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第16話 昼の光、夜の手

昼下がりの陽射しが、カーテン越しに部屋を柔らかく照らしていた。 黒瀬の部屋。 テーブルの上にはコンビニの袋と、 一ノ瀬が持ってきた謎のプリンがいくつも並んでいた。 「いやぁ~退院おめでと、黒瀬!」 「……なんだそのテンション。」 黒瀬が呆れたように言うと、 一ノ瀬が笑った。 「まぁ、安心しろよ。あの三年、もう手出ししてこないから」 久遠が笑いながらコーヒーを置く。 「確かに。今回ばかりは……俺なら二度としないね。」 2人がニヤニヤと顔を見合わせる。 黒瀬は目を細めて言った。 「……お前ら、何したんだよ。」 「んー? まぁ、少し“話し合い”をな。」 一ノ瀬が悪戯っぽく笑う。 久遠はコーヒーを啜りながら、 「正義感が強い友達がいて良かったねぇ」とぼそり。 黒瀬はため息をつきながらも、口の端だけがわずかに上がった。 田嶋と成瀬は、完全にポカンとしている。 「え……何の話?」 「うん、俺もよくわかんない。」 その様子を見て、一ノ瀬と久遠は堪えきれずに笑い出した。 「いいんだよ、お前らはそのままで。」 「そうそう、平和が一番。」 笑い声が部屋に広がる。 窓の外では、蝉の声が遠くで響いていた。 ⸻ 夕方になって、 一ノ瀬と久遠、田嶋が帰っていった。 玄関のドアが閉まる音がして、 部屋には成瀬と黒瀬の二人だけが残った。 成瀬は小さく息を吸って、 「……ちょっと動かないで。」 とだけ言い、タオルを持って黒瀬の隣に座る。 「何してんだ。」 「額の包帯、少しずれてる。貼り直す。」 成瀬の指が黒瀬の髪に触れる。 その距離に、黒瀬の喉が一瞬鳴った。 ほんの数センチの距離。 息が触れ合うほど近い。 成瀬は、何も言わずに包帯を整え、 濡らしたタオルで頬についた傷跡を軽く拭いた。 「……痛くない?」 「平気。」 短い沈黙。 黒瀬が小さく笑う。 「……なんか、看病慣れてんな。」 「慣れてない。……けど、黒瀬だから。」 その言葉に、黒瀬の視線が止まった。 成瀬は気づかず、タオルを畳んで立ち上がろうとした。 その手を、黒瀬がそっと掴む。 「なぁ、成瀬。」 「……なに?」 「ありがとな。……お前がいてくれて、よかった。」 成瀬の胸が熱くなる。 俯いたまま、 「……俺も、黒瀬が生きててよかった。」 二人の間に、静かな風が通った。 夕日が窓を染めて、部屋の影がゆっくりと重なる。 言葉もいらなかった。 ただ、あの日の恐怖も、涙も、今は全部、あたたかい静けさに変わっていた。

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