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序章

「──片翼を持った男は森の奥へ逃げた! 他のやつらも同じ方角に逃げている。追え! 『翼狩り』の連中を一匹たりとも逃がすな!」  鍔迫り合いの続く喧噪の中、男の声はとてもよく通った。  御意、と男に(いら)えを返して、何人かの足音が森の奥へと遠ざかっていく。  だが(フェイ)(ラン)にとってその全てが、どこか遠い世界で起こった出来事のように思えて仕方なかった。  意識が朦朧とする。  背中にひどい痛みが走って身体がとても熱いというのに、背筋を伝う汗は驚く程に冷たい。男の腕の中にいるというのに、ぞくぞくとしたものが足元から這い上がってきて、寒くて寒くて仕方がないのだ。  何故こんなことになってしまったのだろう。  「……に連れていく。絶対に治してやる。だから……──ぬな」  男が必死に何かを言っているが、飛蘭にはもう聞こえない。  ただ薄れゆく意識の中で、春花のような甘い香りだけが記憶に残っていた……。

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