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第15話 死んでも守りたい
放課後の教室に、また笑い声が戻っていた。
一ノ瀬がふざけ、久遠が呆れ、田嶋が笑い、黒瀬が口元だけで笑う。
そしてその輪の中に、もう一度成瀬がいた。
あの嵐の日々が嘘のように。
五人の当たり前が、やっと戻った。
そう思っていた。
⸻
数日が経った頃。
成瀬はいつも通り、田嶋と昇降口を出た。
日が落ちるのが早くなってきた。
ふと、背後から名前を呼ばれた。
「——成瀬。」
振り向いた瞬間、黒い影が腕を掴んだ。
「やめっ——」
声が喉で潰れる。
目の前に、見覚えのある上級生。
笑っていた。
「今日は黒瀬はいねぇのか?」
「……」
「ちょうどいい。おいお前、メッセージを伝えろ。
“次は一人で来い”ってな。」
田嶋は足がすくんで動けずにいた。
ーーー
風がほとんど吹かない、重い空気。
上級生の一人がナイフを光らせていた。
そのすぐ横に、縛られた成瀬。
黒瀬は一人で歩いてきた。
一歩、一歩。
砂利を踏む音がやけに大きく響く。
田嶋は伝えてくれたようだ。
「お前、来ると思ってたよ。」
「……あいつを放せ。」
「その口調、気に入らねぇんだよ。」
次の瞬間、拳が飛んだ。
黒瀬は避けない。
ただ、一歩も下がらずに立っていた。
「動くなよ?」
ナイフがチラつく。
成瀬の目が恐怖に染まる。
黒瀬は静かに言った。
「……わかった。手は出さねぇ。」
殴られても、蹴られても、動かなかった。
血が滲み、視界が霞んでも、ただ立ち続けた。
その姿が、逆に誰よりも強く見えた。
⸻
「やめろ!!」
成瀬は何度も叫んだ。
気が済んだ上級生たちは笑いながら去っていった。
黒瀬は地面に崩れ落ちる。
解かれた成瀬は走り出す。
そのまま膝をついて黒瀬を抱きしめた。
「黒瀬! 黒瀬!!」
「大丈夫だ……泣くな。」
「だって、すごい血が……! ごめん、ごめん黒瀬、ごめん……!」
成瀬の声が震えていた。
黒瀬は微笑んだ。
「……何でだろうな。」
「え?」
「お前のことは、死んでも守りたい。」
そのまま意識が遠のいていった。
⸻
病院の白い部屋。
黒瀬は眠っている。
ベッドの横で、成瀬は膝に手を置いたまま、ただ静かに息をしていた。
ドアが開き、一ノ瀬と久遠が入ってくる。
一ノ瀬が軽く笑って言った。
「成瀬ー変なこと考えてるだろ。責任感じるんなら、そばにいてやれば?」
「え……」
久遠が腕を組んで続ける。
「そうだな。多分、それがいちばん喜ぶし。責任の取り方としては、正解だな。」
成瀬はうつむいて、そのあと、ゆっくり話す。
「……足手纏いになってる…」
一ノ瀬、久遠は言う。
「いーんだよ。それで。」
「あいつの守りたいものがお前で、守るためにこんな風になっても、そばにいない方が黒瀬にとってはないってことだ。」
「…そばにいていいならいたい」
成瀬はその手をそっと握った。
ーーー
夜更け。
一ノ瀬たちが帰り、
病室には成瀬と黒瀬だけが残った。
機械の電子音が一定のリズムで響く。
カーテンの隙間から、街の灯りが揺れている。
黒瀬が微かに動いた。
「……成瀬。」
成瀬が顔を上げる。
「黒瀬……!」
黒瀬は目を細めて、
かすれた声で言った。
「泣いてねぇだろうな。」
「泣いてたよ!!」
「バカ。」
小さく笑う黒瀬。
その笑顔が痛いほど優しかった。
「……怖かったんだ。」
成瀬の声が震える。
「黒瀬が……」
黒瀬は少しだけ力を入れて、成瀬の指先を掴む。
「なぁ、成瀬。」
「……うん。」
「お前が“助けて”って言ったあの時。あれで、全部報われたんだよ。」
成瀬の目から涙が溢れた。黒瀬の手を握り返しながら、
小さく笑った。
「……バカだよ、黒瀬。」
「うるせぇ。」
それでも、二人の手は離れなかった。
夜風がカーテンを揺らし、
窓の外の街灯が、
まるで“やっと届いた声”を照らすように
柔らかく二人を包んでいた。
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