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第二章『お兄ちゃんの代わりにしていいよ』ー3
桜葉大学は自宅の最寄り駅から電車で一駅のところにある。
陸郎たちが通っていた中高一貫校と同じ駅だ。中高一貫校は駅近くにあったが、桜葉大学はそこから更にバスでに二十分、徒歩だと一時間くらいかかるだらだらと緩い坂を上がった途中にある。
その先は山へと向かっていく為、緑豊かで景色の良い立地ーーつまりは田舎だ。しかし新しめの大学で校舎も綺麗で設備も今時に整っている。
学食以外にもカフェなどというお洒落な場所もあった。
「噂には聞いていましたが、綺麗なところですよね」
カフェのテラス席で僕と陸郎は向かい合って座っていた。
「カフェとかお洒落すぎるし」
陸郎はホットコーヒー、僕は陸郎の奢りのアイスココアジェラートのせチョコレートソースがけという超甘そうなもの。
さっきから自分ばかり喋ってるなと思いながら辺りを見回す。桜が綺麗に咲いているのを僕は遠い目で見ていた。
(まぁ……もともと松村さんは余り話すタイプじゃないけど)
「桜……綺麗ですね。……僕ここには学祭と入試しか来たことなくて……敷地内も余り見回ってなく……あの……今日ありがとうございました。ココアもありがとうございます」
言葉が返ってこないので陸郎がどんな顔をしているだろうと視線を正面に戻した。
僕の顔をじっと見ていた。
大学内を案内して貰っている間もちらちら見られている感じはしていたんだ。
(僕が優雅に似てるから?)
あんなに毎日家の前まで優雅を送ってきていた陸郎が、高校の卒業式を境にぱたりと来なくなってしまった。送る必要がなくなったのだろうか? しかし二人は大学も同じで恋人関係が継続していたなら中高と変わらず家の前まで来ているだろう。中高より更に長い休みには家に遊びに来たり、また大学生なら何処かへ行ったりもするのではないだろうか。
優雅の口からまったく陸郎の名も出てこなくなった。
二人の間に何かあったと思ってもおかしくはない。
優雅が一年の冬休み、家に連れて来たのは同じ学部の『彼女』だった。それから『彼女』とは度々家で顔を合わすようになった。
優雅と陸郎の『恋人関係』は破局を迎えたのだろう。そしてそれと共に『親友』の関係も崩れてしまったのかも知れない。
(だけど……陸郎のほうは、未練ありそうだなぁ。あんなふうに僕のこと見てくるんだもんなぁ)
なんだか居た堪れない気がして、また陸郎から視線を外しココの上のジェラートをスプーンで突 いた。
(ってか、松村さんに頼んだってことは友だち関係修復したのか?)
がぶっと一口ジェラートを口に放りこんだ。
「冷たっ」
くすっと笑い声がする。
「甘いもの好きなの?」
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