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エピローグ ―フェリシュのつぶやき―
夜が明け、空がうっすらと金色に染まり始めた頃。工房の窓辺に、小さな羽音がひとつ響いた。
私――精霊フェリシュは真琴の肩に降り立ち、そっと寝顔をのぞき込む。頬には淡い赤みが残っていて、唇の端にかすかな笑みの跡があった。
隣では、リオンが静かに眠っている。金色の髪が窓から差す朝日を受けてやわらかく揺れ、指先は真琴の手とやさしく絡んでいた。
「ふふ……やっと、ひとつの形になったのだわぁ」
ふたりのまわりに、金色の光がほのかに揺れる。それは《パーフェクト・スイートセンス》――互いの心が共鳴し合う波長の証。
“甘さ”はもう、ひとりだけのものではない。心と心が寄り添うことで生まれる、世界でたったひとつの香り。
私はその香りを胸いっぱいに吸い込んで、ほんの少し目を細めた。
「ねえ、真琴。あなたがこの世界に来たとき、泣きそうな顔をしていたの、ちゃんと覚えてるわよ」
あの頃の彼は誰も知らない土地で、心の奥まで冷えていた。でも今はリオンの傍で、あたたかく笑っている。
チョコの香りが、朝の風に乗って流れていく。この香りを嗅ぐたびに、人々が少しでもやさしい気持ちになれますように。
それが、私にできる小さな祈り。手のひらをひらりと掲げ、小さな光の粒をひとつ放つ。それはふたりの頭上で弧を描き、淡い光の輪となって消えた。
「どうかこの甘さが、永遠に続きますように――」
背中で結んだリボンの羽音を残して、私はまた空へと舞い上がった。
王都の朝の光が、一面に広がっていく。屋根の上から見える人々の笑顔、焼き菓子の香り、鐘の音。そのどれもが、ひとつの“幸福”に繋がっている。
ああ、本当に不思議。“甘さ”って、こんなにも世界をやさしく変えるものなのね。
だから今日も私は、大きなリボンを揺らして見守る。チョコレートと恋の香りが溶け合う――そんな世界の朝が、今日も静かに始まっていくのだから。
☆このあと、番外編がはじまります。マジメな話からリオンの想いの重さに右往左往する騎士団、ふたりの結婚式(サイトによっては挿絵を挿入してお祝いします!)など盛りだくさん用意しますので、お楽しみください。
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