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第1話

「ちょっ!そのアイテム僕の!」 「はは、美風はゲームが下手くそなんだな」 「うるさいなぁ、そういう響さんはどうなのさ」 大きな液晶テレビに、宮本と少年がゲームで対戦している その様子を、晶と奏斗はソファでくつろぎながら見守っていた どうしてこんなことになっているのか それは今朝まで巻き戻る ____________________________________ ………ピンポーン…… 「…だれ」 「宮本さんかな?ちょっと待ってて」 「ん」 今日は休日のため、特に早起きする事なく、目が覚めてもダラダラとベッドで過ごしていると、インターホンが家中に響いた その音で隣にいた奏斗も目を覚ましたようで、もぞりと動く 宮本だと考えた晶は奏斗を置いて、玄関へと向かった 「はい…どなたですか」 「ん、あれ?え、誰ぇ?」 晶は何の疑いもなくドアを開けるが、そこに宮本さんの姿はなく、代わりに見知らぬ女性、いや男性だろうか、がそこにいた 髪は肩より少し下くらいまでと長く、身長の低い青年は、晶が出てきたことに戸惑っているようで、スマホと表札の部屋番号を交互に見ていた 「あの…」 「あ、すみません間違えちゃったみたいで…おかしいな…」 「どこのお部屋ですか?」 「それがよくわからなくて…宮本響って人、どこに住んでるかわかりますか?この人」 青年はスマホを晶に見せてみる そこに映るのは間違いなく晶の知ってる宮本だったのだが、とても普段の彼とは似つかない姿だった 「え…若っ…」 「知り合いですか?」 「知り合いっていうか…上の階に住んでます。案内しましょうか?」 「本当ですか?助かります!」 おそらく宮本の知り合いだと思うので、そのまま晶が案内してやることにした 「すみませんほんと、こっちに帰ってくるの久しぶりで」 「いえいえ…そう言えば、宮本さんとはどういったご関係で?」 「んー、友達?」 少し悩んだ後、小首を傾げながら答える青年 友達? かなり歳が離れているように思えるが そういえば言葉使いと言い、服装や若い見た目に反してはかなりちゃんとしてる 口調や言い振り的に晶と同い年かその少し上くらいに思えるが、そうは見えない。 どうなのだろうか まあ、宮本とどう言う関係なのか、本人に聞けばいいだろうとその場は流した 宮本の部屋へ辿り着くと早速インターホンを押すが、宮本は出てこなかった 「…いないみたいですね。もしかしたら昨日の夜出かけていたみたいなので、まだ帰ってきてないのかも」 「あー、そうですか、わかりました」 「どうしますか?この後」 「うーん、待ちます。近くのカフェとかで。ありがとうございました。ご丁寧に」 宮本がいないとわかると、青年は人当たりの良い笑顔で晶にお礼を言って去ろうとする だが晶は迷っていた 青年はキャリーケースを持っていて、そこらを歩き回るには少々不便そうだ 何より宮本さんの客を、外で待たせていいものか、なんだか気が引けた 「あの…」 「?、はい」 「あ…よかったら…ウチに…」 「お邪魔します」 「どうぞ、散らかってますけれども」 そう言って晶は青年を招き入れる 青年は行儀良く靴を揃えて家に上がった 「わぁ!広い!綺麗なお部屋ですね」 「はは、ありがとうございます。コーヒーでいいですか?」 「あ、コーヒー…」 「紅茶もありますよ」 「紅茶でお願いします」 言葉使いや行儀は良いが、どこか子供らしさを感じる彼に、なぜだが晶は悪い気はしなかった コーヒーに対して微妙な反応をしていたので、苦いものは苦手なのかと、紅茶に砂糖とミルクをつけてあげると、青年は嬉しそうにしていた 「これも良ければ」 「いいんですか?日本のお菓子、久しぶりです」 紅茶を啜る彼にお菓子も置いてやると、それはもう目を輝かせていた そこらの市販の菓子をあげただけでこんなに喜んでくれるなら、あげるこちらも嫌な気はしない 彼が茶菓子に夢中になっている間に、晶は奏斗の様子を見に行く 宮本以外の人を家に入れることは初めてで、奏斗が気にするのではないかと思ったのだ だが寝室を覗くと、二度寝をしたのかベッドで静かに寝息を立てていた まだ青年が入ってきていることに気づいていないらしい おそらく、騒ぐような事をしなければこのまま昼前まで眠ってくれるだろう それを知った晶は、奏斗が起きぬようそっと、寝室の扉を閉じた そして、リビングにて 菓子を頬張る青年の前の椅子に座る 「宮本さんに連絡してみますね。お名前は、何と言いますか?」 「あー、ミカって言えば、多分すぐ来てくれると思う」 晶はミカの言った通り、宮本のメールにミカが待っている事を残し、スマホを閉じた 無言と言うのもなんだから、少し世間話でもしよう 最近は仕事ばかりで、休日も奏斗と過ごすことが多いので職場以外で人と関わることが少なくなっていた 自分の気晴らしもかねて、彼にいろいろ聞いてみることにしたのだ 「ミカさんは、お住まいは海外なんですか?」 「そうですね、元々こっちに居たんですけど、色々あって海外に。向こうは向こうで楽しいですけど、やっぱり日本は落ち着きますね」 「それはよかったです。じゃあ宮本さんとは、その前から知り合いだったと」 「はい、あの人とは長い付き合いです。あなたは?」 ミカは人当たりの良い笑顔で話していて、特に人と喋ることが好きなようだった 話の流れで宮本との関係を聞いてみるが、逆に聞かれて晶は戸惑った 一応世間的には宮本は養親と言う立場だが、そう言われても違和感がある どちらかと言うと親戚のような雰囲気があるが、どう話せば良いのかわからなかった 「宮本さんには、お世話になってて。一応、身内って感じにはなるんですけど…」 「…ん?あ、待って、僕君のこと知ってるかも」 「え」 「晶くん!あってる?」 「あ、え、はい、そうです」 突然ミカは小首を傾げた後、晶の名前を呼んだ 晶が自ら名前を名乗った訳じゃないし、ミカという名前は知り合いにいない となると宮本が何か話していたのだろうか 「よく聞いていたよ。響さんったら、君たちのことになるとすごく弱気になって。手紙でもいつもしおしおだったんだから」 「手紙?」 「そ。僕ら時々手紙でやりとりしてて…」 手紙と聞いて思い浮かぶ人がいる 宮本の元恋人の存在だ だがそれにしては若すぎる気がする やはり勘違いだろうが、直接聞いてみるのもいいかもしれない そう思って晶が口を開こうとした瞬間、玄関からガチャリと音がして、2人揃ってそちらを見やる どうやら宮本が帰ってきたのだろう 思ったより早い帰宅だと思いながら、2人は立ち上がって出迎えようとしたが、その前にドタドタッと音を立てて、物凄いスピードで宮本が部屋に入ってきた 「みかさっ!!」 「あ、ひさしぶっ!?」 入ってきた宮本はコートを脱ごうともせず、荷物を放り投げると、勢いのままミカに飛びついた ドンッと音が出そうなほどの勢いで、体格差のある宮本に抱きつかれ、ミカは耐えきれずよろめいた 足がもつれ、ミカの体が後ろに傾く もうほとんど倒れていると言ってもいい体制だった それでも宮本は意地でも彼を離すまいと、ミカの背に腕を回し、倒れるか、倒れないかのギリギリのラインで抱きしめたまま固まった 「美風っ…みかさっ、…ズッ」 「えちょ、泣いてんの?ぅぐう、くるじぃ」 ギリギリと音が出そうなほど強く抱きしめる宮本から、ミカは懸命に離れようとするが、その分力が強くなって呻き声をあげていた 宮本はひっきりなしに肩を揺らしていて、一目で泣いているとわかるほどだった そんなシュールな光景を、晶はポカンと見ていることしかできなかった 「た、助けて、晶くん」 「…あ、えっと…み、宮本さん、いったん離れましょうか」 「………」 しばらく晶は固まったままだったが、苦しげなミカにそう言われてやっと動き出す とりあえず、宮本をミカから離さなければと、背中を叩いて声をかけてみるが全く返答なし ミカを離すこともせず、噛み締めるように、ただただ鼻を啜るだけの宮本 どうすればいいかわからず、オロオロとしていると、ガチャリ、と寝室の扉が開く音がした 「…だれ…何これ」 「あっ!?もしかして、奏斗くんっ?」 物音に目を覚ましたのだろう奏斗が、扉の隙間から恐る恐るこちらを覗いていた 動けないミカは、首だけぐるんと後ろに向ける 逆さまになった顔は、奏斗の姿を見た瞬間嬉しそうに綻んだ 「わー!本物だ!」 宮本に抱きしめられ、逆さまといったシュールな状態で、ミカは奏斗に向かって嬉しそうに声を上げた そんなミカが目を向ける奏斗はと言うと、目が覚めたら知らない人に宮本が抱きついているといったおかしな光景に、到底理解が追いつかないと、複雑な顔をしていた 「お見苦しいところを…ズッ…お見せしました…」 なんとか落ち着きを取り戻した頃、宮本は未だ涙目で鼻を啜りながらも晶と奏斗に頭を下げた こんな風になっている宮本を見るのは初めてで、晶も奏斗も固まったままだが、隣にいるミカは慣れているのか、また先ほどのように紅茶を啜っていた 「もー、脇腹が痛い、折れるかと思ったんだから」 「ごめん美風、つい…」 ミカに言われて可哀想なほどしぼんだ宮本だが、思い出したかのようにバッと頭を上げた そして唐突にミカの肩をがっしり掴んで、首が飛びそうな勢いで前後に揺らす 「いやそうじゃなくて!なんでここにいるの?帰ってくるなら言ってよ!」 「へへっサプライズてきな?来たらやだった?」 「嫌じゃないっ!嫌なわけないよ…っ!」 そう言って宮本はミカにまた抱きつく ミカの方は鬱陶しそうにしているが、側から見た晶でさえも、相当仲がいいんだろうと思った 「なんにせよ落ち着いたみたいでよかったです」 「お騒がせしたね」 「いえ…宮本さんがこんなふうになってるのは初めてなので、驚きました。…ところで気になったんですけど、ミカさんってやっぱり、宮本さんの恋人とかですか?」 「恋人?」 疑問に思っていたことを、素直に聞いてみるが、ミカはきょとんとした顔をしていた 「いや…手紙といい、この仲の良さといい、てっきり宮本さんの元恋人かと思いまして…違うならすみません」 どうやら晶の勘違いだったのだと、慌てて言い直すが、よく考えたら不躾な質問だった 晶は申し訳なさそうに俯くが、ミカが気になっているのはそこではないらしい 「宮本さん恋人いたことないけど」 「え?」 「響さん、なんか変なこと吹き込んだでしょ」 ミカはムスッとした表情の後、強い口調で宮本を問い詰めるように聞いた それに対して宮本は、黙ったままで最大限ミカから目を逸らしていた 晶は言っている意味がわからず2人の会話を聞いていたが、次に出た言葉でその疑問は消えた 「僕と響さんはセフレだったんだ。付き合ったことはない」 「んぐっ、げほっ」 ミカの言葉に驚き、飲み込もうとしていた紅茶で咽せる ただし、咽せたのは晶ではなく、その隣に座っていた奏斗だった 普段何にも反応を示さない奏斗が、珍しく驚く様子を見せていた そして晶も同じくらい衝撃を受けていた 宮本に対するイメージは、真面目で堅実、間違ったことはしなさそうな印象が強い だから、2人が恋人ではないことより、宮本にセフレがいたという事実の方が衝撃だった 「宮本さん…セフレを恋人と…」 「違うっ!俺は本気だったんだ」 「宮本さん…」 晶と奏斗は信じがたかったが、宮本の反応を見るに、事実であると確信する 2人に軽蔑の目を向けられ、ミカには呆れた目を向けられ、宮本は慌てたように話をすり替えた 「ところで、美風は何でここに?」 「ん?えっとね、りょーすけが日本に用があるんだって。僕はそのついで。旅行みたいなもんだよ」 「あのガキ何も言わずに…美風も先に言ってくれればいいのに」 宮本がボソリと呟いた暴言に近い言葉に、晶と奏斗は喉を詰まらせる こんなに口の悪い宮本は初めてだった ミカが来てから宮本の知らない部分が明け透けになっていくに連れて、どんどん普段の彼とかけ離れていく だが、完璧だと思っていた宮本にも、そんな一面があることを知れて、少し安心した節があったのも事実だった 「それより僕ね、君たちに会いたくて来たんだ。改めまして、僕は美風。ミカって呼んでいいよ」 「あ、よろしくお願いします」 「奏斗くんも」 「…」 話が一区切りついたところで、美風は再び晶と奏斗に向き直る 人当たりのよい笑顔を浮かべて美風は改めて2人に握手を求めた 晶は素直にその手を握り、上下に確かめるように揺らされた やはりその手は小さくて、若々しい いったい彼は何歳なんだろうか そして晶の後、今度は奏斗に握手を求める だが晶と違って奏斗は警戒心が強い 握手を受け入れることができるだろうかと、晶はハラハラしながら見守っていたが、それとは裏腹に奏斗は、少し様子を伺った後差し伸べられた手を握った 案外すんなり握られた手は、晶同様軽く上下に揺らされた 「君たちのことは知ってるよ。手紙でよく響さんが嘆いていたからね。君たちにどう接すればいいかわからないって!」 「ちょ、ちょちょ美風、それは言わないで」 「そうなんですね」 「それはもう可哀想なくらい心配してたよ。2人のことが、大好きなんだねぇ〜?」 「っ…」 美風の目線は揶揄うように宮本に向けられる その視線から存分に目を逸らす宮本の顔は、ほんのり赤い まるで思春期の男子が友達に揶揄われた時のような反応で、晶は少し面白かった 「宮本さんには、とてもお世話になっています。いつも迷惑をかけて困らせてしまっていたようですね」 「そんなことないよ、晶くん」 「そうだよぉ、この人は超がつくほどお節介なんだから。ほぼ趣味みたいなもんでしょ?」 「美風は少しは遠慮したらどう?」 「そんなこと言って、嬉しいくせに〜」 美風の子供じみた揶揄いに、宮本はほとほと呆れたような顔をする 晶からすれば、どっちもどっちのように見えるが 仲の良い2人を見て、なんだか微笑ましくなる いつもの宮本をこんなふうに見る日が来るなど、想像もできなかった そして、裏でも宮本は晶と奏斗を思ってくれていることを知って、申し訳ない気持ち半分、やはり嬉しさが勝ってしまう 「さて、僕たちはそろそろお暇しようか」 「そうだね。ありがとう2人とも。いきなりお邪魔してごめんね」 「いえ、楽しかったです」 時間を見てハッとした美風は、そう言って宮本を連れて立ち上がる 晶もつられて時間を見ると、ちょうどお昼時だった 時間的にはそれほど経っていないが、奏斗のことを考えて気を使ってくれているのだろう 「あー、お腹減った!響さん何食べる?」 「うーん、美風こそ何かないの?せっかく日本に来たんだから、美風の食べたいものにしたらいいよ」 玄関に向かう途中も、仲良さげに昼食の話をしている2人を、見送るために晶も追いかける その時なぜか、晶だけでなく奏斗もついてきた 普段なら自分から来ないはずなのに、珍しいと思いながらも、特に気にせず2人で玄関に向かった 「ほんといきなりでごめんね。マジ助かったよ」 「いえ、俺も楽しかったです。また後で挨拶行きますね」 「うん!また後で〜」 そう言って美風が扉に手をかけた時、隣から晶の袖がくんっと引かれた 見ると奏斗が晶の袖を控えめに掴んでいる 少し惜しいような、納得のいかないような、そんな顔で晶を見上げていた 何を伝えたいのか、ハッキリとはわからない だが奏斗のこんな反応は初めてで、それでもどうしてそうなってしまっているのか、晶も何となくわかってしまったのだ 「あのっ」 「ん?なぁに?」 すでに外に出ていた2人を呼び止める 扉が閉まる直前だったが、美風は再び体を戻して、扉の隙間から顔を覗かせた 不思議そうに見つめてくる美風を見ると、少々躊躇はしたが、思い切って言ってみることにしたのだ 「あ、あの、よかったら…俺たちもご一緒していいですか…?」

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