17 / 17

15.片思いのまま、貴方に抱かれて(★)

目を覚ますと――僕は、浴槽に浸かっていた。 ……おかしいな。 レイ殿の背中を流していたはず……なのに。 あれ? そういえばレイ殿は? 「あっ……」 いた。 レイ殿も変わらず浴槽の中。 膝立ちで僕を見下ろしている。 その瞳はどこか虚ろで、それでいて……冷たくて。 どうしたんだろう? 「っ!」 お尻に……何かが刺さっている。 穴の周辺と内側がじくじくと痛んで。 ――この感覚を僕は知っている。 2か月間、ずっと夢見てた。 でも、レイ殿は違う。 「ごめんなさい。僕はまた――」 「もう1人のお前、『ウィル』っていうらしいぜ」 『ウィル』それは――僕の愛称だ。 母様やゼフはもちろん、(あのひと) からもそう呼ばれていた。 「ヤツは入れ替わっても、意識を失わねえそうだ。俺の考察も、お前のことも……少なくとも、父親のことはよく知っているようだった」 なら、ウィルと名乗っているのかもしれない。 もう1人の僕は、嗜虐的(しぎゃくてき)な好色家。 (あのひと) のことを慕い、模倣しているのだとするとしっくりくる。 「男娼とは寝てなかったらしいな」 「えっ……」 背筋が凍る。 ああ、そうか。 ウィルが喋ったんだ。 僕とチャーリーの関係を。 「……ふざけやがって」 レイ殿の声に、明らかな失望が混じる。 思わず『自慰はしていました』と言い訳をしたくなった。 けど、それはダメ。 犯してしまった罪の重さを思えば、謝罪一択だ。 覚悟を決めて、頭を下げる。 「ごめんなさい。どうしても……出来なくて」 「次はねえからな」 僕にはそれが死刑宣告のように聞こえた。 次また不義理を働いたら、貴方はきっと――心を閉ざす。 もう決して、笑いかけてくれることはないだろう。 ~~っ、嫌だ! それだけは!! そんなの、絶対に耐えられないから……っ。 「……っ、わかり、ました。今度こそ、必ず」 返事が……ない。 聞こえなかったのかもしれない。 あまりにも小さな声だったから。 もう一度言わないと……なのに、思う通りにならない。 僕の全身がそれを拒む。 唇がわなわなと震える。視界も潤んで。 「……ごめ……なさい……」 ――貴方を好きになって。 「んぅ……!?」 突然、唇を塞がれた。 目の前には、灰色がかった黒い瞳がある。 「なんっ……あ゛っ♡」 キスをしたまま腰を打ち付けてくる。 僕は半ば溺れかけながら、浴槽の縁に縋り付く。 「ゲホ……っ、はぁ……ン……どう、して……あっ! あぁっ!!」 「……知るか」 こんなふうにされたら、期待してしまう。 もしかしたら、今後も貴方が、って。 「あっ! あぁあぁあン!!!」 痺れる箇所を何度となく(えぐ)られて、僕はあっさり果ててしまった。 溢れ出る吐息は、絶頂の余韻で(とろ)けている。 「バカ。声、抑えろよ」 「っ! すみません……」 そうだ。上にはユーリがいる。 こんな姿、絶対に見せちゃダメだ。 ――(あのひと) と同じになる。 ……レイ殿には、その気はない。 この行為に、愛はないんだから。 「……えっ? あっ……」 ヌルっと引き抜かれた。 終わり? かと思ったら、反対側の縁に寝そべり出す。 そんな彼の中心には、黒々としたそれがあった。 僕のとは違って、力強くそそり立っている。 「乗れ」 「???」 「分からねえのか? 騎乗位だよ」 「っ!!!」 顔がかぁーーっと熱くなる。 女性ならともかく、こんな大男が……? 「すみません。僕はその……見た目以上に重いと――」 「チンコは貸してやる。あとはテメェで勝手にやれ」 「……っ」 突き放された。 これ以上ないぐらいに。 ……ははっ、何を今更。 最初から分かっていたことじゃないか。 「……失礼します」 レイ殿の脚を(また)いで、黒々としたそれに触れる。 ……っ! 硬い。それに太い。 手の平がいっぱいになってる。 「ビビってんのか?」 「いっ、いえ! 直ぐに……っ、んん゛!」 ビキビキと嫌な音を立てながら、咥え込んでいく。お湯も一緒だ。 どっちも際限なく呑み込んでいく。 くっ、苦しい。お腹が破ける……っ。 「あの……肩に、触れても……?」 「……好きにしろ」 レイ殿の肩に手を置く。 キャラメル色の肌は、しっとりと汗ばんでいた。 不快感はまるでない。むしろ心地よくて。 叶うなら、このまま抱き締めさせて欲しい。 全身で貴方を感じたい。 そんな新たに生まれた我儘(わがまま)を、揺蕩(たゆた)う湯に浸す。 早く、溶けてなくなれ。 「挿り……ました」 「とっとと動け」 「はっ、はい……っ、あっ♡」 僕の浅ましさを、水音が形作っていく。 バシャ! バシャ!! バシャ!!! 水音はどんどん大きくなって……。 ああ、顔から火が出そうだ。 「チッ……とろくせーな」 「あ゛っ!? ふぅ……!!!」 下から突き上げられる。 途端に力が抜けて――気付けば僕は、レイ殿に(もた)れかかっていた。 「ん゛ふっ!?」 レイ殿の顔が、僕の剥き出しの胸に埋まっている。 しまった。早く離れないと。 そう思うのに、気ばかりが()って力が入らない。 「すみ、ませ――」 「……やってくれるじゃねーの」 怒ってる……ような気がする。 そうだよね。女性のものならまだしも、男の胸なんて。 「ごめんなさい。いま、直ぐ――っ!! んぁっ!!?」 中を抉られる。さっきよりも激しい。 やっぱ怒って……っ、ダメだ。大きな声、出ちゃう。 僕は力任せに唇を噛んだ。 果汁みたいに、じわっと血が溢れ出す。 「またテメェは。……チッ……」 「……?」 唇にレイ殿の指が触れる。 ……あの晩もそうだった。 「俺の指を噛め」って、そう言ってくれて。 「…………」 目を閉じて、レイ殿の指を受け入れる。 だけど、決して噛まない。 口端から、だらだらと唾液が零れ落ちていく。 「はっ……うぁ……はっ……はぁ……!!」 あ、ダメだ。これだと声が――。 「んぁっ!? んんっ……!」 指が引き抜かれた。 代わりに、また唇が重なり合う。 頭のうしろを押さえ込まれてる。 ――塞いでくれてるんだ。 「口、開けろ」 「? はい――っ!」 今「ぺろっ」て……。 舌を――舐められた? 「あっ、ふぅ……んぁっ……」 気のせいじゃなかった。 舌を舐められて、吸われる。 歯列も妖しくなぞられて。 どうしよう。ぞくぞく……いや、ぞわぞわする。 これって……感じてる、のかな? 「んんっ! んっ……ふぁ……ンッ♡」 濃厚なキスに呑まれながら、律動を受ける。 酸欠か、それとも快感からか、頭がぼーっとしてきた。 そのせいで、危うく口走りそうになる。 ――貴方が好きだって。 「……っ」 このままじゃ不味い。だから。 「んっ……はぁ……んぅ……ふぅ……ン……ッ」 僕もキスをする。 全部レイ殿の真似だ。 貴方が吸ったら僕も吸って、貴方が舐めたら僕も舐める。 僕は貴方しか知らない。 ……いや、知りたくない。 「レイ……っ」 衝動に抗い切れず、遂には――抱き締めてしまった。 満たされることはない。 それどころか、もっともっと欲しくなって。 「……ごめん、……なさい」 諦めきれない。 僕はやっぱり――貴方が好きです。

ともだちにシェアしよう!