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第一章『兄と陸郎と、そして僕 』―3
「あ、待って、陸」
リビングドアの向こうに消えて行った陸郎を優雅が追いかけて行った。
僕は振り向かず二階への階段を目指す。
「いいよ、優は。ここで。外寒いだろ」
「大丈夫だから」
玄関先での話し声が耳に入る。その後ドアを開閉する音が聞こえると話し声はしなくなった。優雅が見送りに出たのだろう。僕はなんとなく面白くない気分で階段を上がり、自室に入ると窓から外を覗いた。
僕の部屋の窓から門の前にいる二人の頭が見える。かなり近い距離で話をしていたが、やがて陸郎は手を振りながら去って行く。優雅も手を振り返しながらしばらく見送っていた。
「なに、いちゃいちゃしてるんだよ」
僕は小さい声で毒づいた。
* *
四歳年上の兄の優雅は、小さい頃から優秀で最寄り駅から電車で一駅行ったところにある中高一貫校に合格し、今は高校二年生だ。頭もよく運動神経もよいとなれば、両親の期待を背負っても仕方のないことだ。
僕はと言えば似ているのは顔だけで、あとは何もかもがごく普通で学区の市立中学に通っている。そんな僕は優秀な兄よりも両親にぞんざいに扱われていると感じてしまう。もしかしたらそう思っているのは僕の僻みで両親はそういうつもりはないかも知れないけど。
陸郎と兄、そして僕は一緒の小学校に通っていた。しかし小学校時代は二人には接点はなかったらしい。同じ小学校からその中高一貫校に入学したということもあり、一年の時に同じクラスになってすぐに仲良くなったと聞いた。
二人は部活も一緒だった。
陸上部で優雅は短距離走。陸郎は棒高跳びを主な種目としていた。それは高校になっても続いていた。兄が学校でどういう位置づけの人間かはわからないが、大会を観に行った限りでは仲間からの尊敬や信頼はあるように思えた。
しかし家に連れて来る友人は陸郎だけだ。だから彼が本当に友人と認めているのは陸郎だけなのだと僕は思っている。
* *
果たして――彼らは本当にただの友人関係なのか。
兄が家の中に入ったのを見届けると僕は勉強机に向かった。引き出しの中から、さっと写真を差しこむだけの簡単なミニアルバムを出した。
アルバムを繰るとそこには陸郎がバーの上を飛ぶ姿が写っている。最初はぶれぶれの下手くそな写真。去年写真部に入って少しはまともになった。
初めて兄の大会を観に行った時に陸郎が宙を飛ぶ姿が美しいと感じた。それからずっと撮り続けている。時には部活の一環と嘯いて彼らの学校まで撮りに行ったこともある。勿論フェンスの外からだけど。
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