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凸凹だらけの二人
「ありがとうございましたー」
間延びしたフロントスタッフの声を最後に、ホテルのエレベーターが閉まった。密室になったのをいいことに、後ろから亮丞が抱きついてくる。
「……おい。エレベーターくらい黙って乗れよ」
「最後に詢也さんと寝てからどれくらい経ったと思ってるんですか。待てないですよ」
俺を抱き締めるだけでは飽き足らず、ワイシャツから覗くうなじに舌を這わせてきた。思わず声が漏れる。
「ひ……っ、シャワー浴びてからに、しろ……っ!」
「良い匂いがするんですよ、詢也さんの首元って。ずっと舐めたいと思ってた」
「きめえこと言うんじゃねえ……っ、あ、ぁあ……」
「動かないで、うまく舐められない」
あと数センチでまた舌が触れそうになった瞬間にエレベーターが開いた。隙をついて亮丞の腕の中から逃れる。
「お前ぼさっとしてるようでこういう時強引だよな。部屋入ってからにしてくれ」
「ダメです、待てません。早く鍵開けてください」
何様だよ、腹立つな。鍵を挿し込んだ右手ごと掴まれて、振り向いたところで亮丞と目が合った。そのまま亮丞は身体を屈めて俺の唇をそっと塞ぐ。あっという間に甘い震えが全身を駆け抜けて、危うく鞄を落としそうになった。唇の形を舌でなぞりながら、亮丞は器用にドアノブを捻る。カチャリと音がしてドアが開いても、亮丞は口を離さない。あまりにも長くて埒があかないから、無理矢理口を離して先に部屋に入った。
遅れて入ってきた亮丞は鍵を閉めた後、靴を脱いでいる最中の俺に覆い被さってきた。体勢を崩して二人とも廊下に倒れ込む。亮丞の背負っていたリュックが地面に当たって音を立てた。
「亮丞! お前こういうのは手順っつうもんがあるだろ、あと数メートルでベッドなんだから靴くらい脱がせろよ」
「一秒でも早く詢也さんを抱きたい。俺、本当にずっと我慢してた」
「だからって廊下で──」
言い終わる前にまた唇同士が触れ合った。亮丞との口付けは、麻酔を打たれたみたいに全身が動かなくなる。抵抗しようとしてもすぐにその気力を失い、あまつさえ自分から求めてしまうくらいには気持ち良かった。唇を甘噛みしたり、皺を確かめるようにそっと舌でなぞられたりしたかと思えば、急に激しく噛みついたり口内を性急にまさぐってきたりもした。緩急の付け方を予想できなくて、ただ翻弄されることしかできない。でも、それを望んでいる自分がいることもよく分かっていた。
「……ベッド、行きましょうか」
亮丞に手を借りて立ち上がり、震える手でようやく靴を脱いだ。鞄をソファの上に置いて浴室へ向かおうとすると、勢いよくベッドに押し倒される。俺が文句を言うと分かっているからか、すぐにまた唇が降りてきた。抗議の声は、亮丞の口付けを通すと全部甘い吐息になって霧散する。
「……ようやく、俺だけの詢也さんになった。キスしてる時の顔、もう絶対俺以外に見せないで」
亮丞の目の色が変わった。あの時と──初めて抱かれたあの日と同じ、鋭く光る瞳。頭よりも身体が鮮明に覚えている。芯が熱く疼いた。
亮丞はキスをしながら手荒くワイシャツを脱がせていく。上半身だけ剥いた後、間髪入れずに首筋を舐められた。こいつはなぜ首周りがこんなに好きなのだろうか。俺が香水を付けている場所だからか。
「いつも寝る前に使ってる香水、詢也さんの匂いが混ざってないから物足りない。やっぱり毎日あなたを抱きたい」
「こんな調子で毎日セックスしてたら持たねえよ、馬鹿言うな……っ」
首筋を好き勝手這い回っていた舌が徐々に下に降りてくる。わざと胸の中心を避けるように愛撫を続けられると、どうしても期待に震えてしまう。
「前に乳首舐めた時、詢也さんがすごく大きな声で喘いでいたこと……覚えてますか? 普段から声の大きい人は喘ぎ声も大きいって本当なんだなと思って、俺すごい興奮しました」
忘れるわけがない。現に今もいじってほしくてたまらないとでも言うように、胸の中心はツンと尖っていた。
亮丞は片方の乳輪をそっと舌で舐めた。堪えきれなかった声が口端から漏れる。空いた手でもう片方の乳輪をさわさわと撫でられるだけで腰が揺れてしまう。
一番敏感な乳首を避けた愛撫がしばらく続く。声を我慢するのも限界が近くなってきた。一丁前に焦らしてきやがって、早く触れよ。痺れを切らして顔を上げようとした瞬間、亮丞の舌と指が同時に中心を刺激した。
「あ──……っ!」
焦らされた分快感がものすごい勢いで全身に広がっていく。胸の突起はあっという間に淡いピンク色に染まった。
「ね、言った通りでしょ。詢也さんのおっきな喘ぎ声、もっと聞きたい」
胸元で喋られると、吐息がかかってむずむずする。突起を軽く噛まれた途端にまた声を上げてしまう。これでは亮丞に聞かせるために喘いでいるみたいだ。
「ひ、あぁ、亮丞、噛むのやめろ……っ、それすげえやばい、から……あ!」
片方は噛まれて、もう片方は爪でカリカリと引っ掻かれて……両方から与えられる別の刺激に頭が沸騰しそうだ。亮丞が再度口を離す頃には、下着がじっとりと濡れていた。
「挿れていい? 詢也さん、もうパンツ濡れてる。かわいい」
胸元の刺激に気を取られて、ベルトを外されていたことに気付かなかった。スラックスの間から覗く屹立を、下着越しに撫でられる。亮丞は俺の返事を待たずにシャツとスラックスをさっさと脱ぎ捨てて、俺の残りの衣服も全て脱がせてしまった。亮丞のしなやかな体躯の中心は、硬くなって上を向いている。
「声我慢するのも俺から目逸らすのもだめ。詢也さんが気持ちよくなってるとこ、全部俺だけに見せて」
「……分かったよ」
仕方なく返事をすると、亮丞は満足したように下唇を舐めた。リュックから取り出したローションとゴムを着けて、亮丞がゆっくりと侵入してきた。背が高いやつは大体下半身も比例して立派なことが多いから、入るまでは少し苦しい。呼吸を整えようとしても、覆い被さっている亮丞の口付けで妨害される。根元まで繋がる頃には、噛まれすぎて少し唇が腫れてきたような気がした。口を離した亮丞と目線が熱く絡み合う。
「詢也さん、好きです。今日は朝まで離しません」
「射精してさっさと寝るなよ。俺だって結構好きなんだからな……お前とのセックス」
軽い口付けを一つ落とした後、亮丞は体を密着させたままいきなり腰を振り始めた。肉襞が擦れたところから甘くて熱い快感の波が広がる。
「ああ! 亮丞、気持ち……良い……っ」
「……身体が震えてる。まだ始まったばっかりだよ」
両脚をぐっと持ち上げられたかと思うと、亮丞は俺の足首を掴んでさらに深く奥を突き始めた。結合部がぐちゃぐちゃと音を立てる。
「詢也さん、すっごいかわいい。声……どんどん大きくなってる」
「こえ、ださなきゃ、無理なんだよ……っんぅ、う……」
爪が白くなるほどシーツを掴んだところで、あまりにも大きな快感は逃げていかない。顔まで熱くなってきたから身を捩って腰を引こうとしても、脚を掴まれているからそれもできない。淫らな水音と俺の声だけが部屋を満たした。
「うつ伏せになって」
亮丞の腰が止まってようやく休めるかと思ったら、身体を転がされてうつ伏せになった。息つく暇もなくまた亮丞が入ってくる。
「あ! あ、ぁああ──……!」
背後から覆い被さる体勢で挿入されると、先程とは別の箇所を擦られるからたまったものではない。さらに耳元で亮丞が囁いてくる。それも相まって全身がゾクゾクと甘く戦慄いた。
「ねえ、詢也さんって俺とのセックス、“結構”じゃなくて“かなり”好きでしょ? 自分からイイとこ当たるように腰動かしてるの、バレてないと思ってた?」
「すきだよ、ああ、かなり好きにきまってんだろ、ぉ……っ! 気持ち良いんだから……はぁ、あ、んぅ!」
亮丞は俺の顎を掴んで顔を捻り、無理矢理キスをしてきた。上手く息が吸えなくてすぐに口を離すと、亮丞の舌は耳たぶを弄び始めた。吐息と湿った水音が耳を犯してくる。
「耳元、舐めんのずりぃ……あ、ぅう……ひぁ!」
「あと詢也さんは俺の声も好きなのかな、耳元で喋ると前が硬くなる」
身体が正直すぎる。わけがわからなくなってきて、与えられる快楽を半泣きで受け入れた。寝バックで突かれる快感をひたすら貪っていたところで、突然背中で感じていた体温が遠ざかる。
「身体起こせる? 膝立ちね」
言われるがまま身体を起こす。快感で身体は怠くなり、起こすのにも一苦労だ。肩で息をしながら呼吸を整えていると、亮丞が俺の肩を掴んだ。そのまま断りもなく荒々しく挿入され、また大きな嬌声を上げてしまう。前立腺を容赦なく抉られるのがあまりにも気持ち良くて、一気に体温が上がる。口を閉じることすらままならず、唾液が顎をだらだらと伝った。
「りょ、すけ、きもちいい……もうイキそ、だから、もっと……ああ!」
突き入れがさらに激しくなる。肩を掴んでいた亮丞の手が移動して、俺の乳首を執拗に弄り始めた。桃色の突起を中心にまた甘い快感がじわじわと広がっていく。上も下も気持ちいいところを攻められ続けて、あっという間に限界がきた。
「だめだ、りょうすけ、手はなせ…………っあ、出る────!」
腰ががくがくと痙攣して、思い切り精を吐き出した。ベッドの上にぽたぽたと白い染みができる。一度極めたというのに、亮丞は手を止めるどころかローションを足して俺の亀頭を弄り始めたではないか。
「おい亮丞! 一回イってんだからきゅうけ──あ、っぁああ!」
絶頂を味わったばかりの身体で亀頭を触られるというのは、もはや拷問に近い。痛みなのかも分からないほどの強烈な快感に全身が焼かれていく。逃げようと思っても亮丞の空いた手で抑えられているし、後ろは繋がったままだ。身に覚えのあるようなないような、変な感覚がせり上がってくる。射精とは違う、何か──。
「やめろ、も、ムリだから、たのむ」
「無理じゃない。大丈夫だから、力抜いて」
「やだ、りょうすけ、おねがいだから……っ、なんかヘンなんだよ、これ、なに、なんなんだよ……」
親指の腹が亀頭の先端を滑り、軽く爪が触れた瞬間に目の前が真っ白になった。
「やだ、っあ、あ────…………っ! で、る…………!」
先程とは比べものにならないほど激しく腰が痙攣したかと思うと、竿の先端から透明な液体がびしゃびしゃと噴き出した。あっという間にベッドシーツ一面に大きな染みが拡がる。
「詢也さん、潮吹き初めて? 顔、真っ赤になっちゃったね。恥ずかしい?」
あまりの羞恥にものも言えず、黙っていることしかできなかった。しかしそんな俺をよそに、亮丞はものすごく嬉しそうな顔をしている。
「潮吹きなんか経験あるわけねえだろ……」
「さっきの見たら俺もちょっとヤバくなってきたかも。次は詢也さんが上になってくれる?」
「はあ⁉︎ 頼むから一回休ませてくれ、連続はキツい」
「優しくするから」と言いながら亮丞はベッドに横になった。「ほら、こっち来て」と手招きする彼になぜか逆らえない。渋々亮丞の上に跨った。
勃ち上がった雄根を埋めるように、ゆっくりと腰を落としていく。挿入されるのと違って、自重でどこまでも深く入ってしまう。手をついて少し腰を浮かせようとしたのを亮丞は見逃さず、腰を掴んで一気に奥まで貫いた。
「────!」
身体が弓なりにしなる。衝撃で声を出すこともままならない。亮丞の言う“優しく”は、俺の考えるものとは違うようだ。
「いい眺め。乳首いじっててあげるから、好きなように動かして」
亮丞は腕を伸ばして、片手で胸の突起を触り始める。指の腹で肉芽を押しつぶされるたびに声が出てしまい、腰の動きが中断される。既にイった後だから、少しでも気を抜くとすぐに身体が快感で震えだすのだった。なんだかんだ入ってしまえば亮丞に降伏してしまう自分が情けない。
「うう、りょーすけ……、きもちいい、乳首、両方さわって……」
「本当に好きなんだ、乳首。一人の時も触るの?」
「……触ってるよ、わりーかよ」
亮丞は笑ってもう片方の手できつく突起を抓った。「あっ!」という大きな声を上げて仰け反ってしまう。
「かわいい。今度一人でしてるところも見たい」
「嫌だ、どうせ途中で止めて入れさせろとか言うに決まってる」
亮丞は胸をいじっていた手を俺の腰にあてて、いきなり下から勢いよく突き上げ始めた。奥を何度も何度も突かれる。
「あ、ぁあ! それ、すき、好き……」
「あー、ヤバいかも……詢也さん、そろそろ俺も出そう」
「ひっ、ぅ、出せよ、どうせ言うこと聞かねえだろうから……っ!」
激しい突き上げなのか自分の快感による痙攣なのか、びくびく震えながら必死に身体を支えた。
「ねえ、詢也さん、俺のこと好きって言って……もう出そう、だから……」
「……何回も言わせんな、俺は亮丞も……っ、お前とのセックスも、すげえ好きなんだよ。潮吹きまでさせといてよく言うよ……っぅあ!」
「俺もすき、詢也さん……絶対、ぜったい……ひとりにしないで……あー、イく……っ!」
亮丞が呻いた後、思い切り精を注いできた。ゴムを外した後、肩で大きく息をしている。その姿がなんだか無性に愛しく思えてきて、額に軽くキスをする。亮丞は照れたように笑った。
「ちょっと休んだら再開しましょう。詢也さんはそのうち何回もイけるようになると思います」
「そうやすやすとできねえだろ。お前は一回寝なくていいのか」
「寝ません、だって明日は休みだし……詢也さんが隣にいるから。あなたがいれば、どこでだって、いつだって眠れそうな気がします。俺……今、ものすごく幸せです」
亮丞の身体の上から降りて、ベッドに二人並んで横になる。顔を見合わせた後、小さく口付けを交わした俺たちは、お互いの体温を感じながらしばらく抱き合っていた。
***
「本当にありがとうございました。WEB会議できる場所が増えたと社員も喜んでいます」
N社でようやくすべてのWEB会議ブースの設置が完了して、今日は榎本さん立ち会いの元お披露目会を実施した。社員に使い方を説明して、リニューアルフロアを見学してもらう。一部フロアにも手を入れたから、社員の人は新しくなったオフィスに興味津々だ。
リノベ課は直接クライアントの反応がこうして見られるからまだやりがいがあるなと思える。
「まずは導入できたのでひと安心ですね。あとは利用ルールの徹底や清掃をどうするかが今後課題になってくると思うので、また近々伺います」
リノベーションは工事が完了したら終わりではない。結局使うのは人間なのだから、ルールを決めたり守らせたりするところまで面倒を見てようやく全てが終わる。次回の打ち合わせ日程を決めてオフィスを後にした。
「……朝霧さん」
歩きながら東が話しかけてきた。
「初めて担当した案件が、こうして無事に施工完了して本当に嬉しいです。しかも、朝霧さんと一緒だったから余計に」
「まあそうだな。今回は向こうもすごい優しかったし。俺、他人との調整が面倒だから自分一人で仕事するのが好きだと思ってたけど、案外そうでもないかも」
立ち止まって東の方に向き直った。秋の涼しい風が二人の間を通り過ぎる。
「会社の中で一人でできることなんか、大したことねえのかもな。誰かと一緒に協力するから、仕事もプライベートも面白くなる」
仁科の言っていたことを急に思い出した。
『教育担当って教える側が色々学ぶことが多いから、やっといて損ないと思う』
東の世話は正直面倒で嫌なこととか腹立つことも多かったけど。確かにやってみて、俺の方が東に教えてもらうことが多かった。一人では仕事が面白いなんて思ったこと、無かったし。
性格も身長も何もかもが違っていて、凸凹だらけの二人だけど。逆にそれが上手くハマることもあるのかもしれない。
「……帰り、コンビニ寄っていっていいか。コーヒー買って飲みたいから」
「それなら俺はカフェオレ飲みます。いつも朝霧さんに出していただいたので、今日は俺に出させてください」
「じゃあ頼むわ」
二人で並んで再び歩き出す。冬が近づいていたけれど、不思議と心は温かい。
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