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第一章:『最強のエクソシスト』

ーーーーーーーーーー 出張先の宿、暗い部屋で酒を煽っていたライラの元に、一人の悪魔が現れた。 「何の用だ…?」 ライラは苛立ったように呟く。部屋にはアルコール、煙草、そして先程までライラが抱いていた女性の香水の匂いが入り交じっていた。 ーーーーーーーーーー <登場人物> ライラ(受) 「最強のエクソシスト」として知られており、悪魔祓いとして高い能力を持っている。プライベートはボロボロ。 30代半ば、身長185cm、鍛え上げた筋肉質な体つき。髪は銀髪で短い、ツーブロック、既婚者。 仕事で極度のストレスとプレッシャーを抱え、酒と煙草と女に逃げている。 悪魔/???(攻) ライラの前に度々現れる悪魔。素性は謎であるが、異様な美しさと妖艶さを持つ。 身長は188cm、人間の姿に化けて現れる。色白で筋肉質、髪は長く、透き通るような白髪、真っ赤な瞳を持つ。 【第一章:最強のエクソシスト】 (ライラside) 1 あぁ、またコイツだ、この悪魔だ。 ぬるくなった酒瓶を握りしめ、固いガラスの感触を手のひらに感じながら悪魔の姿を睨み見る。 コイツはいつもどこからともなく現れ、俺を惑わし、心をかき乱すんだ。 悪魔の美しく長い銀髪は月明かりに照らされ、悪魔のくせに神々しさまで感じる。 陶器のような白い肌によく映える赤い瞳は燃え上がる血のように滾っていて、見つめ返されると思わず息を飲む。 鍛え上げた逞しい肉体はまるで彫刻のようで、その肉体美が服の上からも見て取れた。 彼は威風堂々として俺の目の前に立っている。 あぁ。なんて綺麗なんだ――…。 アルコールに犯された思考はエクソシストとしてのプライドさえも溶かし、素直な心の声を映し出す。 艶っぽく微笑む唇に見とれてしまい、この空間に広がっていた甘ったるい女の香水と煙たい煙草の匂いさえも感じなくなっていた。 「…もうやめておけ。」 悪魔のその声色は柔らかく、どこか甘美な笑みを含みながら低く響く。彼の視線はチラリと俺の手に握られた酒瓶に移された後、すぐにまた俺の瞳を見つめ返していた。 もうやめておけ、だって? 奴が指摘しているのは…きっと酒のことだろう。 「悪魔がエクソシストの心配か?お前に指図される覚えはねぇ…。」と、皮肉を込めながら吐き捨て、俺は強がった。 それでも、悪魔の姿は自信に満ち溢れていた… 奴は知っている… 俺がどうしようもなく惚れてしまっているということを。 奴は全てを自覚しているんだ。 俺の気持ちも、俺の悩みも、何もかもアイツは掌握していた。 悔しい… そんな気持ちが表情に滲み出て、眉間に皺を寄せながら小さく舌打ちをする。やめろと言われれば天邪鬼になる聞き分けのない子供のように、酒瓶を煽って喉を湿す。その姿を奴に見せつけた。 すると悪魔は右の眉を釣り上げ含み笑いをする。 「そんなに荒れて…。辛いんだな…。」と、まるで同情するような台詞を俺に返した。 胸の奥がズキリと疼いた…。 あぁ、分かってる、悪魔はそうやって人を誑かし、心の弱みに漬け込む。自分が1番よく分かっているんだ。 それなのに…。 俺は縋るように悪魔を見つめてしまう。 俺の心に潜む深い孤独や、プレッシャーで押しつぶされそうな苦しみ、妻とのいざこざも、誰にも頼れない自分の弱さでさえ。全部をコイツに理解して欲しいだなんて。こんな願望、馬鹿げてるのに、抑えきれなくなりそうだった。 何もかもを誰にも見せずに一人で抱えてここまできたのに、もう限界だった。愛していたはずの妻にも愛想をつかされ、酒と女に溺れ、身も心も削りながら悪魔祓いをしている。 でも俺は最強のエクソシストなんだ。失敗は許されない。俺を皆が頼りにしている… 「どうした?泣きそうな顔をして。」 突如として、悪魔の声が響く。ハッと我に返り悪魔を見上げれば、その真っ赤な瞳に吸い込まれるようだった。 「…俺を惑わせるな…。汚い魔術で俺の心を奪うなどと…!」 首を必死に横に振り、悪魔から逃げるように退く。 「魔術か…そんなものはお前に掛けていないぞ。わかってるだろう?""さん。」 そう言って悪魔は不敵に微笑んだ。 「違う…!俺に何か仕掛けたに決まってる…!お前なんか…本気になれば、今すぐにでも灰にして…っ」 震える声で唸るように警告し、首から下げていたロザリオを握りしめる。 しかし次の瞬間、悪魔は即座に俺の強がりを打ち砕く。 「…できるのか?そんなことが。お前に…。」 そう言った悪魔は傲慢に笑っていた。奴の微笑みは俺の心を意図も簡単に射抜いしてしまう。 心臓の音が耳の中でうるさくなる。 奴の苦手とするロザリオでさえ、俺の弱い意志を吸収したかのように、まるで意味を成していなかった。悪魔は怯む気配も無く… だめだ、抗えない… いや、またコイツに流されるのか…? 数週間前のように、またコイツに好き勝手されるわけには…。 不意に奴との淫らな記憶が過ぎり、この体はさらに熱を帯びた。 そんな葛藤を抱えている間に、悪魔はゆっくりと俺に近づいてくる。拒否したい、そう思うのに、震える体は前のめりになる。喉が渇くような感覚に襲われ、額に汗が滲む。 「ライラ。綺麗だね…。」 不意に悪魔が吐いたその一言が俺の心臓を強く掴み、情けなくも頬が赤くなるのが分かる。きっと耳まで真っ赤だ。 恥ずかしい… 屈辱的だ… それなのに俺の胸は高鳴っていた。 最強のエクソシストの俺が、下劣な悪魔の言葉や仕草の全てに振り回されているという事実が、俺のプライドを傷つける。

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