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第六章『涙のバースデイ』ー10
ディナーコースの予約をしていたが、何も頼まないままというのは申し訳なくて、とりあえずカフェラテを頼んだ。
慣れてきたとはいえまだこのほろ苦さが美味しいとは感じられない。しかしこの苦さが今の心境にマッチしていた。
(にが〜いとか言って泣いてもいいかな)
もちろんそんなことをするわけにもいかない。
カフェラテを啜りながら三十分が過ぎた。特に急かしもしないスタッフに感謝しつつ、やっぱりこのままじゃ良くないという気持ちになる。
「あの、すみません」
「はい」
ちょうど通りがかった、さっきとは違う大学生くらいの男性スタッフに声をかける。彼もまた満面の笑顔だ。教育がよく行き届いている。
「あの申し訳ないんですが、もう一人が来られなくなったので、一人分だけ用意して貰えますか? お会計は二人分で構わないので」
「かしこまりました。ただ今ご用意いたします」
彼はキッチンに向かう途中で先ほどの女性スタッフに声をかけられ何か話しているようだった。若い女性だがもしかしたらホールのチーフか何かなのかもしれない。
話し終わるとその女性が僕のテーブルの前にやって来た。
「咲坂様、もしよろしかったら、あちらのテーブルにお食事をご用意させて頂いてもよろしいですか?」
そう言って彼女が示したのは、入ってから店内を見回した時に見た海岸側に面したお一人様席だった。
「お願いします」
僕はその言葉に甘えることにした。
「では、ご案内いたします」
案内され席に座ると離れる間際彼女は言った。
「料金はお一人様分で大丈夫ですので」
「ありがとうございます」
彼女はにっこり笑ってキッチンに向かった。
海岸側の席には今は誰もおらず、一人静かに食事をするにはうってつけだ。
アンティパストから始まったコース料理がセコンドピアットになる頃には空も海も真っ暗になったが、海岸線に灯りが灯る静かで美しい景色が眺めることができた。
「どうぞまたいらしてください」
外まで見送り来てくれた女性スタッフが言ってくれた言葉の裏には、「今日来れなかった方と」という言葉が隠れているように思えた。
(陸郎さんとまた来れたらいいのに)
とても美味しかったけどどこか涙の味がして、次に来ることがあったら心から楽しい食事をしたい。
僕はすぐに帰る気持ちになれず、温かみのある色のイルミネーションが施されている並木道のところどころにあるベンチの一つに座った。
「あ、そうだ。陸郎さんにプレゼント贈らなきゃ」
僕はスマホを開いた。
使ってしまえばなくなってしまう。形に残らないプレゼント。
ラインで贈ることのできる全国展開しているコーヒーショップのギフト券だ。
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