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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』ー1

「やっぱり送って貰えばよかったなぁ」  僕は家に帰ってすぐ後悔した。変にもやもやして断ってしまった。 (自分で優雅の代わりでいいって言ったんだし、松村さんが実際何を思っていても、自分が恋人気分になれればそれでいいんだ……) 「どうせ、長くて一年もない」  妙にしんみりした気持ちになったけど。 「次機会合ったら今度は送ってもらお」  ころっと気分を変え箇条書きに『家まで送って貰う』と書き加えた。 * *   ゴールデンウィークとはいえ平日は普通に授業がある。しかし教授都合の休講も多いし、二年生以降は自主休講も多いらしい。 (二、三限休講か〜。四限がなかったら帰るのに)  一限を終えまだ十時台だ。 (お昼には早いけどカフェで時間潰そうかな)  いつもの甘い飲み物しようかと考えてたがふと思いついて選んだのはホットカフェラテだ。今日はテラス席ではなく店舗内の一番奥の角に座る。壁は全面ガラス張りで外の景色がよく見える。  テーブルの上に載ったカフェラテを眺める。  コーヒーは高校時代に一回飲んで苦手だと思ってから飲んでいない。 (これならもしかしたらイケるかも。だって好きな人が好きなもの飲めるようになりたいよね。ブラックコーヒーはハードル高いから、まずはこれから……)  一口飲んでほろ苦い味が口に広がる。僕は念のために貰ってきていた二本のスティックシュガーを両方開け、ザラザラーザラザラーとカップに入れてかき混ぜた。  恐る恐るまた一口飲む。 (よし! これならイケる!)  ぐっと握り拳を作ったところで、 「温くん」  と声をかけられた。 「松村さん」 (わ、変なとこ見られてないよね) 「きみも休講?」 「はい、二、三限休講です。松村さんもですか?」 「そう、俺は二限だけ。四限はあるんだ? 空き時間長いね。ここいい?」  彼はいつものようにホットコーヒーを手にしていた。 「もちろんです!」  今日も昼食に会う約束は取りつけていたけど、陸郎のほうからそう言ってくれるなんて嬉しすぎる。 「じゃ、おじゃまします」  クスッと笑って向かいの席に腰を下ろした。余り表情を変えない中で、ほろっと零れるような笑い顔が好きだった。胸がきゅっとなる。 「珍しいね、カフェラテ。コーヒー苦手じゃなかった?」  一口飲んで涼しい顔で訊ねる。 (松村さんの好きなもの飲めるようになりたいなんて、言えな……いや、ここは『恋人』感を出すために言うべきか?) 「松村さんがいつも飲んでるから、たまには飲んでみようかなーとか思って」  結局中途半端な言い訳になってしまう。 「別に無理しなくてもいいんじゃないか? 砂糖二本も入れてたし」 「え?」 (わー見られてたのかー)

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