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第七章『やっぱり『触れ合いたい』の『好き』でした』ー6

「近場だけど、夏休みの旅行とでも思えばいいんじゃないか。夏休みの旅行なんて子どもの頃家族と行ったきりだけど」  そんなことはたいしたことじゃない、と陸郎は言いたいのだろうか。僕だけが重く、意味あるものに感じただけ。少し恥ずかしい気持ちになる。 「あ……もちろん、温くんがいやじゃなければ、だけど」  僕はすっかり頭が冷えた。にこっと笑って、 「いやなはずないじゃないですか。そうですね、そのまま混み混みの電車に乗って帰るより泊まって翌日ゆっくり帰ったほうがいいですよ、陸郎さんのためにも」 (ごめん、陸郎さん。たぶんそんなつもりで言ったわけじゃないんだろうけど)  陸郎さんの足のためにと自分に言い訳をしたかった。そうじゃないといろいろ勘違いをしそうだから。 「……そういうことじゃないんだけどな……」  ぼそっと彼が言ったことは聞こえないことにした。  泊まりで行くことはこの間洸と話した時には言っていない。話してもいいかと思ったがあの勢いだと話せばもっと陸郎のことを悪く言ってくるような気がしたからだ。    泊まったことのない綺麗で夢のあるホテルだ。  そこかしこにドリーミング・パークのキャラクターが描かれていて、売店でもグッズが置いてある。まだあの夢の世界の続きのようでテンションが上がる。  もう既にサイトでのWEBチェックイン済みで、先に送った荷物だけを受け取って部屋に直行する。部屋は十一階建ての建物の七階だ。  スマホに(キー)がインストールされていて、ドアノブの下の部分に翳すと開くシステムになっている。  陸郎がやっているのを見て「へー」とか「ほー」とか感心の声を上げてしまい、彼にくすっと笑われた。  中に入るとごく普通の綺麗な部屋だった。予約したのは陸郎で、キャラクターコンセプトの部屋もあるのだがさすがに陸郎もそこまでは考えなかったのだろう。 (まぁ男二人でキャラクターの部屋は……ないよね。彼女とかと一緒なら別だけど)  室内には大画面のテレビや備品の入ったローチェスト、窓側にテーブルセット。それからベッドが二つ。  これもごく普通のツインのベッドだけど一つ一つのベッドが、自分の部屋にあるようなごく一般的なベッドよりも広めで二人でも寝られそうだな、と考えたら急にそわそわするような気持ちになった。 (いやいや、一人ずつ寝るから!)  心の中で自分にツッコんだ。 「温くん、どっちがいい?」  そんなことを考えているとは知る由もない陸郎が何の感慨もない表情で聞いてくる。僕だけがドキドキしていた。 「あ、そうですね。じゃあ、窓側のほうに」 「了解」

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