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第1話

「何年目だ。」 「えっ?」 「えっ?じゃなくてこの仕事をして何年になるんだ。」 「5年です。」 1年目の社員なら仕方がないと少しは思えるが5年も経って6年目になろうとしているのにまともな仕事が出来ないのかと溜息をつきそうになっていた。 「もういい。」 「でも・・・。」 「でも?君に何か出来るのか?発注も出来ない君に何が出来るんだ。」 「すみません。」 少しキツイ言い方をしてしまったとこの男の震える声で思ったのだ。 感情的になるのは冷静な判断が出来なくなるからと朝からなるべく平常心を保とうとしていた。 何故ならエレベーターで同期の親友からの報告で俺の心は乱れてしまった。 『俺、結婚するから式には来てくれよ。』 少し照れた様にでも凄く幸せなオーラを放って親友は言ったんだ。 彼女が居るのは知っていた。 親友が彼女と付き合うまでに1ヶ月で結婚を決めたのが半年って結婚を決めるのは早過ぎないだろうかと思った。 けれど俺達は43歳で同級生なんかでは成人を迎える子供がいたりそれに子供が欲しいならもうそろそろ結婚を考えなくてはいけない歳なんだ。 幸せな顔をしている親友に余計な事は言えなかった。 『おめでとう。』 口から出た言葉が祝福する言葉。 内心では思ってもいない言葉を口にして吐き気がしそうになったが親友に気付かれたくないと無理に笑ってみせた。 そんな朝の出来事で苛立ちと色んな感情を目の前に立っている男性社員にぶつけてしまったのだ。 最低なのは分かってはいるが止めれなかった。 向野宗輔(こうのそうすけ)43歳。 まだ未熟者だと改めてこの時に思い知り目の前で手を震わせている瀬名千紘(せなちひろ)27歳に申し訳ない気持ちになった。

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