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第9話 陥落までのカウントダウン ***

清流は僕をベッドにゆっくりと寝かせると、僕の髪をその大きな手で優しく梳いた。 ひた、と当てられる掌が少し冷たくて、気持ち良い。 清流の家に居候して、三カ月。 お試しルームシェアも、半分の折り返し地点だ。 このベッドの柔らかさも香りも、隣で寝る清流の寝息も温もりも、当たり前になってしまった。 僕は極力この三カ月、変に格好つけずに素のままでいるよう、心掛けた。 お試しを解消するなら……つまり振られるなら早いほうが、お互い傷も浅くてすむ。 なのに清流は、僕に興味を失ったり呆れたりするどころか、どんな僕を見ても「家での自然体もこんなに可愛いなんて、想像以上だ」と嬉しそうに笑った。 ダボダボのトレーナーを着ていても、欠伸を噛み殺しても、うどんの汁を飛ばしても、邪魔な前髪をカチューシャで止めても、コンタクトじゃなくて眼鏡をしても、テーブルの脚に小指を打ち付けても。 今までの彼女たちから「イメージと違う」と言われた何もかも、受け入れてくれた。 「世那、顔まだ赤いな。気持ち悪くはないか? 水を持ってこよう」 僕の顔を上から覗き込んでいた清流が傍を離れようとしたので、慌ててその手を掴む。 酔っ払いでも、いい。 こういうのは、ある程度の勢いも大事だ。 「あのさ、清流」 「ん?」 僕が引き留めると直ぐに座り直して、僕の掴んだ手を優しく撫でてくれる清流。 三カ月で、こんな女扱いにすっかり慣れてしまった僕。 「あの……」 「どうした?」 「き、今日、やらない?」 僕は精一杯勇気を出して、清流を誘った。 「……世那が気持ち悪くなければ、もちろんしたいが」 「違う」 「え?」 「その……せ、セックス……本、番」 「……しても、良いのか? 無理してないか?」 恥ずかしくて、清流の顔が見られない。 僕は目を瞑って顔を手で隠すと、コクリと頷いた。 「多分、もう、痛くないと思う」 この三カ月、清流は誠実だった。 毎晩僕の後ろを丁寧に解すし抜き合いもするけど、あまりの大きさにビビる僕の気持ちを優先して本番まではしなかったのだ。 「世那……っ」 清流は僕の手を頭の上に縫い付け、貪るようなキスをする。 ああ、飲んだアルコールの味がする、酔いそうなキス。 気持ち良すぎて、直ぐに勃ってしまう。 「世那……」 「待たせて、ごめん」 キスの合間に、ポツリと呟く。 清流はその言葉に、苦しそうに、何かを耐えるように、きゅう、と眉を寄せた。 「いや、元から無理を言っていたのはこっちのほうだ。それなのに、こうして……世那にいいって言って貰えて、心から嬉しい」 「うん」 清流の指が、舌が、僕の快感を暴いていく。 丁寧に、優しく、心も身体も癒して、解す。 「んんっ、はぁ……♡」 この三カ月間、僕は清流から狂おしいほどの快楽を与えて貰っていた。 痛いことも気持ち悪いこともなくて、ただ気持ちいいと思うことだけだった。 羞恥心も背徳感も興奮剤に変えて、清流は時間をかけて僕を攻略していった。 「世那のまんこ、今はもう三本の指でも咥え込めるんだよな」 「うん、気持ちイイ……ッ」 僕の身体は、清流の指一本じゃもう、物足りなくなっていて。 「ここ擦られるの、好き?」 「うん、好きぃ……」 もっと強い刺激を求めて、あさましくも自ら腰を振ってしまって。 フゥ、と興奮した清流の熱い吐息が首筋にかかれば、僕の蕾がズクリと疼く。 「清流……、も、ちょうだい……?」 「世、那……っ」 我慢が効かなくなったのは、僕のほうが先だった。 自分の尻たぶを両手で掴んで、清流のペニスを欲しがるアナルを見せつけるように、割り開いた。 ああ、肉食獣のように瞳をぎらつかせた清流の表情が、堪らない。 彼が僕を欲していること、その事実が僕の自尊心を満たしていく。 清流は無言で枕元にあったゴムに手を伸ばして……。 「……ヤバイ、緊張で手が震える」 え? 少し驚いて、清流を見る。 確かに清流の手は震えていて、ゴムが付けにくそうだ。 百戦錬磨であろう清流が、なんで今更緊張なんてするのだろうか。 相手が男は初めてだから? 「ゴムつけるの、僕がやってもいい?」 「え?」 戸惑う清流の手からゴムを奪うと、僕は口でゴムを咥え、清流のペニスにそれを被せていった。 相変わらず、硬。 それに、でか。 被せている間にも、どんどん体積を増している気がする。 口内で最後までするのは到底無理で、口淫しながら最後は指先でくるくるとゴムを伸ばして装着した。 「ふふ、できた」 「恥っず……」 清流が片手を額に当てて、ボソッと呟く。 「お互い初めて同士なんだから、いいじゃない」 お互い女は経験あるけど、男は初めてだ。 僕は少し嬉しく思いながら、そう伝えた。 「ん、サンキュ。世那相手だとこうも上手くいかないものかって今、マジで驚いた。……世那、うつ伏せになれる? そっちのほうが、初めてはきつくないらしいから」 「うん」 僕は清流に言われた通り、ころりと転がってうつ伏せになった。 初めては顔を見てしたかったけど、仕方ない。 流血沙汰になったら、僕はいいとしても清流が真っ青になりそうだし。 「次は顔を見てしようね」 「……世那ってさぁ、本当に俺を喜ばせるの上手いよな」 「どういう、んんッ♡」 腰をぐっと引かれ、ローションでとろとろに解された中心に、ぬち、と質量のあるものが押し当てられた。 「ぁ、清流……っ」 「世那、痛かったら言えよ」 ぐぷ、と僕の後ろの穴に、清流の亀頭が埋め込まれた。 指とは全然違う、圧迫感。 「ひぅ♡ あっ♡ ああっ♡♡」 ローションの助けを借りて、出し入れを繰り返しながら、清流のペニスがゆっくり、奥へ奥へと沈んでいく。 「くっ……」 「んぁっ♡」 途中、前立腺を亀頭で押されて、身体がビクッと喜んだ。 清流も一度そこで奥へ進むのをやめて小刻みにピストンを繰り返し、カリで気持ちの良いところを何度も可愛がってくれる。 「清流♡ 清流ぁ……っ」 指で擦られるよりもずっと気持ちが良くて、腰が揺れる。 勝手に腸壁が動き、清流のペニスをきゅうきゅうと絞り上げた。 いつもならそこで、僕が達するまで弄り倒してくれるのだけど、今日は違う。 「世那、もう少し奥まで、挿入す(いれ)るぞ」 「ぁあっ、深……っ」 どうやら前立腺の辺りは、清流の長さからすると中継地点のようだ。 指とは違う長さのものが今まで踏み込んだことのない場所を掘り出して、生理的な冷や汗が滲む。 お腹に内臓を押し分けられているような、異物感。 痛くはないのに本能的に恐怖を感じ、身体が震える。 ぎゅうと枕を握り締めて耐えていると、その僕の手の甲に、清流の掌を安心させるように重ねてくれた。 その優しさに、胸がきゅうう、と締め付けられる。 「……っ、世那、ちょっとだけ、力抜いて」 「う、うん……っ」 僕が深呼吸しながらお尻の力を抜くよう努めていると、その力の抜けた瞬間を狙って、清流が腰をぐっと押し付けてきた。 「んぅっ♡」 「……一応奥まで、入っ、た……」 「……ほんと? 良かった」 感極まったような清流の声に、僕も嬉しくなって喜びを分かち合う。 僕のお腹のほうまで、なんだかぽっこりしている気がする。 「世那、痛くないか?」 「うん、大丈夫」 「やばい、気を抜いたらイキそうになる」 「ふふ、好きにイっていいからね」 僕は枕を握り締めていた手を緩めてひっくり返し、清流の手をぎゅっと握った。 僕の身体で気持ち良くなってくれたことが、純粋に嬉しい。 「嫌だ、一回きりなんだから、ぎりぎりまで粘る」 「二回はしてもいいから」 清流のペニスを受け入れたお尻の穴が、じくじくとした疼きを訴える。 冗談ではなく、一回で我慢できないのは僕のほうかもしれないと思った。 早く動いて、ナカを思い切り擦って欲しい。 「……マジか」 無理はするなよ、と言いながら清流はゆっくりと律動を開始する。 ぱちゅ、ぱちゅ、という控え目な水音が、徐々にじゅぶ、じゅぼ、という卑猥な水音へと切り替わって。 「ぁん♡ そこ、好きぃ♡♡」 「ああくそ、搾り取られるッッ」 やがて清流はゴム越しに僕のナカで、熱い飛沫を放って。 二回目は、約束通りに顔を見て、恋人繋ぎをして、キスをしたまま、放ってくれた。

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