61 / 62
第九章『『恋人ごっこ』やめました!』ー1
ちょっと浮かれすぎてたのかもしれない。
もしかしたら……なんていう期待を持ってしまった。
「陸郎さん……僕、陸郎さんのこと、ずっと前から……中学生の時から好きでした。僕は『恋人ごっこ』じゃなくて、本当の恋人になりたいんです」
この時の僕の顔からは経験豊富な仮面はすっかり剥がれ、声も震えていた。誰かに告白をすることが初めてだということを、彼にもわかっただろうか。
彼は僕から目を逸らし、そして、言った。
「ごめん……」
* *
「それでどうなったわけ?」
「どうって……聞きます、それ?」
八月が終わっても大学はまだ始まらず、僕はあの花火の日のことを忘れたいかのように、いつもより多くバイトを入れていた。このファミレスのスタッフの中には大学生も多く、帰省のため普段より人数が減っているので、いくらでも入れる感じだ。
陸郎とはあの日以来連絡を取っていない。
陸郎に会うより前に洸に会ってしまうのは仕方のないことだ。花火大会の日に休みを取ったのだから、当然「花火大会に行ったんだろ?」という話になった。
花火大会の日以降初めてシフトが重なり、退勤時間が一緒になった今日。午後十時過ぎ、ファミレスの裏口横の壁に寄りかかって話をしている。
更衣室で着替えをしている時だ。
「花火大会行ったんだろ」
と洸が話を振ってきた。
「行きましたよ」
ぼやかれつつも休みを取ったのは洸も知っていることだ、ここで隠す必要もないだろう。
「あの人と行ったんだ?」
「そうですね」
「へぇ〜花火どうだった?」
ちょうど着替え終えて洸を見ると、彼はもう着替え終わっていた。興味津々というような顔をしているが、わずかに心配げな表情が滲んで見える。
きっと聞きたいのは花火のことではないだろう。
「外で話します?」
「いいよ。あ、コーヒー貰ってくか」
更衣室の隣が休憩室でそこにはスタッフ用にコーヒーなどが用意されている。洸はコーヒーと言ったが、僕は自分で持ってきていたペットボトルで充分だった。
「温くん、コーヒー苦手なんだっけ。苦手なのにあの人の好みに合わせようとするとか涙ぐましいよね」
そういえば前にカフェで会った時カフェラテを飲んでいたのを見られていたな、と思いだす。
「いいじゃないですか、別に」
僕は裏口から出て壁に寄りかかると水を一口飲んだ。洸も隣で紙コップに入ったコーヒーを啜る。
「花火大会楽しかったですよ」
僕はあの日のことを話し始めた。
屋台で食べ物を買ったこと、はぐれそうになって手を繋いで歩いたこと。会場から離れた海辺でシートを敷いて座ったことなどなど。
僕が陸郎のことを好きだと洸は知っているから全部話してもいいかなと思った。
ともだちにシェアしよう!

