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第26話

 本部の外で偶然会った桂樹と月橘は、その夜結局東の森都内の宿屋に腰を落ち着けた。本部に帰り、自身に当充てがわれた家に戻ることも可能だったが、久しぶりに会った友人だ。話が尽きなければ、酒場で一杯やりながらそのまま夜中まで雪崩れ込むのが定石だ。賑やかで活気付くヴェルドジェーリュの夜の喧騒をよそに、二人は仕事の延長線上のような話をして夜を明かした。 「桂樹、そろそろ本部に戻るぞ」  乱暴にも寝台を足蹴にされ、桂樹の朝の目覚めは訪れた。飲み過ぎによる喉の渇きと、遠くにあるかすかな頭痛に桂樹はうっすら顔をしかめて体を起こす。水差しに入った水をグラスに注ぎ、一気に煽る。冷えていないが心地よく喉を通り過ぎた水が、寝起きの体に浸透していく。頭がすっきりしていくにつれ、意気揚々と身支度する月橘に気付いて眉をひそめる。 「叱られに行くんだよな?」  『鳥籠』に入った咎を謝罪しに行くはずなのだ、彼は。如何なる理由があろうとも、『鳥籠』に入ることは許されない。彼は罪を犯し、その責を総帥にすら背負わせることにしたのだ。当然その謝罪のための訪問だろう。だがそれにしては機嫌が良い。  桂樹の確認に、月橘は身支度の手を止めぬまま答えた。 「真実を知るために行くんだ」  もちろん、咎は咎だ。その謝罪はする。だがそれとは別に、月橘には確認したいことがある。『(レル)』が人と同じ形体をしているという事実。それを隠し守る保護庁。  そして。 「もう一度『鳥籠』に行く」  きっぱりと強い意志を見せた月橘に、桂樹が形の良い眉をしかめる。 「行けると思っているのか?」  『鳥籠』は保護庁が、王室が直轄で管理する、言わば聖域だ。周りからもその場所を隠匿し、人の出入りを著しく制限したそこへ、再び侵入することなど不可能だ。まして一度侵入した月橘に警戒が緩められることはないだろう。  桂樹の問いかけは真っ当なものだったし、月橘もその困難さはよくわかっている。  だが。 「もう一度あの『鳥』に会いたい」  飴色が強い意志を持って光を放つ。 「何故?」  思いもよらぬほど意志の強い声に、首を傾げる。あの『鳥籠』に、その『鳥』に何があるのか。  純粋な疑問を向けた桂樹に、月橘は惚れ惚れするほどの笑顔を向けた。 「言っただろう? 魂をもぎ取られたって」  一瞬で全てを攫っていくような激情を見た。それはひどく暴力的で、凶暴な力でもって月橘を打ちのめした。圧倒的な熱量で月橘の胸を焼き、それ以外の一切が目に入らなくなった。  もう一度あの『鳥』に会い、確かめる。月橘の胸を焼く激情の意味を。そのために惜しむものなど何もない。 「お前もそうじゃないのか、桂樹。あの仔猫をどうしたいのかわからないままじゃ、総帥に会ってもまたすごすご帰ることになるだけだぞ」

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