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君と写す未来1
「寿司で足りた?」
「うん。お腹空いたらなにか甘い物買うよ」
「イジュンって結構甘党だよな」
「そうかな? 普通じゃん?」
「いや、普通、男はそんなに甘いの食べないだろ」
「そう? 俺は俺が普通だと思ってた」
「イジュンは甘党だよ。しょっちゅう甘いの食べてるだろ」
「食後のデザートにね」
「毎食後食べてるだろ」
「いや、朝は食べない」
俺から見るとイジュンは十分甘党なのに、本人は自覚がないらしい。おやつで甘い物を食べたりするし、食後にデザートを食べる頻度も高いと思う。なのに自分では普通だと思うってすごいな。
「ちょっと歩くか」
「そうだね」
浅草の人混みを抜けて隅田川沿いに出ると、川の風が涼しく感じる。まだ散歩するのにいい季節だけど、もう少し寒くなったらキツいだろうな。
「今日はほんとに楽しかった。念願のラジオ会館行けたし、フィギュア買えたし」
「楽しんで貰えたようなら良かったよ。アニオタじゃないって言ってたのに、2個も買ってたよな」
「なんだろうね。あれは買わなきゃダメだって思ったんだよね」
「なんだよ。その買わなきゃダメって。全然ダメじゃないだろ」
「ダメだったんだよ。それに明日海とプリクラも撮れた」
「それこそ撮っちゃダメだろ」
「なんで? 明日海、綺麗なのに」
「男に綺麗とかおかしいだろ」
「おかしくないよ。もっと堂々としてればいいのに。もったいない。まぁ、でも今日はいい1日だったよ。回らないお寿司屋さんにも行けたし、念願のいくらを食べれた」
イジュンはほんとに楽しかったのだろう、いい笑顔をしていた。でも、イジュンが今日を楽しんでくれていたように、ガイドのはずの俺まで楽しんでた。だけど、イジュンも楽しんでたからいいのかな。
「明日海のおかげで、楽しい日本旅行になったよ。ありがとう」
「まだあと1日残ってるだろ」
「うん。明日も付き合ってくれる?」
「ああ。明日は土曜日で学校休みだから朝から付き合えるよ」
「やった! あー、でも帰りたくない」
帰りたくないと思うのは、それだけ楽しんでくれているっていうことか。それならいい。
「この川、隅田川だっけ? なんかソウルの川に似てる気がする」
「ソウルの川?」
「うん。|漢江《はんがん》って言う大きな川があるんだ。なんかキラキラしてる感じが漢江っぽいかなぁって。夜景がすごく綺麗なんだ。ここも夜景、綺麗でしょ。あーでも、こっちの方が落ち着いてるかな」
確かに隅田川は大きな川だし、ここは結構夜景が綺麗だと思う。だから散歩にぴったりなんだ。公園もあるし。でも、漢江ってどんな川なんだろう。ここに似てるっていうのが気になる。
「漢江は水上バスはないけど、遊覧船があるんだ」
「乗ったことある?」
「ない。デートスポットだからね。1人で乗るのは寂しいし、だからと言って友だちと乗るのもどうなんだろうって思うから。……恋人ができたら乗る。明日海が韓国に来たら乗ろうよ」
「恋人ができたら乗るんだろ」
「……」
恋人が出来たら乗るものに、俺と乗ったらダメだろ。そう言うとイジュンは黙ってしまった。
「明日海。ほんとに韓国おいでよ。今度は俺がソウルを案内するよ」
「それもいいなって思いだした。就職する前しかまとまった時間ないだろうし」
「そうだよ。それに、今なら、俺も朝からガイドできるよ」
そうか。今ならイジュンも就活中だから時間はあるか。ほんとに行こうかな。正直、韓国ってそんなに興味なかったけど、イジュンといて興味が出てきた。それなら、行くなら今がいいだろう。
「ソウルの中にも昔の建物あったりするんだよ。東京ほど観光名所があるわけじゃないけど、それなりに見るところもあると思う」
「辛いもの苦手でも食べられるものってある?」
「あれ、明日海辛いのダメ? わさびの乗ったお寿司食べてたのに」
「わさびの辛さは慣れてるけど、唐辛子の辛いのは慣れてないから、ちょっとしか食べれないと思うんだ」
「そっか。大丈夫。辛くないのもあるから。明日海がソウルに来たらどこ行こうかな。どこに行きたい?」
「どこに行きたいか聞かれても、そもそも知らないよ」
「そっか。そしたらイジュンおすすめで行こう。どこがいいかな−」
まだ俺が行くと決まったわけでもないのに、イジュンはすっかりガイドする気になってる。まぁ、行っていいって思ってはいるけど。冬休みかな、行くとしたら。
「行くとしたら冬だよ」
「あ、冬休みか。じゃあそれまでにどこがいいか考えておく」
そう言ってイジュンは楽しそうに笑った。
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