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第六章『涙のバースデイ』ー11

「お誕生日おめでとうございます。陸郎さん」  ギフト券を贈る手続きを取りながら小さく呟く。完了するとスマホを閉じてまた上品な暖色の灯りだけのイルミネーションを眺める。 (ここを手を繫いで歩いてみたかったなぁ……まぁ、無理だと思うけど) 「…………」  遠目に並木道を歩いている男に目が止まった。他にもちらほら人影があるが、その男だけはイルミネーションも見ずに一直線にこちらに向かって来るように見えたのだ。小走りで。片足を微妙に引き摺りながら。 「陸郎さん……?」  やがて僕の目の前にその男が立つ。はぁはぁと息を切らしながら。 「陸郎さん、遅いですよ」  僕は座ったまま、にこっと笑う。 「温くん、申し訳ない。抜けだすの遅くなってしまった」  大きく身体を折って謝罪の言葉を言う。 「いいんですよ、相手が優雅なら仕方ない。僕はあくまで代わりだから」  この言葉を言う度に僕の心に傷がつき、陸郎は複雑そうな表情になる。 「そんなに……急がなくたって……足痛いんですよね」  すっと立ち上がって陸郎を支えるように両腕にそっと手をかける。 「来なくたって……良かったのに……」  本当は来て欲しかった。それとは裏腹の言葉を言う声はか細く震え、視線は陸郎の胸辺りにあった。 「温くん……」  何か言おうとする陸郎を制して満面の笑みを浮かべる。顔を上げ陸郎を見た。 「料理美味しかったですよ。もう僕満腹です。一人だとなかなかゆっくりは食べれなくて一時間かからずに最後までいってしまいました」   二人で楽しく会話しながらならもう少しゆっくりと味わえたのだろう。本当なら今頃はドルチェが出て、陸郎はいつも通りコーヒーを飲んでいたかも知れない。 「店内もすごく素敵で、一人来れなくなったって言ったら海岸の景色の見える窓際のお一人様席に変えてくれるような気遣いもあって」  独りでも平気だったと、陸郎が来なかったことなど気にしていないと、そう言うつもりだったのに。出てくる言葉は完全に非難めいている。 「今度は本当に陸郎さんと来たいですね」  僕は笑っているつもりでいたんだ。 「温……泣くな」 「え……泣いてなんか……」  ほろっと頰に水滴が流れたのを感じた。  陸郎の大きな手でぐっと頭を押さえこまれる。彼は僕の顔を自分の胸に押しつけ、空いているほうの腕を僕の背中に回した。  誰かが見れば男同士で抱き合っていると変な目で見られるのではないか。 「りくろ……さ……。こんなことして、誰か」 「誰も見てないし、見てても構わない」  更に力強く抱きしめられる。 「ごめんな」  そう繰り返す言葉にもう耐えきれなかった。今だけは泣かせて貰おう。僕は陸郎の胸を涙で濡らした。  一頻り泣いて、僕らはベンチに並んで座っていた。 (やっぱり……好きだよ、陸郎さん……僕のこと好きになってくれないかな……本当の恋人だったら、きっとあの後にキスぐらいするよね。キス、してほしかったなぁ)  僕は改めて彼への気持ちを自覚した。 「陸郎さん、お誕生日おめでとうございます。プレゼント贈ったので、スマホ見てくださいね」  陸郎はスマホを確認し、「ありがとう」と微笑んだ。    

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