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15.片思いのまま、貴方に抱かれて(★)
目を覚ますと――僕は、浴槽に浸かっていた。
……おかしいな。
レイ殿の背中を流していたはず……なのに。
あれ? そういえばレイ殿は?
「あっ……」
いた。
レイ殿も変わらず浴槽の中。
膝立ちで僕を見下ろしている。
その瞳はどこか虚ろで、それでいて……冷たくて。
どうしたんだろう?
「っ!」
お尻に……何かが刺さっている。
穴の周辺と内側がじくじくと痛んで。
――この感覚を僕は知っている。
2か月間、ずっと夢見てた。
でも、レイ殿は違う。
「ごめんなさい。僕はまた――」
「もう1人のお前、『ウィル』っていうらしいぜ」
『ウィル』それは――僕の昔の愛称だ。
母様やゼフはもちろん、父 からもそう呼ばれていた。
「ヤツは入れ替わっても、意識を失わねえそうだ。俺の考察も、お前のことも……少なくとも、父親のことはよく知っているようだった」
なら、あえてウィルと名乗っているのかもしれない。
もう1人の僕は、嗜虐的 な好色家。
父 のことを慕い、模倣しているのだとするとしっくりくる。
「男娼とは寝てなかったらしいな」
「えっ……」
背筋が凍る。
ああ、そうか。
ウィルが喋ったんだ。
僕とチャーリーの関係を。
「……ふざけやがって」
レイ殿の声に、明らかな失望が混じる。
思わず『自慰はしていました』と言い訳をしたくなった。
けど、それはダメ。
犯してしまった罪の重さを思えば、謝罪一択だ。
覚悟を決めて、頭を下げる。
「ごめんなさい。どうしても……出来なくて」
「次はねえからな」
僕にはそれが死刑宣告のように聞こえた。
次また不義理を働いたら、貴方はきっと――心を閉ざす。
もう決して、笑いかけてくれることはないだろう。
~~っ、嫌だ! それだけは!!
そんなの、絶対に耐えられないから……っ。
「……っ、わかり、ました。今度こそ、必ず」
返事が……ない。
聞こえなかったのかもしれない。
あまりにも小さな声だったから。
もう一度言わないと……なのに、思う通りにならない。
僕の全身がそれを拒む。
唇がわなわなと震える。視界も潤んで。
「……ごめ……なさい……」
――貴方を好きになって。
「んぅ……!?」
突然、唇を塞がれた。
目の前には、灰色がかった黒い瞳がある。
「なんっ……あ゛っ♡」
キスをしたまま腰を打ち付けてくる。
僕は半ば溺れかけながら、浴槽の縁に縋り付く。
「ゲホ……っ、はぁ……ン……どう、して……あっ! あぁっ!!」
「……知るか」
こんなふうにされたら、期待してしまう。
もしかしたら、今後も貴方が、って。
「あっ! あぁあぁあン!!!」
痺れる箇所を何度となく抉 られて、僕はあっさり果ててしまった。
溢れ出る吐息は、絶頂の余韻で蕩 けている。
「バカ。声、抑えろよ」
「っ! すみません……」
そうだ。上にはユーリがいる。
こんな姿、絶対に見せちゃダメだ。
――父 と同じになる。
……レイ殿には、その気はない。
この行為に、愛はないんだから。
「……えっ? あっ……」
ヌルっと引き抜かれた。
終わり? かと思ったら、反対側の縁に寝そべり出す。
そんな彼の中心には、黒々としたそれがあった。
僕のとは違って、力強くそそり立っている。
「乗れ」
「???」
「分からねえのか? 騎乗位だよ」
「っ!!!」
顔がかぁーーっと熱くなる。
女性ならともかく、こんな大男が……?
「すみません。僕はその……見た目以上に重いと――」
「チンコは貸してやる。あとはテメェで勝手にやれ」
「……っ」
突き放された。
これ以上ないぐらいに。
……ははっ、何を今更。
最初から分かっていたことじゃないか。
「……失礼します」
レイ殿の脚を跨 いで、黒々としたそれに触れる。
……っ! 硬い。それに太い。
手の平がいっぱいになってる。
「ビビってんのか?」
「いっ、いえ! 直ぐに……っ、んん゛!」
ビキビキと嫌な音を立てながら、咥え込んでいく。お湯も一緒だ。
どっちも際限なく呑み込んでいく。
くっ、苦しい。お腹が破ける……っ。
「あの……肩に、触れても……?」
「……好きにしろ」
レイ殿の肩に手を置く。
キャラメル色の肌は、しっとりと汗ばんでいた。
不快感はまるでない。むしろ心地よくて。
叶うなら、このまま抱き締めさせて欲しい。
全身で貴方を感じたい。
そんな新たに生まれた我儘 を、揺蕩 う湯に浸す。
早く、溶けてなくなれ。
「挿り……ました」
「とっとと動け」
「はっ、はい……っ、あっ♡」
僕の浅ましさを、水音が形作っていく。
バシャ! バシャ!! バシャ!!!
水音はどんどん大きくなって……。
ああ、顔から火が出そうだ。
「チッ……とろくせーな」
「あ゛っ!? ふぅ……!!!」
下から突き上げられる。
途端に力が抜けて――気付けば僕は、レイ殿に凭 れかかっていた。
「ん゛ふっ!?」
レイ殿の顔が、僕の剥き出しの胸に埋まっている。
しまった。早く離れないと。
そう思うのに、気ばかりが急 って力が入らない。
「すみ、ませ――」
「……やってくれるじゃねーの」
怒ってる……ような気がする。
そうだよね。女性のものならまだしも、男の胸なんて。
「ごめんなさい。いま、直ぐ――っ!! んぁっ!!?」
中を抉られる。さっきよりも激しい。
やっぱ怒って……っ、ダメだ。大きな声、出ちゃう。
僕は力任せに唇を噛んだ。
果汁みたいに、じわっと血が溢れ出す。
「またテメェは。……チッ……」
「……?」
唇にレイ殿の指が触れる。
……あの晩もそうだった。
「俺の指を噛め」って、そう言ってくれて。
「…………」
目を閉じて、レイ殿の指を受け入れる。
だけど、決して噛まない。
口端から、だらだらと唾液が零れ落ちていく。
「はっ……うぁ……はっ……はぁ……!!」
あ、ダメだ。これだと声が――。
「んぁっ!? んんっ……!」
指が引き抜かれた。
代わりに、また唇が重なり合う。
頭のうしろを押さえ込まれてる。
――塞いでくれてるんだ。
「口、開けろ」
「? はい――っ!」
今「ぺろっ」て……。
舌を――舐められた?
「あっ、ふぅ……んぁっ……」
気のせいじゃなかった。
舌を舐められて、吸われる。
歯列も妖しくなぞられて。
どうしよう。ぞくぞく……いや、ぞわぞわする。
これって……感じてる、のかな?
「んんっ! んっ……ふぁ……ンッ♡」
濃厚なキスに呑まれながら、律動を受ける。
酸欠か、それとも快感からか、頭がぼーっとしてきた。
そのせいで、危うく口走りそうになる。
――貴方が好きだって。
「……っ」
このままじゃ不味い。だから。
「んっ……はぁ……んぅ……ふぅ……ン……ッ」
僕もキスをする。
全部レイ殿の真似だ。
貴方が吸ったら僕も吸って、貴方が舐めたら僕も舐める。
僕は貴方しか知らない。
……いや、知りたくない。
「レイ……っ」
衝動に抗い切れず、遂には――抱き締めてしまった。
満たされることはない。
それどころか、もっともっと欲しくなって。
「……ごめん、……なさい」
諦めきれない。
僕はやっぱり――貴方が好きです。
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