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第六章『涙のバースデイ』ー9
いろいろ計画していたことを陸郎は知らない。だから仕方ないんだ。
「じゃあ、夜予約しているお店の住所送りますね。時間は十八時からです」
「ありがとう。必ず行くから」
それを聞いてから僕は通話を切った。陸郎はまだ何か言おうとしていたような感じもするが、もう何も聞きたくなかった。
「必ず……か」
それもどうなるかわからないなと思っている。
(やっぱり偽物より本物のほうを選ぶよね、普通)
僕は最初の待ち合わせの時間に駅に行き、自分の立てた計画通りに行動した。
もちろん独りで。
途中何度もバカみたいと思った。でもやめられなかった。
運がいいのか悪いのか、梅雨の晴れ間。今日の天気は良すぎるほど良い。お陰でもし雨降ってたらどうしようかと思っていた海岸まで行けてしまった。
(どうせ暇だしね)
自分に言い訳をする。
十七時四十五分にセレニタの前に着く。
「かわいい〜おしゃれ〜」
外観もお洒落なお店だ。写真でも見たが実際はもっと素敵だった。
(こんなとこでお誕生日のお祝いできたら良かったのに……)
そう思っているところがもうすでに諦めが入っている。
十七時前に一回連絡が入った。
『こめん、もう少しかかりそう』
『わかりました。待ってます』
そんなやり取りもしたけど。
(さすがにそろそろ……)
そう思ったのは予約時間三分前。僕は一人店の中に入った。
内装は木のぬくもりを感じさせる材質。オレンジ色の灯りも温かみが感じられる。一番奥の壁の前には大きな釜らしきものがあり、あそこでピザを焼くのだろうかと想像させる。
恋人たちが過ごすのに相応しいお洒落な店だ。もちろんすでに食事を始めている客の中には家族連れや友だち同士らしいグループもいる。
奥に長く伸びていく店内の左右は両方ともに大きな窓があり外の景色が楽しめる。左は今僕が歩いて来た並木道。右は海岸だ。そして両方に窓に向かっているお一人様用の席がいくつか用意されている。
(お一人様でも気兼ねなく楽しめるように……)
そんなことをなんとなく感じていたら「いらっしゃいませ」と若い女性のスタッフが出迎えてくれた。
「あの、六時から予約している咲坂です」
こんなことを言うのは人生初で身体がかちこちに緊張している。声にもぎこちなさが現れているに違いない。
「お待ちしておりました。咲坂様、二名様ですね」
そう確認されて、うっとなる。
(どうしよう……もう来る可能性のほうが低いのに)
でも、と思った。
(もしかしたら……もうすぐ……)
「すみません、一人遅れるのですが」
「承知いたしました。ではお席にご案内いたしますね」
彼女はにっこりと微笑み席まで案内してくれた。
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