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18.もう一人の僕からも愛されて(★)

「あっ! ゼフ、や……めっ……」 後ろから容赦なく突かれる。 視界が上下に揺れて、僕の体はみるみる内に沈んでいく。 「あっ、あっ、あっ、あ゛っ!!」 遂にはうつ伏せの状態に。 それでもゼフの猛攻は止まず、激しく的確に急所を突いてくる。 どうして君がそこを……? 僕は本当に君とも……? いや、そんなはずはない。 「やめ、るんだ! 君には――」 「なぁ、俺とのことも忘れちゃったのか?」 「っ! 君は……」 甲冑姿の大柄な男性。 青みがかった黒髪に、瑠璃色の瞳をしている。 間違いない。アーサー・フォーサイス。 僕の親友で、ハーヴィー様のご子息だ。 彼も亡くなったはず。 半年前に、僕のせいで。 「ん゛んぅ……!」 「こんなふうに慰めてくれただろ? なぁ……?」 口の中にペニスを押し込んでくる。 限界まで開かされて、口端からはボタボタと唾液が零れ落ちていく。 「思い出してくれよ、ビル。忘れたなんて、そんな寂しいこと言うなって」 「んん゛っ! んっんっ!!」 僕の髪を掴んで、腰を前後に動かす。 喉の奥まで入りかけて、反射的にえずいた。 けれど、止まらない。 アーサーは悲し気な表情のまま、腰を振り続けている。 「へへっ……よ~し。受け取れよ、俺らの愛をた~っぷりとな♡」 「んん゛! んんんん!!!」 上と下で同時に弾ける。 彼らの熱が、僕の中に広がっていく。 「ガハ……ッ……ゴホっ……」 激しく咳込みながら、口の中の子種を吐き出す。 黒い床に白濁した体液が広がっていった。 この床、よく見たらガラスで出来ているのか。 向こうにあるのは……黒い水? 静かに波打つ湖面が、果てしなく広がっている。 真っ黒で底が見えない。 本当に不思議な場所だ。 死んだはずの二人が現れたり……ここは一体……? 「っ!」 そうだ。思い出した。ここは僕の潜在意識の中だ。 つまりは、ゼフもアーサーも幻。 ウィルだ。彼が仕掛けてきてるんだ。 「思い出したか?」 ゼフの幻が囁きかけてくる。 腹が立ってきた。これは死者への冒涜だ。 「ウィル、いるんでしょ? いい加減にして。僕はもう騙されないよ」 「騙す? はっ、何言ってんだ? さっきのは、ぜ~んぶお前の記憶の再現だよ」 ゼフの姿が変わっていく。 白いチュニックに、オリーブのパンツ。 垂れ目に、萌黄色の瞳、そして分厚い下唇。 僕だ。僕とまったく同じ姿をしている。 彼は僕の分身なのだと、否応なしに痛感した。 気付けば、アーサーの幻も消えている。 残ったのは僕とウィルだけだ。 「バカ言わないで。僕は絶対に、ゼフともアーサーともしてない。だって、彼らには――」 「愛する人がいたから」 「っ! ……知ってたの」 「俺はお前のことなら何でも知ってるよ。お前が忘れたことまで、全部な」 ウィルが圧し掛かって来る。 髪に顔を埋めて、耳元でちゅっとキスをしてきた。 僕は堪らず肩を竦めた。 抵抗したいけど……っ、ダメだ。体が動かない。 「どっちも『道ならぬ恋』にのめり込んでたよな。会いたい時に会えなくて、フラストレーションを溜めに溜めまくってた。だから、……ははっ、笑えるぐらいチョロかった。ぶつぶつ言い訳しながら、お前を抱いた。何度も、何度も」 「あり得ない。僕が誘ったところで、鼻で嗤われるだけだよ」 「何だそれ? 自虐か?」 ある意味そうかも。 それだけ彼らは夢中で、必死だった。 僕はそんな彼らをずっと見てきた。 だから、知ってる。断言出来るんだ。 「ゼフもアーサーも、すべてを背負う覚悟でいた。もしもの時には、地位も名誉もすべて捨てる覚悟でいたんだ。そんな人達が、僕なんかの誘いに乗るはずがない」 「自信満々だな。証拠もねえくせに」 「うん。ないよ。けど、それでも僕は信じてる」 ウィルと視線を交わす。 鼻と鼻が触れ合う程の至近距離で。 僕と同じ萌黄色の瞳が、すーっと細くなる。 嘲笑されるのかと思った。 けど、浮かんできた笑みは思いのほか爽やかで。 「ははっ! 流石に無理筋だったか」 「……やっぱ、嘘だったんだ?」 「ああ。アイツ等とは寝てねえ。全部、あのオッサンが初めてだよ」 「そっ、そう! 良かった……」 ほっと胸を撫でおろす。 安心したら涙が出てきた。 ウィルに気付かれないように、それとなく目元を拭う。 「そんなにコイツがいいわけ?」 立ち上がるウィル。 その隣にレイ殿が現れた。 いや、レイ殿の幻か。 黒髪の坊主頭で、馴染みの黒の皮装束姿。 灰色がかった黒い瞳は、真っ直ぐに僕を見つめていた。 幻だと分かっていてもドキドキする。 困るな。ウィルの前なのに。 小さく咳払いをして立ち上がる。 いつの間にか、ズボンも穿かされてた。 ほんと不思議な空間だな。 「んだよ。勿体ぶってねえで、さっさと答えろよ」 「……うん。レイ殿がいい。一緒に生きたいと思ってる。どんな形でもいいから」 「ふーん。じゃあ、コイツが死んだら?」 想像しかけて、慌てて消し去った。 弱気になるな。気を強く持て。 「させないよ。僕が絶対に守る」 「全員死んだぞ」 「……っ」 「一人も守れなかったじゃねえか」 足元にゼフとアーサーの死体が現れる。 彼らを皮切りに、他の仲間の死体も。 その中には、護衛任務で一緒人になったジルさん、モリーさんのものもあった。 「……確かに守れなかった。けど、今度は――っ!」 魔物だ。例の人型の魔物。 レイ殿の後ろで構えている。 助けに行きたいのに、体が動かない。どうして!? 動け、動け、動け……!!!! 「ごふっ……はっ……」 「レイ殿!!!!!!!!!」 レイ殿の胸を、魔物の腕が貫いた。 真っ赤な血がレイ殿の口から吹き出す。 「あっ……、あっ……ああぁあああ!!! 」 堪らず叫んだ。 落ち着け。あれは幻だ。 レイ殿は生きてる。生きてるんだ。 必死にそう言い聞かせる。 なのに、涙が止まらなくて。 「分かっただろ? お前じゃレイは守れない。みすみす死なすだけだ」 「違う。今のも君が……っ、君が、僕の動きを止めたんでしょ?」 「あの魔物はお前の『希死願望』を具現化したものだ。お前は未来(レイ)じゃなくて、死を望んだ。だから、動けなかったんだよ」 「違う……っ、違う!!!」 子供のように泣き叫ぶ。 そうしたら――。 「っ!」 不意に抱き締められた。ぎゅっと正面から。 訳が分からずウィルの方に目を向けると、一層強く抱き締められる。 「分かっただろ? お前はもう限界なんだよ」 「そんなことない。僕はまだ――」 「お前が呼んだから、俺はここにいるんだぜ」 「えっ……?」 「殺してくれって、そう言っただろ?」 確かに僕は願った。 『誰か、誰か僕を……殺して』と。 「……僕を殺して、君が僕になるってこと?」 「いいや。俺も一緒に逝くよ」 「どうして?」 「愛してるから」 「っ! でも、君は僕の――」 「ははっ……おかしいよな。自分で自分に恋するなんて。でもさ、俺は本気なんだ。お前のためなら、俺は……」 押し倒された。 見上げれば、萌黄色の瞳がゆっくりと近付いてくる。 酷く真剣に、それでいてどこか懇願するような目をしていた。 彼は本気だ。そう思えた。 だけど……唇が触れ合うその直前で、僕は顔を逸らしてしまう。 「つれねえな」 「……ごめん」 ウィルは微苦笑を浮かべて、僕の額に口付けた。 慈愛に満ちたキスだった。 おでこをそっと撫でるような、そんなキスで。 「あっ……」 沈んでいく。ガラスの床を破って反対側へ。 真っ黒で、やわらかな水に包まれていく。 気持ちいい。心が安らぐ。 たぶん、この先には僕がずっと求めていた世界が。 何ものにも縛られることのない……そんな世界が広がっているんだろう。 だけど――。 レイ殿の笑顔が頭を過る。 呆れ半分に、片側の口角だけを持ち上げて笑うあの笑顔が。 その眼差しは泣きたくなるぐらい穏やかで、心地よくて。 ――貴方と生きたい。これから先もずっと。 「っ、ごめん……」 「怖いか? 大丈夫だ。俺がいる――」 「まだ、逝けない」 「……は?」 「君の言う通り、僕はもう限界なのかもしれない。……でも、最後にもう一度だけ。もう一度だけ、頑張らせてほしい。初めてなんだ。初めて……守って生きたいと思える人に出会えた。だから……っ」 直後、強引に引っ張られた。 目を開けると、そこには黒い皮の装束が。 見上げれば豊かな顎髭と、怒りを湛えた黒い瞳があった。

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