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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』ー7

「口コミでそんなに怖くないって……それに松村さんの気になるものを観てみたかったっていうか……」  言い訳と共に陸郎への想いもぽろり。それが彼に伝わっているかはわからないけど。  アイスカフェラテフロートのソフトクリームをストローで(つつ)いてカフェラテに沈めていく。陸郎が好きな物を飲むというプロジェクトはまだ実行中。  そうしながら、そういえば、と思う。 (松村さんの腕をぎゅうぎゅうしながら、名前呼んでたような気が……りくって)  今はちゃんと『松村さん』て呼んでいる。昨日優雅が『陸』って呼んでいることを考えすぎて先走ってしまった感じだ。  後手後手だけど昨日考えていたことを実行しなければ。 「あの! 松村さんっ」 「何?」  なるべく自然体で提案したいのにたぶん僕の顔はかなり緊張していると思う。彼には気づかれませんように。 「名前で呼んでもいいですか?」 「ん?」  意を決して言ったことがこんなことか、とでも思っただろうか。意外そうな顔をしている。 「だって、名前で呼んだほうが」  そこまで言ってから声を小さくする。 「『恋人』感、あるじゃないですか」  どんな返事が返ってくるのかどきどきしたけど。 「いいよ、別に」  まるでどうでもいいことのように軽く返されてしまった。 (いいなら、いいんですけど)  もう少し何かリアクションが欲しかった。それが良いものでも悪いものでも。 「陸……だと兄と一緒だし。だいたい年上の人を呼び捨てするのもどうかと思いますよね。じゃあ『陸郎さん』でいいですか」 「うん、いいよ」  と答えてから何故かくすくす笑われた。 「何か可笑しいですか?」 「いや、さっきはずっと『りく、りく』って呼んでたのになって」 「うわっ」  叫びそうになって口を両手で塞いだ。今まで陸郎が何も言わなかったので、ワンチャン映画に集中していて聞こえなかったかもなんて思っていたけど。 (そんなはずないか〜)  改めて言われると恥ずかしさで赤面しそうになる。いや、もう確実に赤面してる。 「あれは怖くてテンパっててもう藁にも縋るような気持ちでっついっこんなふうに呼んでみたいなっていう」  もうすでに何を言っているのかわからない。 「別に『陸』でもいいけど」  そうあっさり言われて。 (確かにそうは呼んでみたいけどっ。でもそれは本当の恋人ならって話で……)  そうでないなら呼べない。そう思ったら少し切なくなった。 「そんなそんな、三つも年上の人を呼び捨てになんかできませんよ〜」  大袈裟すぎるほど大袈裟に明るい軽い口調で言った。    

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