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22.十年後とその後の僕ら
十年後。
僕とレイは、変わらず人里離れた山小屋で暮らしていた。
お互いそれなりに年を取ったけど、服装はまるで変わってない。
僕は白のチュニック、オリーブのパンツ、茶色のブーツ。
レイは黒の革製のジャケット、パンツ、ブーツスタイル。
一見すると、生活も容姿もほとんど変わっていないように思える。
だけど、一つだけ大きく変わったことがある。
ユーリがいない。
彼はつい先ほど、この家から巣立っていった。
ユーリは持っていた夢をすべて叶えた。
勇者になって、魔王を倒して、そして初恋の人を――エレノア様を救い出した。
エレノア様の家の婿養子になったから、この家で暮らすことはもうないだろう。
「寂しくなるね」
リビングに置かれたテーブル。
そこには三つの椅子が並んでいる。
左手前の席は、ユーリの席だった。
一緒に食べるようになったのは……十年前、ウィルと対話した日からだ。
『元気になったんだな!』って、何度も何度も喜んでくれて。
懐かしいな。何だか目尻が熱くなってきた。
僕もすっかりおじさんだな。
「はっ、清々するぜ」
同じように、涙ぐむおじさんが一人。
こっちはてんで素直じゃない。
やれやれと苦笑しつつ、後ろからぎゅっと抱き締める。
レイは抵抗しなかった。
ふふっ、やっぱり寂しかったんだね。
「ミシェル様からは、あと一人二人後継を育ててほしいって言われてるけど?」
「ガキはもう御免だ」
「もうこんな思いは沢山だもんね?」
「あ゛?」
「ははっ、ごめんごめん」
何て言いながらも、僕もやっぱり寂しくて。
レイの目尻にそっとキスをする。
「ンなことより、猫飼うぞ」
ユーリの夢の達成と共に、僕らの敵討ちも果たされた。
加えて、魔王を倒したためか魔物の数も激減。
この人里離れた森の中でも、ほとんど見かけなくなった。
国の立て直しも順調だ。
悪王の無血退位にも成功して、新たな国王とミシェル様のご指導のもと、王国は輝かしい未来に向かって歩みつつある。
僕らの役割はもうほとんど終わったようなものだ。
セカンドライフに乗り出しても、問題はないだろう。
「ねえ、二匹飼おうよ。僕にも一匹選ばせて」
「は? にわかが出しゃばるんじゃねえよ」
「そうだな~、ん~……あっ! 茶色っぽい猫にして、『ウィル』って名前にするのは――」
「ざけんな。ンな猫、どーやって愛でろってんだ」
「普通に可愛がればいいじゃない」
「無理だ。却下」
「んぅ~……じゃあ、白猫にして『ユーリ』って名前にしようか」
「本末転倒じゃねえか」
「えぇ~?」
「? 何だよ?」
「猫を飼いたくて、ユーリのこと頑張って育ててたんじゃなかったっけ?」
「っ! ……るせ」
そうやって年甲斐もなくイチャイチャしていく。
僕は今年で三十歳、レイは三十九歳。
自分で言うのも難だけど、ラブラブだ。
落ち着く気配はまるでない。
いい意味で予想が外れた。
何とも喜ばしい限りだ。
「だぁ~~!! うっせぇ!! 犯す!!」
「わっ! ふふっ、もう……」
ふわふわと宙に浮かされる。
こうなると、レイを殴るか蹴るかしないと降りられない。
まぁ、いいか。僕もしたかったし。
「痛っ……」
「嘘つけ。このゴリラが」
寝室のベッドに落とされる。
文句を言う間もなく、レイが覆い被さってきた。
しれっとダブルベッドになっているのは、ユーリも公認の仲だからだ。
『俺も、もう十四だぜ? 流石に、その……分かってるからさ。地下室でこっそりとか、もうそういうの止めろよ。俺は気にしないからさ!』
『随分と物分かりがいいじゃねえか』
『そりゃ、俺だって……こぃ……してるから――』
『っ! おい、ユーリ。テメェまさか……ビルの声でシコる気なんじゃ――』
『バカ!! 俺はエレノア一筋だっての!!!!』
そんなやり取りもしたっけ。
物凄く居た堪れなかったけど、それ以上に嬉しかったな。
因みにこのベッドは二代目で、ユーリがプレゼントしてくれたものだ。
飾り気はないけどとても丈夫で、大の大人の僕らが抱き合ってもほとんど軋まない。
「んっ……」
レイの手が僕の胸を揉み込む。
服の上から、ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっと。
褐色の指の隙間が、僕の白い胸で満たされていく。
「もっ……痕……」
「これからは消す必要もねえ。消えたら直ぐ付けてやる。覚悟しとけ」
そう言って、首にじゅーっじゅーっと吸い付いてくる。
何だか吸血鬼みたいだ。
この途方もない独占欲も、今では可愛く思える。
小さく笑いながら、手触りのいい黒い坊主頭を撫でていく。
そうしてそのまま、首を左に傾けると――。
「あ……。ははっ! レイ、見て」
レイの枕の上に、一枚のカードが置かれていた。
僕はそれを手に取ってレイに見せる。
「『やり過ぎ注意。先生のこと、ちゃんと大事にしろよ』……だと? ~~んのガキぃ……」
レイはカードを手に取ると、ビリビリっと容赦なく破り捨ててしまった。
バラバラになったカードが、花びらみたいにひらひらと舞い落ちていく。
「酷いな」
「必要ねえだろ。書いてること、全部的外れなんだからよ」
「そうかな?」
「そうだろ?」
至近距離で見つめ合って、ふっと笑い合う。
「あ゛~興ざめだ。寝るっ」
「反省したんだ?」
「興ざめだっつったろ」
レイは忌々し気に溜息をついて、僕の横に寝転がる。
そのままぎゅっと抱き締めてきたから、気持ちの赴くまま彼の胸に顔を埋めた。
ねぇ、ウィル。僕は君に恥じない生き方が出来てるかな?
表に出てきていないあたり、安心してくれていると思いたいところだけど。
「レイ、改めてよろしくね」
「当たり前だ。浮気なんてしやがったら、雷落としてやるからな」
「ははっ、分かってるよ」
これから先も生きていく。
のんびり、ゆったりと。
猫ちゃんも迎えて、二人と二匹とで。
……そう思ってた。
けど、十年後僕らは何と『親』になる。
僕らの因子を継いだ、人造人間 の双子の兄弟。
後継者問題の打開策として、ミシェル様の主導のもと生み出された命だ。
レイ似のキリっとした顔立ちで、体の色は全部僕譲り。
僕らの血を色濃く感じさせる子供達だ。
だけど、魔物の血や骨、臓器を使って生み出された彼らは、果たして人間なのか?
僕とレイは親として、その議論の中心に立って戦っていくことになるんだけど……それはまた別のお話。
fin
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