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路地裏の夕暮れ2

 夕焼けを背景に猫と戯れるイジュンを見て、なんだかほっこりとする。夕焼けって寂しく感じることもあるけれど、ここで見る夕焼けはどこか温かく感じるのは、階段を降りたところにある商店街のおかげだろう。商店街があるから、この階段も人通りが多い。だから寂しく感じないんだろうな。そんなことを考えながら、イジュンを見るからほっこりもするのだろう。しかし、いつまで猫と戯れている気なんだろう。食べ歩きは後でと言ったけれど、さすがにもう行かないと売り切れになってしまうものもある。 「イジュン。猫と戯れるのもいいけど、いい加減行かないと美味しいものが売り切れになるぞ。猫とはまた帰りにでも戯れろ。猫はいなくならない」 「うわ! 売り切れは嫌だ。後でまた来るからね。行こう、明日海」  猫と散々戯れておいて、食べ物の話しをしたら猫は後回しか。猫も好きだけど、食べる方がもっと好きっていうことか。そう思うと笑ってしまう。 「なに笑ってるの?」 「いや、散々猫とじゃれておいて、食べ物の売り切れの話しを出したら猫は後回しになるんだなって思って」 「猫はいなくならないって言ったのは明日海だろ」 「そうだけど、食べ歩きしなくていいなら、いつまでも猫といていいんだぞ」 「明日海……意地悪だ」  そう言って俺を上目遣いに睨みつける。っていうか、俺より10センチ近く背が高いのに上目遣いにするとか、器用かよ。大人の顔をするときもあるけれど、こういう子供っぽいしぐさをするときは、ほんとに可愛いと思う。いや、年上の男に可愛いもないけれど。 「ねぇ。何が食べれるの?」 「色々あるけど、人気どころはメンチカツとドーナツかな。あと、日本っぽいものと言えばせんべいとたこ焼きって言ったところかな?」 「ドーナツ? なんでドーナツ? 日本のものでもないのに」 「そうなんだけど、猫のしっぽの形してるんだよ」 「猫のしっぽ! それは可愛い。食べたい。で、メンチカツってなに?」 「メンチカツって日本の洋食なんだけど、ひき肉を丸めて揚げた料理。日本ではポピュラーなお惣菜なんだ。だからあまり遅くなると売り切れちゃうんだ」 「日本の洋食っていうのが面白いね。でも、それは食べてみたい。それとドーナツかな? たこ焼きとせんべいはもう食べたよ」 「そうか、じゃあ先にメンチカツを買いに行こう」 「そうだね」  売り切れをチラつかせたから、イジュンの足は早い。人気のお惣菜と言ったから、売り切れになったら嫌なんだろう。ドーナツだってあまり遅くなるとなくなってしまう。  まずはメンチカツを買いに行くとあと数個残っていた。それを見たイジュンはホッとした顔をしていた。そんなに食べたかったか。これで売り切れてたらどうなったんだろう。とりあえずメンチカツを1つずつ買い、早速端により食べる。一口パクリと大きな口でかじりついたイジュンはパーっと顔を明るくさせる。きっと気に入ったんだろう。 「美味しい! 肉々しいけど、挽肉だからかそこまでがっつりはいかないんだね。これは韓国にも欲しい」  プリンアラモードを食べて来たはずなのに、メンチカツはあっという間にイジュンのお腹の中に消えていった。良かった。気に入ったようだ。 「次はドーナツだよね。猫のしっぽ」  メンチカツを食べたばかりだというのに、すぐに次のものを、となるイジュンのお腹はどうなっているんだろう。でも、確かにサンドイッチだけだとすぐにお腹空いちゃうかもしれない。しかも今は夕食時だし。 「ドーナツ食べたら、どこかで夕食にしよう」 「そうだね。そうしよう」  そしてドーナツ屋へ行くと、こちらも残りわずかだった。 「良かった。残ってた」  こちらも一本ずつ買う。これくらい食べたからって、夕食には響かないだろう。 「ほんとに猫のしっぽの形してる。可愛いな」 「猫のしっぽでも食べれるのか?」  わざと意地悪で言うとイジュンは眉を垂らす。 「ほんとの猫のしっぽじゃないじゃないか。形だけだし」  わずかに口を尖らせている姿は、さっきカフェで真面目な話しをしていた人と同一人物だとは思えなかった。そんなところも可愛いと思う。イジュンは全体的に可愛いが強い気がする。あくまでも俺にとってだけど。でも、そんなイジュンを見ていると気持ちがほぐれていく気がした。

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