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第二十七章:『真相を追って - I』

【第二十七章:真相を追って - I】 1 (悪魔side) 「兄様ぁ…。無事目を覚まされて安心しました…僕がが兄様の代わりになりたいほどでした…!あぁ、お辛かったでしょうに…」 魔王城の大きな石造りの食卓を囲みながら、俺の斜め右にいるルゼブが目を赤くさせて何やら嘆いている。 「大袈裟だ。しかし、情けない姿を見せて悪かったな。心配をかけてすまない」 「いいえ、滅相もございません!あのカイルの忌々しい力に当てられても屈せず、一命を取り留めになった兄様は……以前にも増して、より一層お美しいです…!」 ルゼブは鼻高々といった様子でそう言うと、食器の上のステーキを切り分け始める。 隣のライラは昨夜のこともあってまだ羞恥心が消えないのか、どこかよそよそしく耳を赤らめたままだった。その横顔が愛おしくて、優しく見つめる。 すると、「に、兄様…。またその人間のことばかり…」と、ギリっと奥歯を噛み締めたルゼブの言葉がした。あぁ…ルゼブが騒いでいる、と、顔を上げる。しかしすぐに背後にいたマーレが彼に釘を刺した。 「およしなさい、ルゼブ坊っちゃま。みっともない」 「う、うるさいな…!」 ガミガミと言い合いを始めるルゼブとマーレを余所に、ライラをもう一度見つめた。ステーキを頬張り始めたライラは、ほんのついさっきよりも機嫌が良さそうだ。 「ライラ?」 「……な、なんだよ…」 途端に顔を赤くしたライラがチラッと俺を見る。 「カイルの件だけど…」 「……あぁ。穴とトラック事故を追って欲しいって言ってたな」 「そう。危険だと思うんだ。俺や魔界の悪魔で調べるから、ライラはここに残ってくれないかな…?」 するとライラは、フォークとナイフを置いて、ふぅ、と、一息つく。 「俺が素直に、あぁそうですか俺は留守番します、って、返すと思ってんのか…?」と、口を尖らせてライラは俺を見つめる。 「うぅん、思ってないよ。でもね…」と、続けた俺の言葉はライラによって遮られた。 「俺だって力になりてぇんだよ…。ちゃんと役に立てるように模索するからよ…。事件を解決したいとかそういうのじゃねぇ、お前に協力したい。どうか、お願いだから…」 ライラはその瞳を見開いて、俺を真っ直ぐに見つめている。真剣な目つきに気圧されて、葛藤するように頭を抱えた。 「……分かった。仕方ないね…。ライラの知識が役立つこともあるかもしれないし。ただし、危ないときは俺やほかの悪魔には構わず逃げて。俺たちは丈夫だ、人間とは違う。ライラは生身の人間だ、自分の命を最優先すること、いいね…?」 「……わかったよ、ありがとう」 ライラは険しい表情を緩めて口角を上げた。小さく頷き合って、微笑んだ。 ーーーーーーその夜ーーーーーー 城の広間にて、俺とライラ、そしてルゼブ、マーレ、さらには城に仕える先鋭の魔族数匹が集っていた。 高い吹き抜けの広間の中、数段の段差を上がった高い位置に俺は立っている。隣にはライラが居て、反対側にはルゼブが控えていた。マーレと魔族たちはより低い位置でその頭を垂れている。 「カイルのことだが…。人間界で起こっている事態に我々が対処しなければ…魔界に責任を擦り付け、容赦無く制裁を与えるなどとほざいていた。天界の奴らは本気らしい。つまり、親父が不在の中、俺たちで魔界を守らなければならない」 腕を体の前に組みながら、低い声で緊張感を持たせてそう告げる。 「対策を練らねばいけませんね。事件の詳細については僕から話しましょう」と、ルゼブが発言し、俺は静かに頷いた。 ベルブは、マーレや他の魔族たちに事件の詳細を簡潔に説明する。 「天界のカイルによると、首謀者は悪魔、そして人間も関わっているとのこと。まずは悪魔の尻尾を掴むことが先決でしょう」 そう言ったベルブがチラリと視線を俺に向ける。俺は弟の考えに同意しながら言葉を加えた。 「あぁ。関わっている人間を割り出そうとするのは、悪魔を見つけるより困難だろう、人間に関してはこちらに何の情報も無い。だから、まずは悪魔の方を引き摺り出す。カイルももう少し情報を与えてくれればいいのだが…人間が関わっていること以上の事実を伝えるのは、奴が天界のルール違反に触れるんだろう」と、そこまで告げる。 すると、「その悪魔は、どんな悪魔でしょうね。体の大きな悪魔を探して欲しいと兄様からの依頼もありましたし、体の大きな悪魔をイメージしてよいのでしょうか」と、ルゼブが首を傾げた。 「そうだな。俺は、奴が図体の大きな悪魔だと踏んでいる。大きな穴を魔力を用いずに開けられるほどのな…。だが予測に過ぎん。下級の悪魔たち群れを成している可能性も捨てきれないしな。今回は悪魔の正体を掴むことから始める」 俺はそう言って、マーレに指示を出す。彼女はローブの中から直ぐに大きな地図を取り出し、それをテーブルに広げ始めた。 「街の地図か…」と、ライラがそれを覗きこみながら呟く。俺はライラに微笑み……すぐに表情を固くして図面を指さした。 「例の悪魔は、恐らく地中にその身を潜めている。悪魔が地上に出る時、あの巨大な穴が開くんだろう。事件はこの街を中心に起こってる。場所を絞ってこの街から探そうと思う」 「兄様。この街に絞ったとしても範囲はかなり広いですね…」 「あぁ。それに悪魔が移動し続けているのか、同じ箇所に留まり続けているのかも分からんからな。イメージは、俺たちの範囲網に入った瞬間を抑え打つ作戦だ。街の中のほうがヤツの潜む場所に近づけると思うんだ」 そう言って、マーレに目配せを送る。すると彼女はテーブルに広げていた地図をペラリと上から捲り上げ、下に重ねてあったもう1枚の地図を露わにする。 そこには街の下水道の配置が書かれた地図が載っていた。 「地下道を利用する、ここに居る者たちなら悪魔の気配を察することができるからだ。地上からだと人間界に居る多くの悪魔たちの気配が混ざって混乱しかねないが、俺たちも地中に入ることで、地下に潜伏する悪魔と、地上に蔓延る関係のない悪魔との混同を避けられる」 例の悪魔がこの街に居るのかどうかさえ分からない。それでも、しらみ潰しに気配を探って待ち構えるしかないだろう…。奴の次の行動の予測さえ付けられないうちは、とにかく悪魔を見つけてその正体を掴まなければならない…。 奴と同じ土俵…地下から捜索するのであれば、街を外れるほど地下道が減っていく。街中であるほど、地中には迷路のように道が作られている。 「他の悪魔と例の悪魔とで気配の違いってのが混同するモンなのか?お前たちが感じ取る悪魔の気配ってのは、どんなふうに感じるんだ?だって、マーレはベルブを直ぐに見つけられてたんだ。それが今回、わざわざ地下に降りてまで探さなきゃならねぇってのは、なんでなんだ…?」 ライラがそのように質問するから、ライラの腰をそっと抱き寄せながら微笑む。悪魔の感覚を持っている他の悪魔たちは、当然、目標の悪魔を直ぐに察知することが今の段階では難しいということを知っている、だが、人間のライラには無い感覚だから、分からないのも無理はない。 「べ、ベルブ…近い……っ」 顔を赤くしたライラを愛おしそうに見つめて、弟がライラの発言をからかい始める前に、俺がライラにその答えを伝える。 「悪魔同士の気配は、いわば魔力をレーダーのような感覚で捉えるんだ。出会ったことのある悪魔の、その魔力の特徴や大小を知りえていれば、その違いで見分けられる感じだね。つまり、姿形で判断してるわけじゃない。だから、例の悪魔に1度接触できたら、その後は魔力の特徴を覚えておくことで追跡がしやすくなる。そして察知できる範囲も広いわけじゃないんだ、レーダーのような感覚を飛ばして、探知可能な範囲の反応を捉える感じかな」 「そ、そうなのか…。なら、これは、かなり骨の折れそうな側索だな…。地下を歩き回って探ってく感じか?」 「そうだね、手分けして、レーダーのように反応があれば、その場へ確認しに行く、って感じになりそう。奴の潜む場所によっては、地下道に穴を掘ることも必要かもね…」 そんな会話を続けていると、マーレが穏やかな口調で呟く。 「悪魔の中には人間界の地下を好む者も居るそうですから…。目標を見つけたと思っても、いざその場へ向かうと、下水の中で潜んでいる他の悪魔という可能性もありますね」 そんなマーレの言葉に頷いた。そして鋭い視線をマーレや魔族たちに向ける。 「その通りだな。だが、奴は普通の悪魔じゃないだろう。一目見れば分かるほど、異常な奴だろうな…。俺たちを見て反撃をしてくる可能性も多いにある、同胞だと思わず、その場で始末していい。元凶を絶たねば天界を黙らすことができんからな」 俺がそう言うと、ライラは眉を顰める。 「だが…その場で殺っちまったら、関わってる人間の方を追えなくならないか?悪魔に人間のことも聞き出したほうがいいんじゃねぇのか?」 ライラの指摘を受けて、彼の横顔を至近距離で見つめながら微笑む。 「確かに、悪魔から聞き出して、その悪い人間をカイルに突き出せたら完璧だよね。でも、そこまでは求めないよ。あのカイルの口ぶりからして……悪魔が関わっていることが解決できれば、どうも魔界はお縄を頂戴されない言い回しだったから…」 俺はそう返しながら、ライラの手をニギニギと握っている。ライラは俺がベッタリとくっついていることも受け入れ始めたのか、作戦をイメージすることに夢中になっているのか、地図を見つめたまま真剣な表情で頷いている。 「だから、無理に悪魔を生け捕りになど考えなくていい。俺が心配しているのは、その悪魔が手に負えないほど強大で異質なものだったときのことだ」と、周囲に向かって言葉を続けた。 俺やルゼブも居る…そして先鋭の魔族たちと、マーレもだ。俺たちの手に負えないなど考えたくもないが、万全を期しておくべきだ…。 俺がそこで言葉を止めると、ビリッとした緊張感が広間に走る。マーレは静かに地図を見つめ、ベルブとライラや他の魔族たちは、額に汗を滲ませて俺を凝視している。 …そもそも、高位の悪魔じゃないはずだ。高位の悪魔のリストもルゼブに調べ直させた。だから、きっと録でもない低俗な悪魔のはず……なんだがな。 しかし魔界でも悪魔が行方不明になっているとルゼブから聞いている。もしかしたらこの悪魔と人間が、悪魔たちの失踪にも関わっている可能性も否めない…。 とにかく、俺やルゼブ、魔界が把握できない悪魔がこうして人間界で蛮行を働いている。この状況から分かるのは、この悪魔がかなり危険で厄介な存在だろうということだ。 「そのような事態は想像したくもないが……もしものときは、一時撤退を許可する。ただでさえ、今回は手分けして少数で動く状態になる。深追いはするな。今回の目的は、まずは相手の正体を探ること、そしてもし可能であれば…奴をその場で葬ること。前者の目的が達成できれば咎めない、よいな?」 魔族たちはその頭を垂れて胸に手を当てる。ルゼブも同様だった。一方で、ライラは俺を見つめ、小さく頷いた。 「では向かうぞ、人間界へ。今は丁度、人間界は夜だろう。敵の悪魔にも有利だが、俺たちにとっても条件は同じ。朝までに奴の正体を暴くのだ」

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