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(六)番外 獅子帝の黒い猫
鳥の鳴き声を聞いて、皇帝ラシッドは目を覚ました。
帳の外はまだ薄闇に包まれている。起きるには早い時刻だが、よく眠れたようで目覚めはすっきりしていた。
左の肩には温かな重みがある。深く眠れたのはこの温もりのせいだろう。
暗い寝台の中で、ラシッドは寝息を立てる相手をよく見ようと、頬にかかる黒髪に触れた。
指の間を滑り抜けた髪の下から、象牙色のきめ細かい肌が現れる。その頬にも顎にも、成人男子に付き物の体毛は見当たらない。
柔和な顔立ちは絶世の美貌とは言い難いが、人の心をほっとさせる優しさがある。
細い顎と形良く整った小さめの唇。指で抓むのにちょうどいい小振りな鼻。少々控えめな鼻筋も、この宦官らしくて愛らしい。
柔らかな弧を描く黒い眉、瞼に沿って影を落とす長い睫毛。
瞼を開けば、そこにあるのは濡れて光る漆黒の瞳だ。
闇よりもなお深い色の瞳は、感情の起伏を読みがたい。黒い目は瞳孔の動きが見えにくく、血の気を昇らせても色が変わらないからだ。
初めの頃は、それが胡散臭く思えて好かなかった。
「……ぅ……ん……」
指の背で頬をなでると、薄く開いた唇から寝息のような声が漏れた。
瞼の下で眼球が動くのが見えたので目を覚ますのかと思ったが、昨夜もさんざん啼かせた相手はラシッドの腕に顔を擦りつけただけで、また寝入ってしまった。
体を丸めて眠るさまを見ていると、まるで寝台の中に猫でも潜り込んできたかのようだ。
喉の奥で笑いを殺して、ラシッドはこの黒い猫を初めて抱いた日のことを思い出した。
「さっさと連れていけッ!」
叱責の声を放つと、床に座り込んだ側女は火が付いたように泣き出した。
しくじったと思った時には、もう遅い。怯え切った娘は床に張り付いて金切り声をあげ、宦官たちが二人がかりで歩かせようとしても動こうとしない。
甲高い泣き声に余計に苛々して、ラシッドは床を踏み鳴らした。
「宦官長ッ! 余の後宮にまともな側女はおらんのか!」
「申し訳ございません」
ラシッドは声が大きい。生まれつき体が大きいうえに、戦争三昧でここまで来たので、激すると軍に下知するような厳しい大声になってしまう。
女子供から怖がられるのも道理ではあるが、呼びつけた側女にことごとく逃げ回られたのでは、さすがに腹が立って声を抑える気にもなれなかった。
皇子を産んだことで寵妃に昇格させたアイシェが、裏で何やら画策して寵妃や側女を放逐したことは、ラシッドも知っていた。
まともに夜伽を務めるのはあの女くらいだったので、少々のことは大目に見てきたのだ。まさか、他の女をすべて後宮から追い出していたとは思いもしなかった。
今の後宮に居並ぶ女たちは、老女を除けば初潮が来たかも怪しい小娘ばかりだ。
なるべく年長の、我慢強そうな娘を選んでみるものの、どれもこれも判で押したように怯えて逃げ回る。まるで化け物でも目にしたかのような怖れようだ。
アイシェは出産に備えて離宮入りしている。責任を問うてやりたくても、まだ当分は帰ってこない。模擬戦や剣の鍛錬で気を紛らわすのももう限界だ。
新しい奴隷を買い取らせても、後宮に入れられるのは処女だけと決まっている。結局同じような小娘しかやってこないだろう。
怒りの持って行き場を見つけられないまま、ラシッドは頭を下げる小柄な宦官長の頭布に向かって怒鳴りつけた。
「怠慢もいい加減にしろ! 側女の躾はお前の職務だろうが!」
「仰せの通りでございます。まことに申し訳ございません」
ラシッドの落雷のような怒声に、床で蹲る側女と宦官は凍り付き、顔色を失くして震え出した。
しかし怒鳴られている当の宦官長はと言えば、深々と頭を下げたまま、彼らに早く退室せよと手で促している。いやに落ち着き払っているではないか。
衛兵や小姓たちですら、皇帝の怒りを怖れて部屋に入ってこようともしない。側女は腰を抜かして震えあがっている。
それなのに、責を問われるべき宦官長がこれほど淡々とした様子を見せるのは、皇帝たる自分を小馬鹿にしているせいかと、ますます怒りが募っていく。
確か古参の宦官のはずだ。今度のことは自分の責任ではないと、開き直っているのか。
ラシッドは、頭を下げたまま動かない宦官を睨み据えた。
筆頭寵妃のアイシェが離宮へと下がって、ひと月ほどになる。
この状態を招いたのは、疑うべくもなくアイシェであろうし、その行いを見過ごしてきた自分自身でもある。しかし、代理とは言え、後宮の管理を任された宦官長に、責任がないとは言えない。
一か月という時間があったのだ。新しい奴隷を入れるための予算も組ませてある。
そこは機転を利かせて、乳臭い小娘ばかりでなく、皇帝の閨を満足させるような熟練の女を用意すべきなのではないか。
「側女の教育が行き届きませず、申し訳ございません」
決まりきった謝罪はもう聞き飽きた。
ラシッドにもわかってはいる。自身が並外れて大きく、力も強いのが一番の要因だ。
宮廷の貴族たちさえ、面と向かって相対すれば顔に怖れを貼り付かせる。こちらが何も言わないうちにしどろもどろになって、聞きもしない言い訳や命乞いをし始める。煩わしいので、不用意に威圧せぬよう臣下の席を遠ざけたくらいだ。
この部屋へやってくる側女たちも、初めは皆愛想笑いを浮かべている。
頬を染め、緊張の中に誇らしげな様子さえ見せて、ラシッドの歓心を買おうと懸命なのがわかる。厚い胸板や太い腕を目にしても、むしろ恍惚とした表情を浮かべるほどだ。
しかしいざ事に及ぼうと衣服を緩めた途端、サッと顔色を変えるのだ。
猛獣の檻に閉じ込められたかのような怯えぶりに、宥めてやる気も起きない。
それでも初めの数人は我慢した。
後宮に入る側女たちは生娘であることが条件だ。ほかの男の手がついていない女を入れようとすると、どうしても年若い娘になる。処女のまま閨房のあれこれを教えるには限界があることも理解はする。
だがもう一か月だ。
この際、生娘である保証などなくていい。礼儀作法を仕込む時間がなくてもいい。
呼びつけられたら泣かず喚かず、ただ黙って寝台に転がる女が一人いればそれでいいのに、たったそれだけの要求が叶えられない。
大本の原因は自分にあるとわかってはいるが、ラシッドの我慢も限界だった。
「お前は余から与えられた責務を軽々しく考えておるようだな」
引きずられて部屋を出ていく側女と、慌てふためく宦官たちを横目で見ながら、ラシッドは底冷えのする声を出した。
「余の忍耐にも限度があるぞ」
「けっして疎かにするつもりはございません。力不足を幾重にもお詫び申し上げます」
同じ姿勢で頭を下げたままの宦官長が、静かに答える。
吹けば飛ぶような宦官のくせに、真正面から皇帝の叱責を受けて狼狽える様子もない。謝罪はしごく真っ当だ。それがまた余計に腹立たしい。
「ならばこの責任をどう取る!? 代わりにお前が寝台に侍るか!」
言いながら、ラシッドは頭布ごと頭を掴んで顔を上げさせた。
いったいどんな不貞腐れた顔で同じ詫びを繰り返すのかと思ったが、向き直らせた顔は思った以上に若かった。
宦官の長の地位に就くからにはそれなりの年齢のはずだが、ラシッドの目に映る顔はようやく成人したばかりの若者のように思えた。
彫りの浅い柔らかな顔立ちと象牙のように淡い色の肌は、異国の出身であることを表している。髪は頭布に隠されて見えないが、眉と瞳は黒だった。
濡れた黒曜石のような瞳が、蝋燭の灯りに照らされながら、ラシッドを見つめ返してくる。
怯えて震えあがっているのかとも思ったが、黒々とした漆黒の目からは恐怖も阿りも、何も読み取ることができなかった。
「責任は私にございます。どのような罰もお受けいたします」
品のいい口元が動いて言葉を紡ぐのを見るうちに、抑え込んでいたラシッドの下腹が滾り始めた。
──宦官、というのは宮殿に仕える者の中で、去勢された男を言う。
後継者を残さないので臣下として重用されることもあるが、多くは後宮に入って側女や寵妃の身の回りの世話に従事する。そのほぼ全員が奴隷だ。
幼いうちに去勢されたものは、声が太く変わることもなければ髭も生えない。背丈もさほど伸びず、男とも思えぬ柔らかな体つきになると言われている。娼館ではそれなりの高値が付くらしい。
目の前の宦官長は、外見的にはまさにそういう宦官だった。
声も顔立ちも優しげで、髭の痕跡一つ見当たらない。──これならば、女だと思えなくもない。
「……寝台へ行って、犬のように這え」
ラシッドは低く命じた。
狼狽して逃げ帰るかと思ったが、宦官長は一礼するとしっかりした足取りで寝台に歩み寄っていく。左の足首で鈴がシャラシャラと鳴った。
鈴の数は六つか七つか。
若く見えるが、それなりに宮殿での場数は踏んでいるようだ。
多少は肝も据わっているようだが、おそらくこの宦官は、側女たちが泣き喚いてこの部屋から逃げ出そうとする理由を知らないのだろう。ならばわからせてやればいい。
皇帝ラシッドがどれほどに強大か。端の小娘如きに夜伽が務まる相手かどうか、骨の髄まで叩きこんで、わからせてやろう。
そうすれば、もう少し知恵を絞って職務に取り組むようになるはずだ。
「裾を捲れ」
さすがにこの宦官は命じられた意味を正しく理解しているようだった。
あれこれ言わずとも、ラシッドがことを行いやすいように、寝台の端に足を開いて四つん這いになる。命令を聞き返すこともなく、迷いもない動作で裾を捲り上げた。
立ったまま犯せるちょうどの位置に、男とも女ともつかぬ幾分丸みを帯びた尻が突き出される。
最後の情けで、ラシッドはそこに香油を垂らしてやった。
「良いか、これは余の閨を軽んじたことへの罰だ」
「……畏まってお受けいたします」
人形のような宦官長は、従順に答えた。口ぶりだけは殊勝で、それもまた小憎らしい。
ラシッドは捧げられた肉体を見下ろした。
薄闇に浮かび上がる小振りな白い尻は、思いのほか艶めかしく目に映った。
香油を掌に垂らして、ラシッドは自身を駆り立てる。まともな女に当たっていないせいか、溜まりきった欲望はすぐに隆々と猛り始めた。
ほかの男と比べたことはないが、側女たちの反応を見るに、自身の陽物はかなり大きいのだろう。
それは察せられたので、女を抱くときにはいつも手加減をしている。
窮屈に思いながらも欲望を抑え気味にして、過度な負担をかけてしまわぬように気遣ってやるのだが、それでも泣き出す女が大半だ。これ以上どうしろというのだと、怒鳴りつけてやりたくなる。
生憎、ラシッドには本気で怯える相手を手籠めにして愉しむ嗜好はない。
半端に興奮を高めた状態で、途中で相手を解放せねばならぬ腹立たしさは、宦官などには到底理解できぬものだろう。
ならば二度と同じような失態がないように、身をもって教えてやればいい。
両手で掴んだ尻肉は、思いのほか柔らかだった。ひやりとした肌はきめが細かく、掌にしっとりと馴染んでくる。
「入れるぞ」
自身を宛がって宣言すると、返事の代わりに息を吐いて力を抜く気配があった。覚悟だけは良いようだ。
「う……」
体を傾けながら狭い入り口に亀頭を押し入れると、押し殺した呻きが聞こえたが、両手に掴んだ腰は逃げようとはしなかった。
大きいとは思っているだろうが、実際の大きさまでは知るまい。どこまで耐えるか見物だと思いながら、ラシッドはゆっくりと身を沈めていく。
女の蜜壺以上に、宦官の肉は狭かった。四方八方から絞り込んでくる圧。眉を寄せてそれを堪え、じりじりと奥へ進んでいく。
雁の部分が通り抜けるときにはかすかな呻きが上がったが、女たちの騒がしい泣き声に比べればか細い吐息のようなものだ。両手両足を踏ん張り、何度も小刻みに息を吐きながら、宦官はまだ耐えている。
──そろそろ泣きが入る頃だ。死に物狂いで逃げようとして暴れ出すに違いない。
そう思いながらも、ラシッドはなおも身を進めていく。
宦官は荒い息を吐いてはいるが、やめてくれとも言わず、寝台の上を這って逃げようともしなかった。
挿入が半ばを過ぎた時に、迷いが生じたのはラシッドの方だ。
女と違って、男のここは本来何かを受け入れるような場所ではない。怪我を負えば治療が難しい場所でもあるため、下手をすれば死んでしまうこともあり得る。
宦官を犯して嬲り殺したとなると、ますます側女たちは怯えるだろうし、ラシッド自身も寝覚めがよくない。
交わりを途中で止めねばならぬことなど日常だ。ここで終わりにしてやっても罰としては十分だろう。
だがそう思うさなかも、宦官の肉はラシッドの欲望を少しずつ受け入れ、呑み込んでいく。とても受け止められそうにもない小振りな尻だというのに、重みをかけて圧し掛かっていくと、体重をかけた分だけ身が沈んでいく。
まるで底なしの沼だ。呑み込まれ、温かい肉に包みこまれていく。
もう、止められる気がしなかった。
行けるところまで行きつきたい。
咥えこむ肉の感触に奥歯を噛み締めながら、もう少し、もう少しと進んでいく。宦官の肉は緩やかにうねりながら、それを受け止める。
──まさか、こんなことがあるはずがない。
そう思った時には、ラシッドの体は少し冷えた宦官の尻に密着し、猛り狂った欲望は余すところなく狭い肉に締め付けられていた。
「……入ったぞ、全部……」
口から出た呟きは、呆然とした響きを帯びていたに違いない。
どんな女もこれほど深くラシッドを受け止めたことはない。その心地よさに、不覚にも呻きが漏れる。
汗を浮かべた肌はひやりとしているのに、潜り込んだ体内は温かだった。熱を帯びた粘膜がラシッドの砲身に絡みつき、強弱をつけながら絞り込んでくる。
処女地に踏み込んだ時の窮屈さと、手練れの女から搾り取られるかのような肉襞の蠢き。
堪らず、ラシッドは腰を突き上げ始めた。
「……ッ、……ッ、ッ……ウ……ッ」
四つん這いになった宦官が声を押し殺す気配がした。
ずいぶん苦しげなその響きに、過ぎた罰を加えている自覚はあったが、ここまできてしまえば止められるものではない。ともすれば暴走しそうになるのを最後の理性で踏みとどまり、思いきり突き上げたいのを緩い動きに留めるのが精いっぱいだ。
今は何も言うな、とラシッドは胸の内で念じた。
興醒めするような悲鳴はあげてくれるな。もう少しの間だけ、こうして温かい肉にすべて包まれる心地を味わいたい。
「……ぅう……う、ッ…………あ……!」
ラシッドの願いに反して、苦しみに耐えかねたように宦官は腕を崩れさせ、体が僅かに逃げていこうとする。
すまぬと思いながらも、ラシッドは両手でその尻を引き寄せた。
あとで十分な褒賞はくれてやるから、今このひと時だけ我慢せよと願う。敷布を握りしめる手が苦痛を表していたが、ラシッドはそれを見なかったことにした。
もうすぐ終わる。あともう少しだ。
最後の頂に昇りつめるために、少しばかり動きを激しくした──その時。
「あ! ……ぁああッ!」
ついに怖れていた悲鳴が上がった。
──そう思った途端、ラシッドの牡は熱い肉の中に深々と呑み込まれていた。
ちゅっぷ、ちゅっぷ、と粘る水音がする。
ラシッドを咥えこんだ白い尻は、淫靡に動いて濡れた肉壁の最奥へと、先端を擦りつけていた。
誰にも受け入れられなかった凶器に食らいつき、四つん這いの宦官は鼻から抜けるような悲鳴をあげた。
「あ、あああ、あああぁ……あぁ、い……いッ……ッ……」
それが苦痛に耐えかねた悲鳴でないことは、もう明白だった。
男とも女ともつかぬ掠れ声で、宦官が啜り泣く。
「お、く……あっ、あっ、奥が、蕩ける……ッ、奥が、あっ、ぁあ──……ッ」
嬌声としか思えぬ声とともに、象牙色の尻が貪欲に揺れる。
ごくりと唾を飲み込んで、荒々しい息を一つ吐いた後、ラシッドは淫らに踊る腰を両手で捕らえた。──奥が蕩けると言ったのか、この宦官は。
誰もが途中で音を上げた陽物に、奥を突かれて蕩けてしまいそうだと、そう言ったのか。
「……ここか」
「ひゃ、うぅッ……!」
腰を入れて突き上げると、ラシッドの掌の下で宦官の腰が大きく跳ね上がった。
媚肉がしゃぶりつくように絡み、容赦なく精を搾り取ろうとしてくる。
そうはさせるかと焦らすように小刻みに突くと、強情な宦官がついに泣きながら懇願した。
「ああぁ、お許しをッ……もう許してください、陛下……ッ」
敷布に顔を擦りつけて哀訴する言葉とは裏腹に、白い尻は喜悦を示して揺れ続けている。
──不意に大声で笑い出したくなるほどの歓喜が、腹の底から押し寄せてきた。
この貪欲な宦官は獅子帝の逸物を根元まで喰らって、主人の欲望に奉仕するどころか、己が快楽を貪ろうとしているのだ。
「許せだと!?」
「いひいぃッ……!」
力強く突きあげてやると、裏返った鼻声が上がった。
律動を少しずつ大きくして悲鳴が高くなっていくのを楽しみながら、ラシッドは手を伸ばして宦官の下腹に触れてみた。
思った通り、ごく淡い柔毛に守られた下腹は蜜でトロトロに濡れている。
ラシッドの極太の牡に犯されて、女のように絶頂を味わった証だった。
「許してほしくば言ってみよ! どうしてここが! これほど濡れておるのだ!」
狭い肉壺は、いつの間にかねっとりと絡みつくようにラシッドを迎え入れていた。
突き上げに合わせて尻を振り、媚肉は吐精を強請って全体にまとわりつく。
奥を突けば吸い付かれ、引き抜けば絡めとろうと締め付けてくる。
肌と肌がぶつかるたびに悲鳴混じりの嬌声が聞こえ、長衣に包まれた背が仰け反るさまの、なんと色めかしいことか。
長い黒髪が頭布から溢れ、寝台の上で渦を巻いた。
「言えッ!」
皇帝の命令に答えたのは、恍惚の色を隠そうともしない叫び声だ。
「……果てまし、たッ……今も、ア! ア────ッ! ……い、ッてる……ッ」
「……く、ッ!」
高く叫ばれた善がり声に、全身の血が沸騰するかと思うほど興奮した。
「……ゆる、し……ゆるして、ッ……おくはッやぁあッ、いっちゃ……──ッ……」
懇願を聞き流して嫌がる奥を責めてやると、宦官は全身を震わせてまた昇りつめた。蠕動する媚肉がラシッドを絞り込む。
奥歯を噛み締めて律動を高めながら、ラシッドは今まで味わったこともない昂揚を覚えていた。
さして大柄でもないこの宦官が、女たちを怯えさせた巨躯を受け止め、あろうことか絶頂に鳴き狂っている。
逃げかかる体を引き戻し、押さえつけて思う存分に蹂躙してやっても、上がるのは胸をくすぐる悦びの声だ。憐れに許しを請いながら、温かな媚肉も柔らかな尻もラシッドを咥えこんで離そうともしない。
奥へ奥へと引き込んで、この雄々しい武器にしか達しえぬ場所を責めてくれと、浅ましいほどにせがんでくる。
──男として、これほどの満足がほかにあろうか。
「出す、ぞ……ッ」
噛み締めた歯の間から低い唸り声をあげて、ラシッドは精を解き放った。久々に味わう吐精は、いっそ獣のように咆哮したいほどの解放感をラシッドに与える。
引き寄せた尻を逃がすまいと、ラシッドは両手に力を込めた。
艶めかしい肉に根元まで埋もれて放つ精の心地よさ。胴震いして最後まで注ぎきってやる。
たっぷりと放つと、宦官の柔らかな肉襞は叩きつけられる精液を一滴も零すまいと、吸い付くように締め付けてきた──。
寝息を立てる穏やかな顔を、ラシッドは見つめる。
柔和な顔に薄い笑みを浮かべる宦官長は、この国の人間と比べると感情の起伏に乏しい。
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