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エピローグ『眠り姫は王子様のキスで目覚める』
秋の夕暮れ
黄金色の陽が入りこむリビング。
二人の男は眠っているようだった。
兄とその親友。
兄はソファーで仰向けに寝転んで目を閉じている。そして、その親友はソファーの前で膝を折り、兄の胸に顔を埋 めている。彼は兄の手に自分の手を重ね合わせていた。
指を絡めて。
愛おしげに。
大事なものを離すまいと。
* *
その光景から目を離すことができない。
僕の頬を一筋の涙が伝い落ちた。
僕は今まで夢を見ていたのだろうか。
兄・優雅の親友で、僕の憧れの松村陸郎と恋人同士になった夢を。
一年近い物語のある、長い長い夢を。
本当の恋人同士はこの二人だったのだ。
「ん……」
苦しい吐息を漏らす唇に何かが触れた感触がして、僕はゆっくりと目を開 いた。
僕はソファーの上に仰向けに身体を預けている。誰かが僕の手に手を重ねていて、指を絡めている。
少し胸が重いのはその誰かの頭が乗っているからだ。
「陸郎……?」
「おはよう、温」
彼は顔を上げ、僕を見つめて微笑んだ。
「あれ、僕寝てた? いつの間に」
そう、さっきのほうが夢だったのだ。
今は秋でもなく、まだ午前中だった。
卒業式後陸郎も研修が始まり、それからひと月以上会えなかった。連絡だけは一言でもし合うようにはしていたけど。
その代わりゴールデンウィークにはどこかに出かけよう。二人で過ごそうと決めていた。
それが今日だった。
どこへ行っても混んでいるような時だから、近場にのんびり行こうと、僕たちらしいプランだ。
僕は陸郎が車で迎えにきてくれるのを待っていた。その間に眠ってしまったらしい。まるで初めてのデートでもするみたいに緊張してなかなか眠れなかったからだ。
「午前中から寝ちゃってるなんて、恥ずかしい」
赤くなってソファーの背のほうに顔を向けた。
「なんで……泣いてたんだ?」
片手はまだ繋がれている。空いた手で陸郎は僕の頭を撫でてくれた。
「夢を見てた」
「悲しい夢?」
「僕が中学生の頃この部屋で見た陸郎と優雅の姿――陸郎と恋人になったのが、全部夢だったのかと思って悲しくなった」
「夢じゃないよ」
僕は「うん」と答えて起き上がる。僕の手を握る陸郎の手のその上に、もう片方の手を重ねる。
「今……塗り替えられた。陸郎が同じように僕にしてくれて。きっともう見ない」
「うん」と陸郎も頷いてくれた。
「そういえば……今……」
悲しい夢から僕を起こしたのは……。僕の言いたいことがわかったのか、くすっと彼が笑う。
「眠り姫はキスで起きるかと思って」
「びっくりした! 陸郎って意外とロマンチストなんだ」
「はいっ、そこっ。いつまでいちゃいちゃしてるのっ」
突然、少し甲高い、あきれたような声が聞こえた。
「あれ、お兄ちゃんいたんだ」
「優、いたのか」
僕らは同時に棒読みのように言った。
「いたよ、いて、悪かったね。陸も俺が家に入れてやったんだろ」
そうだ。僕が寝ていたのに陸郎が勝手に入るわけがなかった。
「出かけるんだろ、早く行けよ」
「お兄ちゃんはゴールデンウィークにぼっちですかー?」
「悪かったなっぼっちで」
陸郎があの日言っていた通り、優雅は僕らの味方ではないけど、前のように邪魔をしてくることもなかった。
同性同士の恋愛をまだ誰もが認めている社会ではない。奇異の目で見られたり、興味本位でつついてくる者もいるだろう。
この先僕らの未来が順風満帆ではないことはわかっている。
それでも僕は、この先もずっと、松村陸郎の隣に並んでいると誓う。
fin.
二人の未来が幸多からんことを!
さくら乃
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