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街角に、君と8
ソウルタワーのあとは少し気まずい雰囲気になってしまった。いや、そうしたのは俺だけど。ホテルに帰る途中に明洞を歩いてみた。イジュンのいう通り若い人が多かった。あとは観光客。日本人も結構いた。そして飲食店を見たけれど、チキン屋はあったけれどクレープ屋はなかった。屋台でもクレープはなかった。イジュンの言っていたとおりだった。
そして言葉少なに歩いてホテルに着くと、明日の予定を言われる。
「じゃあ明日また迎えに来るから。明日は俺の家だからね」
「わかった。ねぇ、単なるビジネスパートナーとしてだよね?」
「うん。まだ恋人とは言えてない。ごめん」
「ううん。今はまだ言わなくていいと思う。ご両親も驚くだろうから」
「そうだね。じゃあ、おやすみ」
「……あのっ」
「ん?」
「ごめん……」
「なに? なんで謝ってるの? なにかあったっけ?」
俺が急に謝ったから、一瞬驚いた顔をしていたけれど、少しして気づいたみたいだ。
「イジュンが嫌とかじゃなくて。まだ気持ちが追いついてないというか……」
「うん。わかってるよ。俺が急ぎすぎた。それに、今度行ったら鍵かけてもいいでしょ?」
「……うん」
次に行くのがいつかはわからない。少なくともこの旅行中ではないだろう。イジュンと一緒に仕事をするためにソウルに来てからだろう。その間に気持ちは追いつくと思う。だから、イジュンの「今度」という言葉に対して否定はしない。
「じゃあ、おやすみ。ゆっくり寝てね」
「わかった。じゃあ明日」
別れの挨拶をして、イジュンの背中を見送る。イジュンは角を曲がる前に振り向いて大きく手を振ってきたので、俺もそれに答える。イジュンらしいな。そう思うと、口元が緩む。そしてイジュンの姿が見えなくなると俺も部屋へと戻る。
鞄を窓際のテーブルに置き、椅子に座り、明日のことを考える。明日はイジュンのご両親に会う日だ。もちろん、恋人として紹介されるわけじゃない。友人であり、ビジネスパートナーになるということでだ。さすがに初対面で恋人だというのはイジュンも考えなかったらしい。それに俺は男だ。男同士で恋人だなんて、ご両親はびっくりするに決まっている。まして韓国は同性愛は肩身が狭いみたいだし。それは血を重んじる儒教の影響というのは強いだろう。だって男同士で子供なんて望めないのだから。だからまずは友人として挨拶をする。そして、後は認めて貰えるように俺という人となりを見て貰うしかない。そうしたら認めて貰えるだろうから。
それにしても今日はよく歩いたな。さすがに疲れた。さすがの俺も甘い物が欲しくなって明洞でホットクを食べた。初めて食べたけど、もちもちの生地で黒砂糖やナッツ、シナモンを包んで焼いたものだ。俺はケーキよりも美味しいと思った。それをイジュンに言うと、イジュンは嬉しそうに笑った。そうだよな。自分の国のことを好きになって貰えたら嬉しい。夕食に食べたサムギョプサルも美味しかったし、今のところ食べ物で失敗はしていない。でも、イジュンはあまり辛いものが食べられない俺のために辛いものを避けてくれてるけど、今度は少し辛いのを食べてみたいと思う。辛いものをあまり食べてこなかったから、あまり食べられないけど、慣れたら大丈夫だと思うんだ。わさびは大丈夫なわけだし。うん、明日にでもイジュンに言ってみよう。そう思っているとズボンのポケットに入れてあるスマホが震えた。確認するとイジュンからだった。
『家に着いたよ。明日は明日海がうちに来るんだね。なんだか俺まで緊張してきた。でも明日海は緊張しないでね。それじゃあ、おやすみー』
メッセージを読んで思わず笑ってしまった。イジュンが緊張してどうするんだよ。友だちを家に連れて行くのと同じだろうが。思わず、そう突っ込んでしまう。だから返信を返す。
『イジュンが緊張してどうするんだよ。そうしたら俺が余計に緊張するだろうが。日本人の友人を連れて行くだけだと思え。おやすみ』
そう。俺は韓国人の友人の家に遊びに行くだけ。そう思えば緊張しなくなるだろう。
「よし! 風呂入って寝よう」
友人の家に遊びに行くだけだけど、ご両親に好感は持って貰いたいから、寝不足のボーッとした顔では行きたくないから早く寝よう。そう思って立ち上がった。
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