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しあわせ

「俺こっちでバイトしてるって言ったじゃん」 「うん…丈瑠さんがいるところな」 「そう、俺ね…そこでパパ活してた…って言うかまだ在籍してr…」 「はあっ!?」  話の途中で汀が起き上がり、体の向きを変えて遥翔に向き直った。 「パパ活って…遥翔、まさか…」 「あ、いやっきいて汀、ちゃんと最後まで…聞いて」  今にもつかみかかって来そうな汀を両腕で制して、落ち着かせる。  汀は未だ遥翔に向いたままだ。少し怒っている風もあるが、なんだかそれが少し嬉しく感じる自分はおかしいのかなと遥翔は思う。 「パパ活なんてしてたのは…ほんとごめん。一般的にもよくないことはわかってるんだけど…でも俺はね、ご飯食べて楽しくお話しするだけの仕事だったよ。ほんとだよ。丈瑠さんに聞いてもいい」  信じて、と遥翔は汀の目を見て言った。 「丈瑠さんがいる店は会員制でね、店長さんが認めた人しかいない所だから変な人はいなくて、だから…」  そう言うのも言い訳に聞こえてしまうかもしれないが、と思いながらも遥翔は懸命に伝える。  それを汀は黙って聞いてくれてはいたが、汀の考えはそこではなくて…。 「内容はわかった…でも遥翔…あんまり…あんまり俺を…」  耐えきれないような声でそう言うと、汀は遥翔を引き寄せて抱きしめた。 「びっくりさせないでくれよ…おれ、遥翔が誰かに……されちゃったのかと思って…心臓爆発するかと思った」  抱きしめた遥翔の耳元で、汀が噛み締めるように囁いた。  遥翔は、その声に目を瞑る。 「俺…渋谷で丈瑠さんが遥翔に触るの嫌だった。俺はずっとこうして触れたかったのに、他のやつが遥翔に触ってたなんてことになったら、許せないとこだったよ」  汀の背中に遥翔は漸く手を回した。  嬉しかった…遥翔だってずっとこうされたかったのだから。 「ううん…誰にも触らせてない…よ」  遥翔の肩で、汀がーうん…うんーと何度何度もうなづく。 「汀…は、俺と同じ…気持ち…?なの?」  汀は力を緩めて遥翔の顔を間近で見つめた… 「遥翔の気持ちはまだ俺にはわからないから…今からすること、嫌だったら殴って」  そう言って遥翔の後頭部に手を回して引き寄せ、今度は不意打ちでも事故でもないキスをした。  合わさるだけの軽いキス。  唇を離してもう一度。今度は少し唇を開いてのキス。ちゅ…と音をたてて吸い合う。  遥翔はもう夢を見ているようだった。 「殴られなかった…じゃあ俺は遥翔と同じ気持ちだ」  ニコッと笑って今度は少し角度をつけて唇を合わせ、ぎこちない舌が絡み合うキス。  遥翔も両手を汀の首に回し直して腰を上げてソファに膝立ちになり引き寄せるようにして唇を合わせる。  何度も角度を変えてキスをする。  小2と小1から会えなかった6年間。その後の2年弱、その後の…今に繋がった空白期間…全部埋めるようにキスをした。  お互いの気持ちがやっと交差する。  唇を離しておでこをつけあい 「遠回り…だったかな…」 「焦れったかったね」  そう言い合ってまた唇を合わせる。 「今…すごく幸せ」  少し離れた隙に、遥翔が大好きな笑みで自分を見た。  ずっとこうしたかった。  もっと欲しい。お互いが欲しかった。  遥翔の耳元にキスをして、首筋にもキスをすると可愛らしい声が漏れてくる。  その度に汀のパーカーを握ってくる指まで愛おしい。  今すぐ欲しい、また唇を重ねて2人の息も上がってくる。  汀は遥翔の腰を抱いて、ソファに横たえると着ていたパーカーを脱ぎ捨てた。  サッカーを6年間やってきた身体は引き締まっていて、中学の時に見た姿とは別人である。髪も少し伸びて、洒落っ気出たのかワックスなんかつけてるふうな癖っ毛がまたかっこよかった。  横たわった遥翔の顔の両側に両手をついて、遥翔を見下ろした汀は 「こうしたかった…ジレジレさせちゃってごめん…俺、遥翔が好きだよ。ずっと好きだった」  遥翔にしても言われたかった言葉だった。 「俺も…汀が好き…大好き」  両手を伸ばして汀を求める。  その誘いに乗るように遥翔に重なり、重くないように肘をついた腕はサラサラな髪を撫でてキスをした。  遥翔の腕も汀の背中にまわり、引きつけるようにキスをしてくる。  気持ちも身体も高まった熱いキスをしあっていたが、汀が遥翔が着ていたニットに手を入れるとビクッと体を震わせた 「怖い?」  少し心配そうに汀が覗いてきたけれど、 「ううん、大丈夫。汀だから…怖くない」  と、絡んだ腕でひきよせる。  無理はしないでおこうと考えながらも、汀ももう一杯一杯だ。 「大事にするから…」  どの意味なのか考える間もなく、遥翔は汀の指に翻弄されることになり、そのあとは熱い吐息が聞こえるだけになっていった。    リビングなだけに日当たりはいい。  カーテンも淡い色なので、陽の光を透過して室内に注いでくる。  最初に目が覚めたのは遥翔だった。  汀の左腕に…というかほぼ顔の下にあった頭を挙げると、目の前に寝息を立てている汀がいる。  愛おしかった。  昨夜初めての行為を2人で行い、ゴムを2人して用意していたことにー俺たちやる気満々だったんじゃんーと笑いあい、そして一つになり…色々思い出して、遥翔はそっと再び汀の首元へ頭を戻す。  そして気づいた。そこに赤いあざがついていた。うっすらある記憶では、幸せで堪らなくて、目の前にあった肌にキスをした。 ーそれかあー ふふッと笑ってそのあざをなぞってみる。 「くすぐったい」  寝起きではなさそうなはっきりした声。 「起きてたなぁ」  顔を上げて汀の顔を見ると、チュッとキスをされた。 「身体大丈夫?しんどくないか?」  遥翔は再び汀の胸に顔を戻すと 「ん…大丈夫。優しくしてもらったから」  心まで満足そうに遥翔は目を瞑る。  あれからソファからお風呂にゆき、そしてまた今度はちゃんと布団を整えてからまたソファで…今までの思いを注ぎ込むように2人で抱き合った。 「無理させないように、って考えてたけど無理だった…」  遥翔の髪にキスをして、笑う。 「初めてでこんなに…するかな…」  困ったように遥翔は言うが、 「本当にそう思ってる?」  と顔を覗き込まれ 「もう!」  と起き上がった所を唇を塞がれた。 「俺はまだ足らない…」  体勢を変えられ下に敷かれると、もっと深いキスをされて肌が粟立つ。  まだ肌寒い3月。  布団の中の2人は、まだまだ熱い時間を過ごしそうだった。  確実に目が覚めたのは、もう夕陽が差し込む時間だった。  壁にかけられている時計を見ると、3時48分頃。3月の日の入りはまだ少し早い。 「え…朝だっけ…」  汀が腕の中の遥翔を起こさないように窓を見ると、夕陽ももう終盤な日差しである。 「あ〜夕方か…寝たなぁ…」  遥翔はまだ寝息を立てて安心したように眠っている。  汀はそのまま色々考える。  そしてニマニマしてしまう。  何をどう考えても可愛い遥翔しか思い浮かばなくて、ニマニマするしかない。 「あれ…今何時…」  ニマニマしているうちに遥翔も起き出して、モゾモゾし始める。 「4時になったとこ」 「え?朝?」  同じこと言うなぁと笑って 「いや、夕方の」  などと答えてやるが、その直後汀のお腹が鳴った。  昨日の夕方、遥翔の家に来る前に食べたきりだったスポーツ男子のお腹は、もうエンプティ寸前。 「あ、お腹すいたよね…ごめんね、なんか用意するね。なんだったら外に食べに行こうか?何ならデリバリーも…」 「もうちょっと抱いてたいけどなぁ」  慌てて起きる遥翔を引っ張って抱きしめる汀に 「流石にもうだめ」  と笑いながら腕から逃げて 「そんな空腹マンには何か食べさせないとだから。ちょっとシャワー浴びてくる」  やる事ができると、結構キビキビ動くのが遥翔だ。 「覚えとこ」  と 呟いて汀も浴室へ向かう。 「もうしないよ〜シャワー浴びるだけだからね。ご飯たべないt…んぅっ」  思いを重ね合った2人のこれからは…いかに?

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