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第二章『お兄ちゃんの代わりにしていいよ』ー2

 目の前にいたのは兄の親友の松村陸郎だった。今でも親友なのかははっきりはしないが。何故なら高校卒業後彼は家には来なくなってしまったからだ。 (わ、まつむらさんっなんでここにっ)  そうは言っても陸郎もこの桜葉大学に通う学生なわけでいてもおかしくはないといえば、おかしくはない。でも広い敷地の中で学部も違うのにいきなり初日から会うなんて考えもしなかった。  陸郎がこの大学に入学したことは優雅から聞いて知っていた。優雅とは違う経済学部だ。大学を決める際兄が通う大学だからということを判断材料にはまったくしなかったが、陸郎には会えたらいいなとはちらっと思っていたことは否めない。 (そういえばさっき、助っ人呼んだとかなんとか優雅が言ってなかったっけ?) 「助っ人〜〜」  思わず指を指してしまった。  くすっと陸郎が笑う。 「あ、ごめんなさい〜」  いきなり失礼なことをしてしまったことを深々と頭を下げて詫びた。 「久しぶりだね、温くん。一年……振りくらいかな」  その一年振りという言葉に何かしらの陸郎の『想い』が込められているように感じてちくっと胸が痛んだ。  それを誤魔化すように僕はふふっと笑ってみせた。 「ですね」 「ん? ちょっと背が伸びたかな」 「ええ。優雅くらいにはなりましたよ」  うっかり名前を出すと少し陸郎の顔が翳ったような気がした。 「温くん、入学おめでとう。学校内案内しようか」 「ありがとございます」  心得たように言ったのもすぐ傍にいたのも、陸郎はきっと優雅よりも先にここに来て全部見ていたのだという気がした。 「いえ。あの、兄が無理矢理頼んだんですよね? あんな勝手なお兄ちゃんの言うことなんて聞くことないですって。僕、大丈夫ですから本当に。今日は帰ります」 「まあ、そう嫌わないで」 (嫌わないで、とは? それは優雅のことだろうか。それとも松村さんのこと?)  どちらとも取れる。優雅のことを嫌わないでという意味ならちょっとむっとする。陸郎のことを嫌わないでという意味なら。 (嫌うわけないよ〜) 「せっかく会ったんだし案内するよ。食事……とまではいかないけど、学食で何か奢るよ」 (アイツ、全部松村さんに話して丸投げしやがったな)  優雅に対して憤りを感じた。でもそこまで言ってくれるなら無下にはできないし、正直陸郎とまだいられるのは嬉しかった。 「じゃあ、すみません。よろしくお願いします」  ぺこっと頭を下げる。  申し訳なさも勿論あるけど、それより大きな喜びが滲みでないように口元を引きしめた。

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