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第六章『涙のバースデイ』ー5
僕はそれを都合の良い幻聴ということにして突っこむのはやめた。さっき僕が言ったところまで脳内を巻き戻して。
「お昼はいいけど……28日の約束だけはドタキャンはなしで」
上目遣いに精一杯可愛く言ってみた。
* *
六月二十八日は陸郎の誕生日だ。
都合良く土曜日でお互い授業もない。これは会わない手はないだろう。
恋人たちにとってお互いの誕生日は当然ビッグイベントだろう。僕ももちろん陸郎の誕生日は祝いたい。
(これが最初で最後になるかもしれない。その可能性のほうが高い)
さて何をしようと考えたが、それよりまず約束を取りつけなければ。
僕はさっそく陸郎にラインした。
『こんばんは。今日は会えなくて寂しかった』
『陸郎さん、二十八日って用事ありませんか?』
『とくにないけど』
『ならデートしましょう』
既読はついたが、すぐに返信は返って来なかった。
(あれ? やだったかな?)
やや不安になっていると通知音が鳴った。
『俺の誕生日だな』
『気を遣わせてるなら』
そこで一旦止まった。なんて送ろうか悩んでるのだろうか。
『恋人の誕生日をお祝いしたくない人なんていませんよ』
経験ありな感じで。実際は恋人なんていなかったので祝ったこともない。
『あ、代わりですけどね』
あくまで兄の代わりにという体 を崩さない。
『そう』
『こめん』
何に対してのごめんだろうか。
『その日は空けておくよ』
『楽しみにしてる』
『はい』
『楽しみにしててください』
『時間とか場所とか決めたら連絡します』
ぐっと親指を立てているスタンプを送った。
スマホを閉じてほっと溜息を吐く。
(OK貰えて良かった〜。直接言ってるわけじゃないのに、めっちゃ緊張した)
手汗まで掻いてる自分に可笑しくなった。
「さてどうしよう」
例のか条書きノートのまた新しいページを繰り、トントンとシャーペンの先で叩く。
「何かプレゼントをあげる?」
『プレゼント』とノートに書いた。しかしその後が進まない。
陸郎の欲しいもの。陸郎の好きなもの。
まだ全然わかってない自分がいて、それが悲しい。
(でも……)
と思う。
水族館でお揃いのものを買いたかったけど諦めた時のことが思い浮かんだ。
(形あるものをプレゼントしても、いつかそれがただの思い出になってしまうなら……)
そう考えるとあげないほうが良いのかも知れない。陸郎はどうかわからないが、僕自身が悲しい。
「コーヒーショップのギフト券とかならいいかな」
陸郎はコーヒーが好きだし、ギフト券なら使えばなくなる。
「我ながらいいアイデア!」
ははは……とから笑いを漏らす。
「あとは……ディナー。バイト代が入ったあとだし、ちょっと奮発して」
そう考えてたらちょっと気分が上がった。
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