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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』ー3

「松村さん、誰かとここに来たことあるんですか?」  別に恋人限定の場所ってわけじゃないし普通に友だちと来ることもあるだろう。 (優雅と来たことあるとか言わないでよ) 「いや、普段余りここまで来ようってヤツはいないよ。だからこそ『恋人たちの森』なんだろうけど」  確かにこの近辺には校舎もないので来るとしたらわざわざ来るってことになる。裏門を使う学生もいなくはないだろうがロータリーのある正門を使う学生がほとんどだ。 「俺はたまに独りで来るけど」 「独りで来るんですか」  なんとなくほっとする。 「なんで僕を」 「そうだな……案内人としては桜葉大のすべてを案内しなければと思って」  そう無表情で言ったのは入学式の時に大学の案内をしてくれたことだろう。 (え……っと。これは松村さん流の冗談かな? そんな無表情で?)  ふふっと笑いが込みあげてくる。 「ありがとうございます。とても素敵なところだと思います」  またその腕に抱きつきたくなったけど、人影見えないとはいえ敷地内だ。さすがにそれはできないと思った。もしかしたら僕らからは見えない木々の間にやっぱりこうやって二人で歩いている人たちがいるかも知れない。 (また学校外で会いたいなぁ) 「あの……松村さん、今度デートしませんか?」  本当はかなりどきどきしているけど軽い気持ちで言ってる(てい)を装う。 「デート?」  怪訝そうな顔をする。それはそうだろう。陸郎のほうはまだ『友だち』設定だ。 (でも友だち同士でもデートって言い方しないかな? 女の子たちがそういうふうに言ってるのを聞いたことあるけど) 「いいよ」 「えっ? いいんですかっ?」  意外にあっさり返事が返ってきたことに動揺したけど、それに気づかれないようにした。 (こういうことに慣れてるフリしなきゃ。全然慣れてないけどー) 「ああ。俺デートとかしたことないから、温くん考えてくれる? 決まったらラインして」 「わかりました。じゃあ僕考えますね」  慣れてるフリ慣れてるフリと心で念じながら余裕のある笑みを浮かべるが果たして上手くいってるのだろうか。 「そろそろ戻る? 腹減ってきたし」 「ですねー」  来たこと時の一.五倍くらいの早さで戻りながら頭の中で何時にしよう何をしよう何処に行こうと考えていた。 * * 「テーマパークとか行ってみたいな」  ネズミのキャラクターが有名な某テーマパークを思い浮かべる。  しかし、最初のデートにしては張り切り過ぎてるかなと思うし、陸郎とテーマパークってなんかしっくりこない。いつかは行ってみたいとは思うけど。  海とか山とか行っても何をするのか想像がつかない。水族館なんかはいいかも、などと散々悩み。 「やっぱり……無難に映画かな」  

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