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未来を囲む灯り1

 午前11時にイジュンがホテルに迎えに来た。イジュンは俺の顔を見た途端、「大丈夫だよ」と言ってきた。俺はなにも言ってないけれど。でも昨夜はあまりよく眠れなかったし、今日は朝起きたときから緊張がすごくて朝食のビュッフェもあまり食べられないくらいだった。だからきっと顔に出ているのだろう。もしかしたらクマができているのかもしれない。 「いいのか悪いのかわからないけど、今日は恋人だとは言わないから。ただ、日本の友だちで、起業する仕事を手伝ってくれる人って伝えてある。だから、そんなに緊張しなくて大丈夫だから。恋人だと伝えるのはもう少ししてから」 「今日、恋人だと言わなくたって、いつか言うのなら好印象を与えておきたいだろ」 「明日海……。好きだよ」 「な、なんだよいきなり」 「ううん。俺とのこと真面目に考えてくれてるんだと思ったら嬉しかった」 「当たり前だろ」  真面目に考えているからこそ、昨日はソウルタワーで鍵を掛けられなかった。きちんと気持ちが整ってから。そう思ったんだ。  ホテルからイジュンの実家までは途中で乗り換えが1回あるものの、距離としてはそんなにないらしい。通勤時間を過ぎた時間だから電車は空いていて座ることができたけど、スチールのような座席は座り心地が良くない。イジュンが東京で電車の座席が柔らかくてびっくりしたと言っていたけれど、この座席に座ってたらそうだよなと思う。  思考を電車の方に持っていくことで緊張を追い払おうとする。もう、この際なんだっていいんだ。この緊張感から逃れられるなら。 「イジュン。今日、少し辛いものを食べてみたい」  と電車の座席の次は食べ物に意識をやる。そこで、少しは辛いものも大丈夫なハズとイジュンに告げてみる。 「大丈夫?」 「少しなら大丈夫だよ。それこそ、チキンの辛いのは食べれたりするから」 「そうか。そしたらチゲでも食べようか。ブテチゲの美味しいお店があるんだ」 「チゲって鍋だっけ? ブテチゲってなに?」 「ブテは、軍隊の部隊って意味」 「具体的にはどんな鍋なの?」 「これっていう決まった物はないんだ。好きな物をいれてある。だからお店によって色々なんだけどね。俺の通ってた大学の近くに安くて美味しい店があるんだ」 「へー。じゃあそこ行ってみたい。大学の頃、よく行ったの?」 「行った。チーズを入れるから辛いと言ってもまろやかだよ」 「じゃあ大丈夫だよ」  大学生の頃のイジュンが通ったお店というのに惹かれた。その頃のイジュンに会ってみたかった。でも、それはできないから、そのときのイジュンを辿ってみたい。 「朝はきちんと食べた?」 「食べてない。緊張で食べられなかった」 「|オンマ《お母さん》も|アボジ《お父さん》も|ハルモニ《祖母》も楽しみにしてるよ」 「うわ。言うなよ。食べ物で気を紛らわしてたのに」 「ハルモニは日本人だって喜んでるんだよ」  日本人だと喜んでる? どういうことだ? 「ハルモニは子供の頃、ハルモニのオンマから日本人は優しかったって言われて育ったんだって。だから」  お年寄りだから、余計に反日なのかと思ったらそうではないらしい。 「アボジもそれを聞いているから日本人に対して好イメージなんだ。それに韓国の反日は今の4、50代がひどいだけで、その他の年齢ではさほどじゃない。お年寄りは日本人のことを知っているからイメージは悪くないんだ」  4、50代の反日がひどいのは教師に左派が多かったからだという。今も左派の教師は多いけれど、若い子は未来思考らしい。韓国の左派は親中、親北だという。戦争してる国寄りってすごいな。でも、お婆さんもお父さんも日本人に好イメージだというのなら、少しホッとする。だって、テレビで反日だって言っているから年齢のいっている人ほど、それは酷いんだと思ってた。イジュンに日本人にネガティブなイメージがないのは、きっとそのお婆さんの話しを聞いているからなのかもしれない。 「明日海、ここで乗り換えるよ」  そう言われて電車を乗り換える。ここから3駅らしい。もうすぐだ。でも、反日な人たちではないようなので、少し緊張はマシになっていた。恋人だと紹介されるわけじゃないから大丈夫か。とりあえず好印象だけ与えておければ。そう思って軽く深呼吸をして、緊張をほぐした。

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