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第五章『水族館でぇと』ー3
「謝る必要なんかないですよ。最初に用事があったら断っていいって言ってあったんですから。他に友だちだっているだろうし、急用だって入るかもしれませんしね。それに……」
切ない気持ちが溢れてしまわないように殊更明るく笑ってみせる。
「僕は兄の代わりですからね。本物のお誘いには勝てないのはわかってますから」
上手く笑えているかなと陸郎の顔色を伺うと、陸郎の一見わかりづらい表情の中に労りのようなものがちらついている。
「温くん、俺はきみを優の代わりだとは思ってない」
「いいんですよ、無理しなくて」
(だって、時々やっぱりそんな目で見ているって感じる時があるから。でも、もしこれ以上優雅が陸郎さんに構ってくることが多くなったら……僕の建前は建前として成立しなくなるんじゃ……そうなったらこの関係は終わりに……)
貼りつかせた笑顔も剥がれそうになるが、でも、と別の考えも浮かぶ。
(陸郎さんは『親友』ではなく『恋人』としての優雅を求めた。でも兄は絶対にそれには応えないはず。ならまだ僕のことを必要としてくれるかも。僕は『恋人』として接すればいい……)
「でも今は兄じゃなくて僕を選んで追いかけてきてくれた。それがすごく嬉しいんです」
気分をあげてサンドウィッチを口に運ぶ。陸郎はもうすでに食べ終わっていた。ちらちら陸郎に視線を走らせつつ、もぐもぐとサンドウィッチを頬張ひながら思い巡らす。
(恋人らしいこと……そうだ、二度目のデートしたいな。今度はもう少し遠出。デートっぽいところ)
最終的にはテーマパークを考えているが、今はまだその時じゃない。
買ってきたものを全部食べきりペットボトルの水で喉を潤す。
「陸郎さん! 今度の土曜日水族館行きませんか?」
* *
電車を乗り継いで小一時間。海の傍にある水族館。待ち合わせをして一緒に電車に乗るだけで僕はわくわくしていた。
ぐずついた天気は今日は小休止か朝からよいお天気で、そうなるとこの季節はけっこう暑い。海を見ると海岸には人がけっこう出ていた。
「海、いいですね」
普段でも余り来ないので海を見るだけでテンションが上がってしまう。
「あとで行ってみる?」
「いいんですか?」
陸郎は少し笑って頷いた。陸郎からそう言ってくれたことにまた気分が上がった。
水族館前まで来るとかなり賑わっていた。親子連れやカップルが多い。
(自分たちは……何に見えるかな? まあ、友だち同士にしか見えないだろうけど。とはいえ……)
見回しても男二人連れというのは余りいないような気がした。
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