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Scene 02-3
翌朝、目覚めるとすでに日は高く、屋敷には人が立ち働く気配がしていた。
昨日もらった洋服を急いで身に着け、適当に髪を結んで部屋を飛び出す。どこへ行けばいいのかもわからないまま板張りの廊下をぺたぺた歩いていくと、小柄な女性の姿があった。品の良いグレーの髪をひとつにまとめた、温和そうな人だ。エプロン姿の彼女はユウヒの姿を認めると、ぱっと目を見張った。
「おはようございます! もしかしてあなたがユウヒ様?」
「ハイ……あ、うん……。おはよございマス……」
「まぁ、なんてお可愛らしい。若様からうかがってますよ。さあさこちらへ。朝ご飯にしましょうね」
「ツバキ、さん……は?」
「とうにお仕事にお出掛けです。夕方にはお戻りだそうですよ」
「……ふぅん」
「お寂しいでしょうけど、お夕飯はご一緒できると思いますよ。若様がお留守のときに困ったことがあったら、わたくしに何でもおっしゃってくださいましね」
「うん、ありがと……」
女はこの家の使用人で、春江 と名乗った。丸顔に柔らかな笑みを湛えたその表情はどこか懐かしい印象で、ユウヒを安心させた。
案内されたのは庭に面した和室だった。今日は天気が良く、広縁から差し込む日差しは二月とは思えぬ暖かさだ。朝食はここと決まっているのかと尋ねたが、そうではないと春江は言った。
「お好きなところで構いませんけど、ユウヒ様はまだお屋敷の様子がおわかりにならないでしょう? こちらのお部屋、眺めがよくて私好きなんです。あとでお庭もご案内しますわね」
春江はこの屋敷の庭がどれほどの広さで、どんな植物が植えられているかなどを説明しながら、ユウヒのための朝食をてきぱきと設えた。炊き立ての白飯を頬張りながら、ユウヒは春江に尋ねた。
「赤い髪のひとは?」
「あら、翠くんにはもうお会いになったんですね。彼はお夕飯の担当なんですよ。来るのはいつもお昼前くらいかしら」
「ふぅん……」
翠は夕飯の支度に加えて食材や厨房の管理を担当し、春江は朝食の支度と、そのほか清掃や洗濯など雑多な家事を引き受けているのだと言った。何人かいる使用人には、それぞれ役割がきちんと決まっているらしい。
「俺は何したらええん?」
「何、とは?」
春江は首を傾げる。
「えと、掃除とか、皿洗いとか草むしりとか……なんか俺にできそうな仕事……」
ユウヒが言うと、とんでもない! と春江は目を丸くした。
「そんなことされては私たちが若様に叱られてしまいます。気になさらずゆっくりお過ごしくださいな」
客人であるユウヒに家事などさせるわけにいかないと春江は言い張る。だが椿生への奉仕が叶わない現状で他の仕事もせずただこの家に居座るなどという真似は、ユウヒにはできなかった。まるっきり無駄飯食らいの役立たずではないか。椿生は誤って買い取ったユウヒをこの家に置いてくれるつもりのようだが、何の役にも立たないとわかればいずれ放り出されてしまうだろう。
「なぁお願い。怒られへんようにちゃんと話すから、何か手伝わせて」
「困りましたねぇ……東眞さんもいないし……」
春江は眉を寄せる。東眞はこの家の執事であると同時に椿生の秘書でもあるため、彼と共に仕事に行ってしまっているのだという。
ユウヒは箸を置き、唇を噛んで上目遣いに春江を見つめた。
「どうしてもあかん? おれもなんか役に立ちたいねん……」
いかにも面倒見の良さそうな春江の情に訴える作戦だった。役に立ちたいという思いはもちろん本心だが、可愛がられておいて損はないだろうという計算も多分に含まれている。
狙ったとおり春江はぐっと声をつまらせ、黒目がちの小さな目を潤ませた。
「なんて健気な……。わかりました、ではお屋敷の案内がてら私のお手伝いをしてもらいましょうか」
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