの方に寄っていた。イジュンが濡れないようにって無意識にしていたんだろう。そう気づくと少し胸の奥がざわついた。  そしてゆっくりとまた歩き出す。イジュンも隣で歩を合わせてくれた。言葉にしなくてもしてくれるそれに、心が温かくなった。

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