8 / 14

第8話 お試しルームシェア

結局風呂場でもエロいことをされてしまった僕は、清流に抱きかかえられてリビングへと移動した。 「大丈夫か?」 「ん……」 全然大丈夫じゃない。 乳首は少し触れただけで快感を拾ってしまうし、散々弄られた後ろの穴はまだぱっくり広がっている気がする。 手コキどころか清流の口にまで出してしまったし、身体中ふやけている気がする。 「……凄い、綺麗にしてるんだね」 清流の部屋は、モデルハウスのように整理整頓されていて生活感がなかった。 無駄なことが嫌いな清流らしいな、とぼんやり思う。 そして部屋の隅には、身体を鍛えるためのマシンがいくつか置かれている。 身長差こそあれ、僕だって百七十センチ以上ある一般男性なのにこうも軽々と持ち上げられてしまうのは、このマシンのお陰だろうか。 あとで貸して貰おう、とこっそり思った。 「テレビでも見て、ゆっくりしてて」 「うん」 僕は料理も苦手なので、ご飯作りの助っ人はできない。 運転もできない料理もできない仕事もできない……って、清流は僕のどこが好きになったのだろうかとつい思ってしまう。 いやいや、他人と比較してはいけない。 人間誰しも助け合って生きていくものなんだから、清流が苦手なところを僕がカバーする日はいつか来る。 うん、多分。 降ろされた大きなカウチソファにごろごろと横になって、ローテーブルの上にあったリモコンで向かいにある大きなテレビをつけた。 適当な番組を探してぐったりとした身体を休めていると、清流が僕の名前を呼ぶ。 僕がキッチンの方を向くと、清流が二人分の朝食をキッチンカウンターに手際よく並べているところだった。 漂ってくる香りが既に美味しそうで、僕のお腹はタイミングよく鳴る。 キッチンカウンターまでよたよたと歩いて覗き込むと、僕の好きなフレンチトーストが二枚分と、サラダとスープが用意されていた。 スープは僕がいつも飲んでるインスタントで、味の好みが一緒なのかと思ったけど、もしかしたらSNSでそんなことを呟いたかもなと思い直す。 「うわぁ、美味しそう」 「お待たせ、世那。インスタントで悪いな」 「ううん、これ好き。ありがとう、いただきまーす」 遅めの朝食を美味しくいただいて、食後のコーヒーまで出てきて、初めて来た他人の家だというのに僕はすっかりリラックスモードだ。 働き者の清流はそんな僕を見ながら幸せそうに笑顔を浮かべ、流しに置いた皿を片付けにかかる。 「皿洗いくらいは僕がやるよ」 「いや、いい。まだ身体辛いだろ」 うん、辛いかどうか聞かれれば、確かに辛い。 なんかずっとじくじく疼いている気がする。 僕は一度寝室へスマホを取りに行くと、カウチソファに戻ってそのままダラダラと過ごした。 しばらくすると清流が僕の足元に座り、視線を感じた僕は「どした?」とそのままの姿勢で尋ねる。 「世那。同せ……一緒に住まないか?」 「急だな?」 「今まで会えなかった分、ずっと一緒にいたい」 そして真っ直ぐだ。 清流の提案に、僕はうーん、と考える。 同性同士が一緒に住むって普通は同居かルームシェアって言うんだろうけど、僕たちは一応見合いをしている。 日本の法律では結婚はできないけど、見合いをした僕たちが一緒に住んだら、もうそれはほぼ結婚生活と一緒じゃないか? 僕が思考を重ねて黙っていると、清流は真剣な表情で訴えてきた。 「世那に会ったらもう駄目だ。離れている一分一秒が惜しい。今まで世那と会えずにどうやって生きていたのかと思う。だから……駄目か……?」 そんな、不安そうな顔をしなくても。 誰かと一緒に住むことは、僕の性格上別に苦にならない気がする。 むしろ、相手が僕のだらしない私生活を見たら幻滅する、という可能性があるだけで。 ああ、そうだった。 今まで通り、僕がこのお付き合いを断られる可能性のほうが高いんだったな。 ダラダラする僕の姿を見続ければ、清流だって流石に僕に抱いていたイメージは変わるだろう。 「僕の家、更新が六ヶ月後なんだけど。それまで、お試しで一緒に住んでみるっていうのはどう?」 六ヶ月あれば、僕が普段どれだけだらしない人間か、十分わかって貰えるだろう。 それより前に追い出されても、今の家に戻ればいいだけの話だ。 そう思って、少しだけ胸が痛んだ。 意外と僕は、昨日再会したばかりの清流を気に入っているらしい。 お試しでと言った僕の返事に、清流が目を見開く。 「僕の家より清流の家のほうがずっと広いから、僕がこっちの家に間借りしてもいいかな? その間の余分にかかる光熱費は僕も負担するよ」 ああでも、僕の会社から遠すぎると無理か。 そう続けた僕の言葉に被せ気味にして、清流が食いついた。 「それは問題ない、俺の家は世那の会社から近いから……っああくそ、マジか、嬉しすぎる……!」 がば、と抱き締められ、ちゅ、ちゅ、と顔中にキスを落とされる。 恋は盲目と言うが、いったい何ケ月持つだろうか。 少し自嘲気味に笑って、僕は瞳を閉じた。 *** その後すぐ、清流は僕の、つまり父の会社に転職した。 父はもともと技術畑の人間だ。 三代目にして会社を潰してはならないと、経営ではなく現場を知ることも大事と考え、ここまで会社を大きく、成功させた人。 現場でのモノ作りを知らないと駄目だという考えで成功したから、当然のように僕にも現場に近く、会社の未来を大きく左右する開発部の課長というポジションを与えていた。 それが、清流が転職してきてから、僕は営業部課長へ異動となり、清流が開発部課長になった。 下請けと協力して進めていた新しい工法や技術は清流が担当してからあっという間に特許を申請するところまでトントン拍子に話が進み、営業部は僕が任されてから上手く回るようになってきた。 傾いていた経営は、そうした技術力と今までの実績を僕が営業するようになってから、直ぐにV字回復するようになった。 僕にはこの会社を良くするような力なんてない、と思い悩んでいたことが嘘のように、今は仕事が楽しくて仕方がなかった。 私生活も仕事も充実して、幸せだった。 ――そう、恐ろしいほどに。 「ちょっと待って、きよらぁ♡」 「あいつら、何? 世那さぁ、やたら部下に懐かれすぎじゃない? あんなにベタベタ触らせて、俺を狂わせたいのか?」 「違、彼らは誰にでも、距離が、近くて……ぁあッ♡」 玄関のドアを閉めるなり服を脱がされ、首を強く吸われながら、ペニスを扱かれる。 「そういう清流だって、女の子たちに、囲まれてたくせに……っっ」 思い出して、少し胸がムカムカした。 今日は、会社の七十五周年記念の立食パーティーがあったのだ。 開発部は男性が圧倒的に多いから清流に近づく女性なんていないのだけど、今日は見事に輪ができていた。 当然のように会社社長令息である僕の周りにも輪ができるけど、どちらかというと会社の重鎮みたいな人たちが交互に挨拶にくるから、女性たちはこうした正式なパーティーでは逆に距離を取りたがる。 「……え? それってもしかして、世那のヤキモチ?」 「う~~」 恥ずかしくて、ぷいと横を向く。 すると清流は、僕の耳にぱくっと食いついた。 「あー、可愛い。こんな世那が見れるなら、我慢した甲斐があったな」 「あっ」 「世那、ベッド行こうか」 耳を舐められたままひょいと抱え上げられ、その先の快感を知ってしまった僕の身体は、期待に震えた。

ともだちにシェアしよう!