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第20話

夕方。 部屋の窓から、淡い光が差し込んでいた。 成瀬は、いつものように黒瀬の腕の包帯を外して、 新しいガーゼをあてる。 けれど、肌の下にもう傷跡はほとんど見えなかった。 「……もう、良さそうだね。」 成瀬が少し微笑む。 その声が、やけに静かに響いた。 黒瀬は腕を見下ろして、 「そうか。」とだけ答える。 一瞬、沈黙。 黒瀬が小さく息をついて、 「……じゃあ、明日から来ないのか?」 と言う。  成瀬は、少し考えてから言葉を選んだ。 「うーん……来るとしたら、みんなと一緒にかな。」 「ふーん。」 黒瀬は何気ないふりで答える。 けれど、心臓の奥が少しだけ沈んだ。 成瀬が首を傾げて覗き込む。 「なに?」 「……いや。別に。」 視線が合う。 そのまま、どちらも目を逸らせなかった。 ⸻ 次の日の昼休み。 屋上では、一ノ瀬と久遠の声がよく響いていた。 「なぁ黒瀬〜。なんか元気なくね?」 「うるせぇ。」 「ほらな、絶対なんかあるって。」 「なんもねぇって。」 久遠が口の端を上げた。 「成瀬、もうお前ん家来ねぇもんな。」 「……別に、いいだろ。」 一ノ瀬がニヤニヤしながら肩を叩く。 「ほんとはさ〜、“一緒にいたい”って言えよ。  俺ら、別に笑わねぇって。」 「言うか、そんなの。」 「言えねぇからお前ら見てて楽しいんだよな〜」 「マジで殴るぞ。」 「はいはい、出た〜!照れ隠し〜!」 久遠が笑いながら、 「でもまぁ、次に言える時は、ちゃんと伝えとけよ。」 と、ぽつりと言った。 黒瀬は無言で缶コーヒーを開ける。 その音がやけに大きく響いた。 ⸻ 放課後。 昇降口で靴を履き替えていると、階段の上から成瀬の声がした。 「黒瀬!」 振り向く。 逆光の中で、成瀬が手を振っていた。 「帰る?」 「……ああ。」 並んで歩く。 言葉は少ない。 けれど、沈黙が嫌じゃなかった。 校門を出たところで、成瀬が少し笑って言った。 「一ノ瀬に言われた。“ちゃんと伝えとけよ”って。」 黒瀬が眉をひそめる。 「……余計なこと言いやがって。」 「でも、言っとくね。」 黒瀬が一瞬、息を飲んだ。 成瀬は少し照れたように、 それでもまっすぐに言葉を落とした。 「俺、黒瀬といるの、好きだよ。」 黒瀬は目を逸らして、 「……うるせぇ。」と小さく呟いた。 でも、口元は確かに笑っていた。

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