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第一章『兄と陸郎と、そして僕 』―2

(なんで外に出てきちゃったんだろう)  ポーチをゆっくり歩いて門の外へ。  僕が二人の前を通り抜けて二階に上がったって何の問題もない。二人は眠っているように見えたから起きない可能性もあるし、起きていたら起きてたで何も見なかったみたいに「ただいま」と言えばいい。 (でも……なんだか……)  塀に取りつけてある表札を意味もなく見る。 (壊しちゃいけない世界みたいな気が……)  けして触れてはいけない、少しの変化も起こしちゃいけないような、そんな世界のような気がした。  物思いに耽っていた自分が、塀に取りつけてある表札の『咲坂(さきさか)』という文字を何度も何度も指でなぞっているのに気づいた。 (何やってんだ、僕)  下手したら不審者扱いだ。そう思って焦って周りを見渡したが幸い見える範囲には誰もいなかった。 (どうしよう……なんかまだ入り辛い……コンビニでも行こうかな)  特に買うものもなく制服のままコンビニにい続けることもできず、そのあとはふらふらと住宅街を歩いたり、近所の小さな公園のブランコを揺らしたりしていた。 (もうそろそろいいかな……)  六時過ぎると外はもう真っ暗だった。  家の前に来ると一階の電気が点いていた。もう二人は起きているのだろう。家の中に入るとリビングから話し声が聞こえてきて、先程のような入りこむ隙がないような雰囲気はなかった。  僕はホッとしてリビングのドアを開けた。 「ただいま……」  今初めて帰って来ましたという(てい)でそう言った。 「お帰り、(おん)。遅かったね、部活?」  兄がソファーに座ったままこちらに顔を向けた。その隣には陸郎が座っている。目の前のローテーブルには参考書やノートが広がっている。あれから起きて勉強していたというところだろうか。 「こんばんは、温くん。お邪魔してます」  優雅よりも大柄な陸郎がその風体に似合った低音で挨拶してくれた。 「こんばんは。松村さん、お久しぶりです」  僕の返事に彼はにこっと笑って答えた。 「お兄ちゃんたちは今日は早かったの? 部活は?」  最初から知っている自分自身にはその言葉は空々しく思えたが二人にはそれはわからないだろう。 「うん、ちょっと体調悪くて休んだ」 「そうなの?」  それで寝ていたのか……と合点がいった。 「大丈夫なの?」  心配げを装う。 「うん、もうだいぶいい」 「優、温くんも帰って来たことだし、俺そろそろ帰るよ」  陸郎は立ち上がった。 「そう?」  それを追うように優雅も立ち上がる。  陸郎は立つと更にその体格の良さを感じさせ、百六十そこそこの僕は見上げるほど背が高い。百七十ある優雅と並んでもだいぶ差がある。  陸郎はさっとテーブルの上にある自分のものを黒いリュックにしまうと、 「じゃあ、また明日」  優雅に言い僕の傍を通りすぎる。 「温くんも、また」

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