6 / 6
第二話-3
約束の待ち合わせ場所に着いたのは、麻陽のほうが早かった。
移動中も彼はうるさく、メッセージは絶えず続いた。「場所は分かる?」「乗り継ぎ間違えないように」と、まるで麻陽が迷子になること前提のものばかりである。ツクモでさえここまで麻陽には干渉しなかったからなんだか新鮮で、麻陽は一つ一つにきちんと返信を続けていた。
『着いたよ』
そのメッセージを見て、麻陽が顔を上げる。
すると遠くから彼が小走りに向かってきているのが見えた。
「待たせたね」
「待つのは嫌いじゃないから大丈夫」
「はは、きみらしい答えだな」
苦笑気味にそう言って、彼はさっそく歩き出す。
「電車の移動になったな。大丈夫だった?」
「うん? あんまり乗らないから新鮮だった」
なんてことないように答える麻陽をちらりと見下ろし、彼は「あー」と微かな言葉を漏らす。
「……目立った、だろうな」
「見られるのは慣れてる」
「だろうな……そんな顔でチョーカーつけてブランドもんで固めてたらな……」
「変?」
「変ではない」
では何が言いたいのか。彼は微妙な顔をするばかりで教えてくれなかった。
着いたケーキ屋は予約してくれていたらしく、混んでいてもすんなりと席に通された。麻陽に気を遣ったのか自身が嫌だったのか、案内されたのはやはり店内ではなくテラス席である。
「好きなだけ食べてくれ」
「いーの? 今日は何のお礼?」
「これは礼じゃない。ちなみに謝罪でもないからな」
「? そーなの?」
メニュー表を差し出す彼は、それ以上は何も語らない。
──てっきりまた何かの礼か謝罪かと思っていた麻陽にとって、彼の行動は謎だった。
何もないなら麻陽に会う必要はない。彼は忙しいと言っていたし、連絡を取り合うのも面倒なはずだ。
(……何か用事がある……?)
だけど、彼が麻陽に、いったい何の用件で?
「麻陽、頼まないのか?」
「頼む」
彼が呼び出しベルを押すと、店員はすぐにやってきた。注文を告げて、メニュー表を元の場所に立てかける。その間も麻陽は彼の用事を考えてみたけれど、やっぱり思い当たることはない。
お金に困っている感じではないし、会話の中に核心があるわけでもない。だけど麻陽との連絡は長く続けるし、こうして時間を割いてわざわざ麻陽と顔を合わせる。
そこまで考えてピンときた。
そうだ、麻陽は風俗で働いている。彼は難色を示していたが、もしかしたら気が変わって麻陽を抱きたいと思っているのかもしれない。風俗を悪く言った手前店に行くのも気が引けるのか、あるいは立場上行きづらいのか。どちらにせよ店に行かずに誰かを抱きたいと思っているということに間違いはないだろう。
たまたま側にいた麻陽なんて、彼にとっては都合のいい相手である。
●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・
試し読みはここまでになります。
続きは各電子書店で好評配信中!
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!





