2 / 7
序章
「──片翼を持った男は森の奥へ逃げた! 他のやつらも同じ方角に逃げている。追え! 『翼狩り』の連中を一匹たりとも逃がすな!」
鍔迫り合いの続く喧噪の中、男の声はとてもよく通った。
御意、と男に応 えを返して、何人かの足音が森の奥へと遠ざかっていく。
だが飛 蘭 にとってその全てが、どこか遠い世界で起こった出来事のように思えて仕方なかった。
意識が朦朧とする。
背中にひどい痛みが走って身体がとても熱いというのに、背筋を伝う汗は驚く程に冷たい。男の腕の中にいるというのに、ぞくぞくとしたものが足元から這い上がってきて、寒くて寒くて仕方がないのだ。
何故こんなことになってしまったのだろう。
「……に連れていく。絶対に治してやる。だから……──ぬな」
男が必死に何かを言っているが、飛蘭にはもう聞こえない。
ただ薄れゆく意識の中で、春花のような甘い香りだけが記憶に残っていた……。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!





