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番外編 仕事後、真琴に甘やかされて立ち直るリオン編

 あの日、団員の前で“威厳クラッシュ”したリオンは、そのあとずっと様子がおかしかった。  具体的に言うと――。 ・無言 ・動きが静か ・団員が話しかけると微妙に目をそらす ・遠くから僕を見ては、深いため息をつく  ……など、完全に落ち込んでいた。 (リオンって、こんなに分かりやすい人だったっけ……)  そして、勤務終了後。薄暗い廊下で、リオンは僕を見つけると立ち止まった。 「真琴……」 「お疲れさま」 「…………」 「えっ、なんでそんな目……」  リオンは、“怒られた犬”みたいにしょんぼりしている。 「……今日、私はその……仕事にならなかった」 「うん、見てた」 「団員の視線が痛くて……報告のたびに“デレてません?”と聞かれ……」 (……そんなこと聞かれてたの?)  リオンは壁に手をつき、俯いたまま掠れた声を漏らした。 「……威厳が……ない……」 「リオン……」 「真琴の前でだけ……つい……崩れるのは……自覚しているが……」 「うん」 「まさか、団全体に周知されるとは……」 (そりゃあれだけ、顔を真っ赤にしてたら……)  でも、ここまで落ち込むリオンを見ると胸が痛い。 「リオン、おいで」  両腕を広げて誘った瞬間――リオンがびくっとした。 「……“おいで”?」 「そう。ほら」  さらに腕を広げてみせる。するとリオンは一瞬だけ僕を見て、ほんの少し震え、それから抱きしめてきた。勢いではなく、迷いを含んだ弱い抱擁。 「……真琴……」 「ん?」 「……慰めてほしい……」  小さな声すぎて、胸がぎゅっとなる。 「うん。まかせて」  背中に手を回し、そっと撫でる。 「あのねリオン。リオンの“甘くなるところ”、僕は全部好きだよ」 「……っ」 「僕にだけ見せてくれるの……めちゃくちゃ嬉しい」 「それでも、団員の前では……」 「団員はね、リオンが“人間らしい”って喜んでるだけだよ?」 「……喜んで?」 「そう。誰からも尊敬されてて、騎士団一強くて完璧だから……むしろ“真琴殿の前では弱くなるんだ!”って、なんか温かい空気だったよ」 「あたたかい……?」 「うん。笑ってたけど、馬鹿にしてたわけじゃない。“副団長にもかわいいとこあるんだ”って、そんな感じに僕は見えていたよ」  リオンの肩から、少しだけ力が抜けた。 「……かわいい……と言われるのは……」 「嫌?」 「真琴に言われるのは……悪くない……」 (今の、めちゃくちゃデレてる……)  撫で続けていると、リオンの腕の力が強くなった。 「真琴の声は……不思議だな」 「どうして?」 「……聞いていると、悪かったものが全部……溶けていく」  強く抱きしめられたことでふたりの距離がなくなり、胸がドクンと跳ねた。 「もっと……聞かせてくれないか」 「なにを?」 「真琴が……私のことを、どう思っているのか……」  顔を上げたリオンは心細いくせに、僕にしか見せない甘い目をしていた。 (こんなの……反則だよ……) 「大好きだよ、リオン」 「……っ……!」 「強いところも、優しいところも、僕の前でだけ崩れちゃうところも……全部」  リオンの呼吸が震える。 「真琴……」 「団員の前で崩れるのは……ちょっとかわいすぎて困るけど」 「……う……」 「だけどそれも含めて……全部リオンでしょ?」  彼は目を閉じ、額を僕の肩に落とした。 「真琴が……そう言うなら……私は……もう……どうにでもなってしまう」  掠れた声が、耳のすぐそばで震える。そして、少し沈黙したあと――その腕が今までで一番甘く、強く、僕を抱きしめた。 「……今日は、帰りたくない」 「え?」 「真琴と……もう少し……こうしていたい」  耳まで真っ赤にしてそんなことを言うから、僕の心臓は完全にアウト。 「……いいよ。帰るまでずっと、甘やかしてあげる」 「真琴……」 「ふふっ。落ち込むリオンも大好き」 「…………」  その瞬間、リオンのデレが完全に溶け落ちた。  そして――。 「……好きだ……」  ほとんど吐息のような声で、僕の首元に落ち着くように顔を埋めて、甘く囁いた。 「真琴がいないと……私は立ち直れない……」  甘すぎて、足が震えた。

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