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第一章『兄と陸郎と、そして僕 』―4

 アルバムのところどころが空いているそこには兄と陸郎が一緒に写っている写真があった。僕はその写真をある時そこから外してくしゃくしゃにして捨てた。  僕が陸郎のことを少しいいなと想い始めた頃で二人が並んでいるのを見るとなんとなくむしゃくしゃし始めたのだ。しかもその写真はどれも距離感がおかしい。  兄弟仲は特には悪くないが、高飛車で高慢な部分は好きにはなれない。写真を見ると「陸郎はおれのだ」と見せつけられているような気がした。 (だいたい前からおかしいと思っていたんだ……)  僕はアルバムを閉じそっと引き出しの中に戻した。    部活で忙しい陸郎が普段家に遊びに来ることはなかったが、テスト前の部活動中止期間や長い休みの時にはちらほら顔を出していた。  距離が近すぎる。  そう感じていた。  見かけると何故かいつもぴたっと寄り添って話をしている。話していることは、部活のこと勉強のこと学校での出来事。その他諸々そうたいした話ではないけど。話しかけているのは大概優雅で、陸郎はそれに頷くか答えを返すくらい。  高めのトーンの優雅の声は僕には少し耳障りで、陸郎の話し方は少しぶっきらぼうにも感じるけどその声は柔らかく優しくて僕はすごく好ましく思っていた。  でもそれはすべて優雅に向けられていた。僕の好きなその声も優しく愛おしいものを見るような眼差しも。  陸郎の家は僕の家よりも駅寄りにあった。  それなのに陸郎は部活帰りにいつも僕の家の前まで優雅を送ってくる。それは彼が陸上部を辞めた後も変わらず続いていた。  彼は高校一年生までの間に棒高跳びの選手として優秀な成績を収めており、将来を期待されていた。彼自身も大学は陸上の強豪校を目指すつもりなのだと、彼らの学校の学校新聞のインタビュー記事を読んだことがある。  しかし陸郎は一年の春休み前の部活動中に右足と腰を痛め、もう飛ぶことができなくなってしまった。今でも陸郎は右足を軽く引き摺るようにして歩いている。  彼は部活を辞めても優雅が部活を終えるまで何処かで時間を潰しているのか、前と変わらず優雅を家の前まで送って来るのだ。  これが普通の友人、例え親友だとしてもやれるものだろうか。  それとも僕が同性を好きという性癖を持っているかも知れないため、そう穿った見方をしてしまうのだろうか。  ずっとそう考えていた。  しかし今日リビングであの光景を見た時、やはり二人はただの友人関係ではないのだと確信した。  そして、僕自身の性癖の『かも知れない』も確信に変わった。    その時、僕は陸郎への初めての恋心を自覚し――同時に初めての失恋をしたのだ。

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