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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』ー2

「ははは」わざとらしく乾いた笑いを漏らす。 「ほんとに甘いのが好きなんだね」 「甘いのが好きといいますか、苦いのが苦手といいますか」  陸郎はふうんと鼻を鳴らしてまた一口コーヒーを飲む。  居酒屋に行ってから初めて会う。もしこの間腕を組んだことで引かれてたらどうしょうかと少しの心配はあったけど、どうやら大丈夫らしい。  しかも。 (なんか……ちょっと雰囲気よくない? 陸郎のほうからけっこう話しかけてくれるなんて)  態度が軟化しているように思えた。 「ここでずっと暇つぶしするのか?」  また話しかけてくれた。ずっと黙っていることも多いのに。 「あ、そうですね。お昼は食堂のほうにいきますか?」  昼食は約束していたのでそう訊ねたみる。 「ああ、昼は温くんの好きなほうでいいよ。それ飲んだらちょっと散歩でもする?」 「散歩ですか?」 「いや?」  まさか陸郎のほうから誘われるなんて思わなかった。 (嫌なわけないじゃないですかーっ)  叫びたくなるのを抑えて。 「いいですよ」  つき合ってあげますよ的ににっと笑う。でも急いでカフェラテを飲んでしまったから嬉しいのがわかってしまったかも知れない。 (甘っ)  さすがに甘く感じたけどそれは今の気持ちそのままだった。  桜葉大は山へと行く途中にある。そのため大学の敷地内自体にもかなりの傾斜がある。正門から裏門へと登って行く感じだ。裏門の横に広がるのは敷地外との境がわからなくなるような森だ。 「こんなところあるんですね。桜葉大広すぎですよ、まだ全部回りきれてません」  初夏といってよいくらいの陽射しがところどころ射しこんできて、きらきらと緑が綺麗な木々のなか、陸郎と並んで歩く。  陸郎は街中よりこういうところが似合っているような気がする。 「ここ、恋人たちの森っていうんだって」 「恋人たちの森? なんか、だ……っ」  思わず「ださい」と言いそうになり口を噤む。 「あー、ロマンチックですね」  慌てて言い直したけど陸郎にはバレてしまったのかくすっと笑われる。 「大学の敷地になる前からある森だからけっこう昔の人がつけたんじゃないかな? ここ、余り人来ないから恋人たちの穴場らしい。外の人も入りこんでることもあるみたいだよ」 「え、そうなんですか?」  高校までと違って大学内に学生以外が入りこんても判断し辛いかも知れない。 「ちなみにカフェや食堂にもいる」 「ええーっっ」  二人で笑いながら考えていたことは、なんで僕をここに連れて来たのかということ。 『恋人たちの森』ーーもしかして少しは僕のことを意識してと、どきっとしたけど。 (いや、違うかなー。優雅と歩きたかったとか?)  自分の考えにちょっと落ちこんだ。

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